1995年警察庁長官狙撃事件の真相 毎日新聞
1995年、国松警察庁長官が何者かによる銃撃を受け、重傷を負う事件がありました。当時はオウム真理教による一連の犯罪が社会を震え上がらせており、国松長官狙撃もオウム真理教関係者による犯行との見方が主流であり、要人へのテロを警戒・捜査する警視庁公安部が主導して捜査チームを結成。オウム真理教の在家信者である警視庁の巡査長が容疑者として浮上したため、警視総監が責任を負って辞任する事態にもなったのですが、結局はこの巡査長を犯人と断定するには至らず、時効を迎えています
時効成立後、警察側が「犯人を逮捕できなかったがここまで捜査をし真相に迫った」とする内容の記者会見を行い、世間を驚かせました
しかし、毎日新聞によれば「犯行はオウム真理教とは無関係の、一匹狼のテロリストによる犯行だった」とする記事を掲載していますので、取り上げます
(前略)
長官狙撃事件は、オウム真理教の信者による地下鉄サリン事件から10日後の95年3月30日朝に発生。警視庁は公安部主体の捜査本部を設置し、教団による組織的テロとみて捜査を進めた。これに対し、捜査1課を中心とした刑事部は、01~02年に大阪市と名古屋市で発生した現金輸送車襲撃事件で逮捕され、強盗殺人未遂罪で無期懲役が確定した中村泰(ひろし)受刑者(92)の関与を疑った。しかし、立件には至らず、10年3月30日に当時の殺人未遂罪の公訴時効(15年)を迎えた。
複数の捜査関係者によると、警視庁は長官狙撃事件の時効まで2年を切った08年5月、中村受刑者を本格的に取り調べるため、刑事部と公安部から捜査員を集め10人程度の特命捜査班を発足。受刑者は任意の事情聴取に「国松元長官を銃撃した」と「自白」し、特命班は事件に使われたとみられる拳銃と同型のものを受刑者が87年に米国で購入していたことなどを裏付けた。
一方、中村受刑者は「現場の下見や逃走などで支援役がいた」とも供述したが、支援役が誰かは「同志を売ることはできない」と明かさなかった。受刑者にはオウム真理教との接点はなく、教団によるテロとの見立てを維持する捜査本部からは特命班に「支援役の割り出しができなければ受刑者の逮捕は認められない」との条件が出された。
特命班は受刑者の交友関係を洗い出す中で元自衛官の男性を割り出し、10年2~3月、男性から複数回任意で事情を聴いた。男性は逃走支援を含む一切の関与を否定し、特命班は時効までに支援役を特定できなかった。
毎日新聞は19年9月、記者が別事件の取材で知り合った元自衛官の男性から、かつて長官狙撃事件に関連して警視庁の聴取を受けたことを明かされたことから狙撃事件の取材を開始。男性は22年4月、初めて中村受刑者を「狙撃犯」とした上で「5万円で運転を頼まれた」などと具体的な証言をした。
証言によると、男性は高校中退後に入隊した自衛隊を約10カ月で辞め、93年6月に旅行で米国に渡航。ロサンゼルスで受刑者と知り合って連絡先を交換し、同年8月に帰国した後も日本で親交を続けた。
95年3月、受刑者と連絡を取り合う中で「3月30日に5万円で運転を手伝ってほしい」と頼まれ、当日朝にJR西日暮里駅で合流して5万円を受領。受刑者が準備した軽乗用車で狙撃事件の現場から南西に約700メートルのNTT荒川支店の駐車場に移動した。受刑者は「人と話をしてくる」と言って車を降り、約1時間後に戻ってきたという。その後、車で西日暮里駅まで受刑者を送って同駅近くの駐車場に止め、その日の夜に新宿で再び受刑者と会って車の鍵を返したと話した。
男性は当時、何のための運転なのか知らされず、約1年8カ月後の96年11月ごろ、中村受刑者から「あの時に警察庁長官を撃った」と伝えられたという。受刑者も男性もオウム真理教とは無関係としている。受刑者はかつて56年に警察官を殺害した殺人罪で約18年間、刑務所に服役した経歴がある。受刑者は男性に長官狙撃の動機として「警察に恨みがあった」と語ったという。
(毎日新聞の記事から引用)
中村受刑者は中国・満州の生まれで、苦学して東大に進み、その後は革命を目指して反政府活動を展開。革命のための資金調達として侵入盗や強盗を繰り返しています。警察官を射殺した殺人罪で無期懲役判決を受け千葉刑務所に服役していましたが、18年ほど収監された後に仮釈放となっています。この仮釈放がなぜ実現したのか、よく分かりません。ただ、中村受刑者の仮釈放の数年前、沖縄の本土復帰に絡んで恩赦が行われており、一定期間服役した者の中で行刑成績の良好だった受刑者(服役中の態度が良好な者)を積極的に仮釈放させた可能性も考えられます
ともあれ、公安部主導の捜査本部は「国松長官狙撃は警察の目をオウム真理教から逸らそうとする教団の犯行」との考えに執着し、中村受刑者犯行説に懐疑的だったわけです。結果として見当違いな捜査で時間を無駄にしたことになるのか?
中村受刑者は92歳で存命ですが、時効も成立していますのでいまさら訴追できません
警察は組織のメンツにかけて、オウム真理教犯行説を取り下げないままなのでしょう。実に愚かな判断です
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