教師による34年前の性暴行訴え勝訴

性暴力の被害に遭っても様々な事情から被害届を出せず、そのうち刑法上の時効(強制性交罪なら10年、強制性交致傷罪なら15年)を過ぎてしまうケースは少なくないのでしょう。民法上の不法行為による損害賠償請求の時効も20年であり、それを経過してしまうと法的な手段で性犯罪者に制裁を加えるのはほぼ不可能です
しかし、特殊な事例ながら34年前に教師から受けた性暴力に対し、裁判の場で闘い勝訴したケースを取り上げます


中学時代の3年間、担任だった男性教師から性暴力を受け続けた栗栖英俊さん(45)。すでに時効を迎えているにもかかわらず、被害の事実を認定してほしいと、34年経った昨年、独力で提訴し、勝訴を勝ち取ったという。なぜ、いま孤独な戦いに挑んだのか? 時事YouTuberでお笑いジャーナリストのたかまつななが聞いた。
股間を触られ、キス、さらには…
――性暴力を受けるようになったきっかけは?
中学1年の2学期のことでした。担任で所属していたバレー部の顧問でもあった先生から股間を触られたんです。そのうち、キスされるようになって、最終的にはフェラチオまでされるようになりました。
――抵抗できなかった?
股間を触るのをやめてと言うと、『オレの言うことを聞けないのならクラスを出て行け、バレー部の練習も参加させない』と凄まれてしまって。やさしいと思っていた先生がいきなりそんな風に豹変し、パニックになって、どうしたらいいかわからなくなってしまったんです。
――周囲に助けを求めることもできなかった?
放課後に1時間くらい残されて、友だちの悪口を無理やり言わされるんです。それで早く帰りたい一心から『〇〇君にはこんな問題がある』と話すと、今度はその生徒を呼び出して『栗栖がお前の行動に問題があると言ってるぞ』と告げ口する。当然、その友人と私はギクシャクした関係になりますよね。そうして私を孤立させ、助けを求められないような状況に追い込むんです。
束縛もすごかった。毎朝のホームルームでふたりにしかわからない『愛のサイン』を要求するんです。あと、付き合う友人や話をしてもいい教員もすべて指定されました。要するに『オレに反感を抱く生徒や教員とは口をきくな』ということなんです。まるで監視されているようで、毎日が苦痛でした。
(中略)
職員室で「助けて!」と泣きじゃくった直後、先生に校舎の昇降口で下着を脱がされたんです。しかもゴムの部分にカタカナで「クリス」と書くように強要されました。そして、『この下着があるかぎり、おまえはオレの言いなりになるしかない』と脅かされた。目的は私の口封じでした。
性暴力を受けたことに対する損害賠償請求はとっくに時効が成立しています。でも、所有権には消滅時効はかからないと大学(法学部)の授業で学んだことを思い出し、下着を返せと訴えることにしたんです。
裁判では下着を奪われた経緯についての事実認定が行われますから、その過程で私の性被害――キスやフェラチオを強要されたことが認定される可能性が高いと考えました。
――その結果、判決では加害者について「原告に対して同性間の性的行為、キス、フェラチオの行為を求めるようになった」、また栗栖さんについても「原告の性的嗜好は異性愛」、「高校進学後、PTSD、ストレス障害または適応障害などに似た精神の病的症状を呈するようになった」との認定が下されました。
(以下、略)


訴訟の詳細は記事に書かれていないため、実際にはどのような展開だったのか不明です。弁護士を立てず、本人訴訟で訴え出たのですから、相当の決意だったと思われます
民事訴訟では原告の訴えを客観的に証明する物証はなくても、被害を受けた状況を克明に証言できればそれを裁判官が判断し、事実認定が下されます。結果としては、元教師による加害の実態を裁判所が認めたということで実質的な勝利です。下着の返還を求めるという奇抜な手ですが、裁判官がその請求の背後にあった元教師の性暴力をきちんと理解してくれたのでしょう
下着は元教師が廃棄してしまったのかもしれません。であれば、その代価相当額(数百円)を支払うことで決着したものと思われます。それでも元教師に対して一撃を加えることはでき、自分が被害者だったと立証できたわけです
ただ、元教師による性暴力の結果、PTSDやストレス障害が発症したのが高校進学後ですから、民法の不法行為の時効(20年)が成立しており、損害賠償請求はできなかったのでは?
訴訟の結果が記事には明確に書かれていないので、よく分かりません。元教師と表記したのは、34年を経て定年退職しているだろうと思ったからです。もし、定年退職前にこの判決が出たのなら、判決文をもって教育委員会に掛け合い、教師に対して懲戒処分を求めることも可能です。34年前の性暴力事件であっても、公務員が現職である限り非違行為について責任を問われます。この内容であれば懲戒免職処分が相当でしょう
ともあれ、性犯罪者をのさばらせてはいけないとの思いが通じた事案です

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