名古屋夫婦強盗殺人 やり直し裁判の争点
近所に住む老夫婦を殺害して現金入りの財布を奪ったとして1審で無期懲役判決を受けた山田(旧姓松井)被告は、末期のガンを患っています。1審判決が殺人罪と窃盗が成立し、強盗殺人ではないと判断した点を控訴審である名古屋高裁が批判し、差し戻しを決定しました
その差し戻しの裁判が始まり、検察はあらためて強盗殺人罪として死刑を求刑しています
判決は3月2日に言い渡されるのですが、その前に検察と弁護側の主張を整理しておきます
■検察側vs弁護側 主張の違いは?
続けて論告。検察側は改めて犯行には「強盗目的」があったと主張した。その根拠として主に以下の3点を挙げた。
1.大島さん夫妻を殺害した後、直ちに物色して財布を持ち去った。
2.山田被告が金銭的に困窮し、借金やツケの支払いを気にしており、犯行後まもなくツケの支払いをした。
3.山田被告は大島さん宅に金品があると思っていた。
これらの事情を総合的に考慮し、そもそも山田被告が包丁を持って自宅を出た時から、2人を殺害して金品を奪う「強盗殺人」の意図があったと指摘した。
さらに検察側は、弁護側が主張する犯行の動機についてバッサリと切って捨てた。
これまでの裁判で弁護側は、パチンコに負けての帰路で大島たみ子さんから「仕事をしていないのにいいご身分ね」などと言われて怒りを覚えたのが事件のきっかけだと主張している。
検察側はこの主張に対し真っ向から反論した。
山田被告の供述が自身の心境や行動と一致しておらず、たみ子さんの発言自体があったのかどうか信用できないとしたのだ。
その理由として
・パチンコに負け自己嫌悪やいらだちの中で、親しくもなく、背を向けていたというたみ子さんに山田被告が自分から声をかけて止まって話すとは考えがたい。
・たみ子さんが何をしていたのかまったくわからない上、山田被告と認識して嫌みを言う関係性でもないし必要もない。山田被告が犯行時点でも仕事をしていないと、たみ子さんが認識している根拠がない。
・たみ子さんに対する怒りが動機であれば、克夫さんに対する攻撃を合理的に説明できない。(山田被告はたみ子さんより先に克夫さんを攻撃。さらに、たみ子さんを攻撃した後に改めて克夫さんを攻撃している)
などとし、動機に関わる山田被告の供述はそもそも信用できないとした。
さらに、仮に実際に言葉のやり取りがあり、たみ子さんに対する怒りの感情があったとしても強盗目的を否定する事情にはならないとした。
■弁護側「軽度知的障害の影響が大きい」
翌日、検察の論告に反論する形で弁護側の意見陳述が行われた。
弁護側は「山田被告には軽度の知的障害がある。犯行の根っこの部分は知的障害につながっている」と力説した。
山田被告は軽度知的障害の影響で短絡的・衝動的な行動を取ることが多く、行動を抑制する能力が低いという。
事件直前にたみ子さんから嫌みを言われ衝動的に殺害を思い立ったが、軽度知的障害の影響で「金をとる目的は同時に持てない」と訴えた。
短絡的・衝動的な行き当たりばったりの犯行で、山田被告には「強盗目的」や計画性は全くなかったとの主張だ。
「強盗目的」がないとする傍証として、弁護側は以下を主張する。
・事件当日にパチンコで6万円浪費したのは事実だが、手元には5万5000円ほど持っていた。
→強盗殺人するほど困窮してたわけではなく、翌日またパチンコに行って取り戻すつもりだった。
・借金とツケの合計は6万6000円。
→これまで支払いを催促されたことはない。
・山田被告は最初から一貫してたみ子さんの一言で怒りを覚え、殺害した後に財布をとったと証言している。
→軽度知的障害の影響で、怒りを晴らす目的と同時にお金を奪う目的を持つのは難しいと精神科医が証言している。
これらのことから、この事件は怒りを晴らすのが目的の犯行であり、「強盗目的」はなかったとして「無期懲役」の判決を求めた。
(CBCテレビの記事から引用)
前回、当ブログでも指摘したように被害者である大島さんは近隣に住むとはいえ、山田被告の私生活(交通事故の後遺症があり、働けないとの理由で生活保護を受給しながらパチンコ三昧の生活をしていた)を知っていたかは疑問であり、「仕事もせず昼間から遊んでいい身分ね」と皮肉を言ったとは思えません
検察が山田被告の主張に疑問を投げかけるのはもっともです。山田被告が自身が「侮辱されたからやった」と説明したのか、あるいは虚偽の話をでっち上げたのか?
ただ、これもブログに繰り返し書いているのですが、殺害の動機や殺意の有無、強盗する意志の有無など、外部から見えないものを裁判の判断基準にすること自体、どうかと思ってしまいます。本件も殺害して金を奪ったのですから、形としては強盗殺人です。被告の動機がどうあれ、結果に対して責任を問えば十分ではないのかと考えます
殺意があろうとなかろうと、結果として命を奪ったのであれば殺人として処罰すればよいわけで
日本の司法が上記のように殺意の有無とか、強盗する意志の有無とか、わいせつ行為をしようとする意志の有無とか、そんなものに執着して裁こうとするのは間違いであり、結果を見て判断するよう改めてもらいたいものです
ナイフで滅多刺しにしておいて、「殺すつもりはなかった」という主張に耳を貸す必要があるのでしょうか?
なお、上記の事件では老夫婦2人を殺害しているのですから、殺人事件として扱ったとしても死刑が相当であり、山田被告の死刑を回避するだけの特別な理由があるとは思えません(ここでまた、死刑にするための永山基準とか持ち出すのは止めてもらいたいところです。永山基準は1983年に永山則夫に死刑を言い渡すため設けられたものであり、もう40年前の遺物です。現代の感覚に合わせた新たな基準をなぜ裁判所は設けないのか疑問です)
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