名古屋刑務所暴行事件を考える1 地獄のメイケイ

気が重いのですが、取り上げないわけにはいきません
刑務所というのは世間一般の方には縁のない場所で、たまにテレビで放映される「刑務所24時」など特番を目にするくらいでしょう。それでも画面を通して異様な雰囲気を感じる方が少なくないと思います
自分は法務省の元職員として幾つかの矯正施設に勤務していましたので、刑務所や拘置所の中身を知っていますし、そこで勤務する刑務官の知っています。そこで今回の名古屋刑務所における暴行事件です。実際に何があったのかは報道されている話しか分からないのですが、過去に自分が目にし耳にした情報を交えて書きます。名古屋刑務所は出張で訪れた経験がありますが、勤務したことはありません


「名古屋刑務所」暴行事件 発覚50日前に“スクープ”したYouTube動画と「地獄のメイケイ」刑務官“暴力性”の特殊事情
名古屋刑務所で起きた受刑者に対する暴行事件の詳細が徐々に明らかとなり、事件の“暗部”が深みを増している。しかし、いまだどのメディアも指摘しないのが、背景に浮かび上がる「地獄のメイケイ(名刑)」と呼ばれた同刑務所の持つ特殊性だ。
12月9日、斎藤健法相が臨時の記者会見を開き、初めて公になった今回の暴行事件。当初の法務省の説明では“昨年11月上旬から今年8月下旬に40~60代の男性受刑者3人に対し、計22人の刑務官が暴行を加えた”――というものだった。しかし、その後の調査で刑務官の暴行が日常的に行われていた可能性が指摘されている。
全国紙社会部デスクの話。
「22人の刑務官の内訳は20代17人に30代5人、うち16人は採用3年未満の若手刑務官でした。暴行の内容は“コロナ対策用のアルコールスプレーを顔に噴射”したり、“顔を叩いたり、尻をサンダルで叩く”といったものが主ですが、受刑者への暴行回数が10回以上に及ぶ刑務官が複数いることも判明。刑務所内で暴行が常態化していたと見られている」
現在、名古屋矯正管区を中心とした矯正当局による調査が継続中だが、今後は法務省から相談を受けている名古屋地検が刑事事件として捜査に乗り出す見通しだ。
(中略)
法務省は発覚の経緯について、60代の受刑者が左目付近にケガをしているのを職員が見つけ調査したところ、刑務官が“房のドアの小窓を通じて外側から受刑者の胸倉をつかみ引き寄せた”際に、受刑者が“ドアに左まぶた周辺をぶつけてケガをした”と発表。小川氏の話と合致するものだった。
「配信後、複数の新聞記者などから問い合わせがあり、私が知っていることを話すと、彼らは名古屋刑務所に事実確認の取材を行いました。しかし刑務所側は回答を拒否したということです」(小川氏)
(以下、略)


名古屋刑務所は府中刑務所、大阪刑務所と並んでB級受刑者を多く収容する施設です。A級受刑者が服役が初めてという受刑者。B級が服役2度め以上の累犯受刑者で、懲役期間が概ね7年以下の者を収容します。7年以上はLB級受刑者として別の刑務所に収容しています
名古屋刑務所が「地獄のメイケイ」と呼ばれているかどうか、知りません。が、「受刑者を締める」施設であるのは確かです。他の刑務所の刑務官からすれば規律が厳しいのであり、逆に名古屋刑務所の刑務官が他の刑務所へ行くと「規律がユルユル。なんだ、あれは」という話になります
これは施設の性格にもよるのであり、例えば無期懲役の受刑者を収容する刑務所は「ユルい雰囲気」があります。服役期間が20年、30年という受刑者ばかりですから、名古屋刑務所のように「規律でガチガチに締める」やり方はしていません
名古屋刑務所の特徴は舎房から工場へ向かう際の「メイケイ行進」に現れます。通常、行進は手を大きく振るにしても前に90度でしょう。しかし、「メイケイ行進」は腕を180度、つまり頭の位置まで振り上げます。体に入れ墨をした40歳代、50歳代の受刑者たちが腕を頭上まで振り上げ、行進し工場に向かうわけです。工場内作業でも私語は厳禁であり、脇見も注意を受けます
名古屋刑務所に収監されると、最初はこの行進の練習をさせます。腕を大きく振り上げるとそれだけ体に負荷がかかり、行進中に脇見をしたり私語を交わす余裕がなくなる、との狙いがあるそうです
また、名古屋刑務所の話ではありませんが、受刑者集団を統率するため不満分子を徹底して潰す、という理屈も存在します。刑務官に食って掛かるような受刑者が不満分子として標的にされ、狙い撃ちにされるというものです
推測でしかありませんが、今回暴行の対象とされた3人は独居房収容なので(刑務所は原則として雑居房で複数人が生活する)、生活態度や刑務官への対応で問題あり、とされた受刑者だったと思われます。もちろん、その「問題あり」の判断基準は刑務官目線によるものですが
You Tubeを見ると堀江貴文が「名古屋刑務所での暴行事件について」と題する動画を複数アップしています。ただ、堀江貴文が服役してのは長野刑務所(A級施設)であり、彼は名古屋刑務所を知りません
東大卒でライブドラを起業し経営していた堀江貴文からすれば、刑務官など無知で粗野なくせに威張り散らしている輩、に映るのでしょう
この事件については続報を待って、また言及するつもりです

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