埼玉母子殺害で実兄に実刑判決 無期懲役

日本では家族間の殺人が多い、と指摘する人がいるわけですが、諸外国と比較してどうなのか数値的な実態は不明です。家族間の結びつきが強いがゆえ、憎悪や葛藤も増すとも考えられます
安倍晋三元首相は「日本の美しい家族制度を守らなければならない」と言いつつ、明治の家父長的な家族を理想としていたようですが、これも現実にはそぐわない言わざるを得ません。進学、就職、結婚などすべて家長である父親が決定するかつての制度が、理想だとは思えないのです
さて、余談はここまでにして今回はさいたま市内の集合住宅で28歳の兄が、妹(24歳)とその連れ子(3歳)を滅多刺しにして殺害した事件を取り上げます


「妹が助けを求め男児が泣き叫ぶなか、笑い声をあげながら繰り返し切りつけた。被害者の苦痛や恐怖ははかり知れない。極めて残忍で残虐な犯行だ」
裁判長は、被告の非情な言動をこう断じた。
11月7日に、さいたま地裁で行われた裁判員裁判(佐々木一夫裁判長)。殺人などの罪に問われている無職・安保友佐(あんぼ・ともすけ)被告(28)に、無期懲役の判決が下された。同居する妹母子をメッタ刺しにしたとされる。弁護側は安保被告が「心神喪失状態だった」として無罪を主張したが、検察側は「殺害方法を検索し逃亡計画をたてるなど合理的な行動をとっており自らの判断で殺害した」と反論。求刑通りの判決となった。
「事件が起きたのは19年12月8日です。午後6時過ぎ、さいたま市桜区の集合住宅の住民から『赤ちゃんの泣き声と男の笑い声が聞こえる』と110番通報が入ります。浦和西署の警察官がかけつけると、泣き声が聞こえたという部屋からは応答がない。すると突然ドアが開き、包丁を持った安保被告が署員へ襲いかかってきたそうです。安保被告は、公務執行妨害で現行犯逮捕されました。
部屋には、安保被告と同居していた妹の王子(きみこ)さん(当時24)と彼女の長男・大翔君(当時3)が倒れていました。2人には、それぞれ数十ヵ所の切り傷や刺し傷があり、大半が頭や顔に集中していたそうです。安保被告は、笑いながら母子を何度も刺したとか。2人はスグに病院へ搬送されましたが、死亡が確認されます。司法解剖の結果、死因は失血だとわかりました」(全国紙社会部記者)
◆「ごめんなさい! ごめんなさい!」
安保被告の持っていた包丁の他、室内からは犯行に使ったと思われる血のりのついた果物ナイフが見つかった。安保被告は、公務執行妨害だけでなく王子さんと大翔君の殺人容疑で3度逮捕される。
「近隣住民によると、事件直前にベランダから『ごめんなさい! ごめんなさい!』と連呼する女性の声や、『ギャー!』という赤ちゃんの叫び声が聞こえたそうです。数十ヵ所の切り傷などから、安保被告の強い殺意を感じます」(同前)
公判で弁護側は、安保被告が妄想性障害を患っており医療観察が適切だと訴えた。だが検察側の冒頭陳述で明らかになったのは、戦慄の犯行動機だった。
「安保被告は、大翔君が2歳になったころから笑い声や泣き声に不満を抱くようになります。次第に、大翔君から悪口を言われていると思うようになったとか。妹母子に、強い殺意を抱いていたようです。検察側によると、王子さんを背後から襲う機会をうかがうなど犯行計画もたてていました。安保被告は、起訴内容を認めています」(同前)
佐々木裁判長は無期懲役の判決理由について、「3歳と24歳の命が無残に奪われた結果は重大という他ない」と述べた。
(FRIDAYの記事から引用)


陰惨な事件です。妹とその息子を数十回も刺すのは、強い殺意があったからだとは限らず、自閉症スペクトラム障害などに見られる反復行動を止められない症状かもしれません。発達障害のこどもがドアを蹴り始めると、20回でも30回でもドラを蹴り続けなかなか止められない状況が見られたりします
安保被告は28歳ですが、発達障害を抱え無職の状態だったと推測されます(過去の報道を幾つか読み返したのですが、安保被告の詳細な成育歴等に触れた記事は見当たりませんでした。ネット上には真偽不明の噂が飛び交っていますが)
母親、兄、殺害された妹とそのこどもの5人で同居しており、母親と兄が不在の時間を見計らって犯行に及んでいます。なので、状況を把握するだけの十分な認知能力はあったわけで、弁護人の主張するような心神喪失状態にあったとは考えられません。なので、刑事責任を問うのは妥当でしょう
ただ、3歳時から悪口を言われているとの被害妄想を訴えるところは病的な印象を受けます。なので、検察も死刑は求刑せず無期懲役の求刑にとどめたのかもしれません
安保被告が小学生の頃には発達障害の諸症状が確認されていたと推測するのですが、療育を受けさせなかったのかは不明です。発達障害だからダメ、と決めつけたり諦めたりするのではなく、少しでも本人に働きかけ意欲を引き出し、できるところを伸ばす取り組みをすれば、完全とは言わないまでも社会での適応能力を獲得するケースもあります。本人も親も諦めてしまい、家に引きこもらせたらそれまでです

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