「中国は脅威でない」と語る知の巨人エマニュエル・ドット
その時々に、「知の巨人」と称される人物の見識が書籍として出版され、メディアが持ち上げ、宣伝してきました。昔は歴史学者トインビーであり、未来学者アルビン・トフラーであり、最近はトマ・ピケティやエマニュエル・トッドです
別段、エマニュエル・ドットの主張に噛みつき論破してやろうという気はないのですが、取り上げます。こうした「知の巨人」のやり方は世間一般のモノの見方にあらがい、マクロ的な視点やミクロ的な視点で異議を唱え、ひっくり返そうとするのがしばしばです。なので、読者はモノの見方ががらりと変わり、「目から鱗が落ちた」ような経験をしたと錯覚するわけです
今回、文藝春秋社から刊行されたエマニュエル・ドット著「我々はどこから来て、今どこにいるのか?~アングロサクソンがなぜ覇権を握ったか」の宣伝として、文春オンラインにその主張の一部がアップされています
それが今回引用する、「中国が脅威になることはない」論です
「中国が脅威になることはない」知の巨人エマニュエル・トッドが語った「世界の正しい見方」
GDPでは現実は見えない
GDPがもはや「時代遅れの指標」であることも指摘しなければなりません──といっても、人類学的アプローチを重視する私が「経済」を軽視しているわけではありません──。
現下の戦争をGDPの観点から見てみましょう。ロシアによるウクライナ侵攻前夜の2021年、世界銀行のデータによれば、ロシアとベラルーシのGDPの合計は、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、イギリス、EU、ノルウェー、スイス、日本、韓国のGDPの合計のわずか3.3%にしか相当していません。一国単位で見れば、ロシアのGDPは韓国と同程度です。
ではなぜ、これほど「小国の」ロシアが、GDPで見れば、ロシアを圧倒している西洋諸国全体を敵に回すことができているのでしょうか。これだけ経済制裁を受けているのに、なぜロシア経済は崩壊しないのでしょうか。
答えは簡単です。GDPで測られる「経済力」はもはやフィクションにすぎず、リアルな経済的実態を反映していないのです。
「栄光の30年」と言われた第二次世界大戦後から1970年代までは、鉄鋼、自動車、冷蔵庫、テレビといった実物経済が中心で、「実際の生産力を測る指標」としてGDPは意味を持ち得ていましたが、産業構造が変容し、モノよりサービスの割合が高まるなかで、GDPは「現実を測る指標」としてのリアリティを失っていったのです。
ここでは米国の医療を例にとりましょう。医療部門は、欧州諸国ではGDPの9~11%程度を占めているのに対し、米国は約2倍で、GDPの18%にも達しています。
では、これだけ膨大な額が費やされている米国人の健康はどうなっているのでしょうか。米国の平均寿命は77.3歳で、ドイツの80.9歳、フランスの82.2歳、スウェーデンの82.4歳、日本の84.6歳にはるかに及んでいません。
(中略)
しかし、ツキディデスの解釈をそのまま現代に適用するのは無理があるでしょう。戦争が起きたのは、中国と米国の間ではなくロシアと米国の間だったわけで、新興国の急速な擡頭によって戦争が始まったというのは、この戦争には妥当しません。冷戦期も含めた長いスパンで見れば、米露という、ともに凋落に向かう2つの勢力の間で戦争が起きているからです。
ちなみに中国に関して言えば、これまで人口学者として何度も繰り返してきたように、中長期的に見て、出生率の異常な低さ(2020年時点で女性1人当たり1.3人)からして、世界にとって脅威になることはあり得ません。出生率1.3人の国とはそもそも戦う必要がありません。将来の人口減少と国力衰退は火を見るより明らかで、単に待てばいい。待っていれば、老人の重みで自ずと脅威ではなくなるでしょう。
(以下、略)
「世界の正しい見方」とわざわざ副題を打ってあります。が、冒頭でも述べたように、エマニュエル・ドットの主張はあくまでも歴史人口学(そんなものが本当にあるのか、と思ってしまうのですが)の知見によるものであり、世界の実情を「正しく」見ているのかは大いに疑問です
中国が脅威ではないとの主張も、少子化やがては衰退するからとの理由が主なようですが、現状として中国政府によって迫害を受けているウイグル族やチベット族にとって「脅威」である事実は否定しようがありません。香港の住民と手、中国政府による社会主義化政策を「脅威」と受け止めているでしょう。10年先や20年先より、今日現在「脅威」にさらされているのであり、エマニュエル・ドットは現在の「脅威」をまったく考慮しないで語っているのです
これを「世界の正しい見方」だと押し付けられても、自分は受け入れる気にはなれません。ウクライナで「脅威」にさらされている人々も、「ロシアは脅威ではない」とするエマニュエル・ドットの主張に対し、「こいつ、何言ってるんだ?」と思うはずです
さらにエマニュエル・ドットは「単に待てばいい」などと呑気な発言をしているのですが、待っているうちに少子高齢化と経済衰退に焦った習近平が暴発し、台湾に侵攻する可能性があります。衰退すると判っているからこそ、独裁者は焦り、暴発する危険があると、なぜエマニュエル・ドットが考えないのか謎です
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