白金高輪駅硫酸男 後輩男性への被害妄想

昨日、花森弘卓被告の公判について取り上げましたが、FNNプライムオンラインがより詳細な公判でのやり取りを報じる記事を出していますので、そちらから引用します。沖縄の大学時代の後輩2人から「さまざまな嫌がらせを受けた」と花森被告は主張し、自分の身を守るためだったと犯行に至った経緯を説明する内容です。花森被告は事実関係を都合よく置き換え、「自分こそが被害者」と思い込んでいる節があり、被害妄想に執着して手放そうとしないままなのでしょう


「陰から人を操る」「人をおとしめる」
花森被告は2つの罪で起訴されている。1つ目は、去年4月、大学の部室において、後輩の男性(以下「Aさん」)の両腕をつかんで転倒させ、顔面を拳で1回殴った暴行罪。2つ目は、白金高輪駅の構内で、Aさんとは別の後輩の男性(以下「Bさん」)に硫酸をかけて、全治3カ月のけがをさせた傷害罪で、花森被告は起訴内容を認めている。
「改めて反省しています」と述べてから始まった被告人質問。花森被告の口から語られたことを綴っていきたい。
花森被告は琉球大学に進学し、2年生のときに映画研究会のサークルに入った。そこでAさんやBさんと出会った。学年としては1つ下になる2人の印象を聞かれた花森被告は次のように答えた。
花森被告:AもBも口先がうまく嘘をつく。Aは子どもっぽい。Bは表面上優等生タイプ。自己顕示欲が強い。陰から人を操っていて、隙を見せると人をおとしめる。2人ともとても怖い。何をされるか分からない怖い存在。
後輩2人に対する”被害妄想”
(中略)
そんな2人に殺されそうになったと花森被告は主張した。Aさんについては、車に乗っていたときにトラブルになり、降りて歩いていたら後ろから迫ってきて轢かれそうになった。Bさんについては、一緒に岬へ行った際、崖から突き落とされそうになったとしている。
本当にあった出来事なのか、思い込みなのかは争いがあるが、この出来事によって2人への不信感が高まっていったという。その後しばらくして花森被告は沖縄にいるのが嫌になり地元の静岡に戻った。
静岡に戻った花森被告はAさんやBさんのことも気にならず1年ほど穏やかに過ごしていた。しかし、家の片付けをせず、ガレージも開けっぱなしで生活していたころ、叔父から「不審者に入ってこられる」と注意されると、不審者をAさんやBさんと結びつけ、恐怖を抱くようになり、2人に家に来ていないか確認したいと考えるようになったという。
(以下略)


花森被告への論告求刑は来年1月になると、引用から省略した部分には書かれています。なぜ、2ヶ月も先送りされるのか、理由は不明です
さて、花森被告の被害妄想から思い浮かぶのが、フランスの精神分析家ジャック・ラカンが手掛けた「症例エメ」です
エメと仮称される女性はフランスの農村部で生まれ、さまざまな苦労を味わいながら男の子を出産するのですが、当時パリで人気を得ていた舞台女優が男の子を殺害しようとしている、との被害妄想に取り憑かれます。エメはこどもを守るため、舞台女優に刃物を持って斬りかかり取り押さえられます。その言動に不可解なものがあるとして精神病院に入院させられます。そこで担当医となったのがラカンでした。ラカンはエメの行動(舞台女優と直接の面識もなく、関わりは見出だせないのになぜ襲撃したか?)を読み解きます
ラカンはここで「鏡像」という概念を導き出し、加害者と被害者が鏡に映されたように入れ替わり、「自分こそが被害者」という念慮を抱くようになるプロセスを説明しようとします。そして、エメの行動には「自身を罰したい」との欲求が潜んでいると推論します。実際、エメは逮捕されて精神病院に入れられた結果、被害妄想から開放されほぼ正常な状態へと回帰しています
ただし、花森被告がそうであるとは断定できないのであり、刑事被告人となってもなお根深い被害妄想を手放そうとはしないようにうかがえます
エメには大切なこどもがいたわけですが、花森被告には大切なものも帰るべき場所もない(両親は既に死亡)という事情が影響しているのかもしれません
精神科医斎藤環のサイトに「症例エメ」の解説がありますので、関心のある方は一読ください

生き延びるためのラカン 第9回愛と憎しみの想像界

なお、エメは後年、パリ郊外の屋敷に家政婦として勤めるようになります。が、そこはラカンの実家でした。エメはそうと知らずに奉公に入ったとされますが、真偽は不明です。エメが大切に守ろうとした男の子ディディエは後に精神分析家になります。彼の教育を担当したのはラカンです。ディディエは母親エメを担当した精神科医がラカンだとは知らなかったと伝えられているのですが、こちらも真偽は不明です。ただ、ラカンはディディエに母親エメについては教えようとしなかったため、確執が残ったとされます

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