「死刑になるため他者を殺害」 無差別殺人に共通点?
プレジデント・オンラインに掲載された記事を取り上げます。ノンフィクションライターのインベ カヲリ★が書いた記事で、秋葉原無差別殺人や池田小学校事件、そしてジョーカー男事件などなど、「他人を殺して死刑になりたかった」とする事件を並べ、そこに共通点があると主張する内容です
すでに精神科医の片田珠美が2009年出版の「無差別殺人の精神分析」の中で、無関係の人間を殺害した後に自殺するケースを取り上げおり、「拡大自殺」という概念を紹介しています。片田の説明によれば「英語圏やフランス語圏で1990年代に使われ始めた概念で、病名や診断名ではなく、あくまで現象を指す精神医学用語」のだそうです。ゆえに、インベの記事には二番煎じという印象が浮かびます(そうでなかったのなら、自分の単なる先入観なわけですが)
以下、プレジデント・オンラインの記事から一部を引用します
「死刑になりたくて、他人を殺しました」秋葉原通り魔事件、附属池田小事件…無差別殺傷犯の深刻な共通点
2021年の秋口から、「死刑になりたい」という動機での重犯罪がたて続けに発生していた。
はじまりは、2021年10月、京王線の車内で、映画「ジョーカー」の主人公をイメージさせる服を身にまとった服部恭太が、サバイバルナイフで一人に重傷を負わせ、車内を放火。「二人以上殺して死刑になりたかった」と供述した。
同年12月には、大阪・北新地のビルにある精神科クリニックで、谷本盛雄が放火し、27人(被疑者含む)が死亡した「北新地ビル放火殺人事件」が起きた。こちらは犯人が死亡したことで「拡大自殺」と言われている。
年が明け2022年1月、東京大学本郷地区キャンパス前の路上で、高校二年生の少年が包丁を振り回し、3人に重軽傷を負わせた。「医者になれないのなら、自殺する前に人を殺して切腹しようと考えた」と供述したという。
ほかにも未遂を含めると、ニュースで確認できるだけでも複数件ある。
こうした事件の連鎖を受けて、今年2022年5月『「死刑になりたくて、他人を殺しました」無差別殺傷犯の論理』(イースト・プレス)を上梓した。加害者と直接かかわった方を中心に声をかけ、各界の専門家など10人にインタビューをおこない、まとめた本だ。
しかし、多発する事件の印象とは裏腹に、この2021年は戦後もっとも殺人事件が少ない年だったという。一方で、コロナ禍真っただ中だったことによる心労や経済的不安定などにより、自死は若年層を中心に高止まりがみられる。
日本には大前提として自殺の問題があるということを、取材を終えて特に感じた。「死刑になりたい」と言って重犯罪を起こすことも、自殺の一つの形態ではないか、ということだ。
(以下、略)
記事への疑問1 どこまで犯人の内面に迫っているのか?
著者インベ カヲリ★の主張の全容は、イースト・プレスから出版された『「死刑になりたくて、他人を殺しました」無差別殺傷犯の論理』を読んで確認するしかありません。ただ、プレジデント・オンライン掲載の記事を読む限り、そこに目新たしい内容はないと感じました
当ブログでこれまでにも書いてきたように、ジャーナリストたちが拘置所の被告人と面会したり文通して、「死刑囚の素顔」を自分は知っているのだとするルポルタージュを自分は胡散臭く思っています
殺人事件を起こした被告が、単にジャーナリストに見せたい人物を演じているだけで、どれだけの真実味があるのかと思ってしまうからです
記事への疑問2 死刑制度があるから死刑になりたがる?
「死刑制度があるから成り立つ犯罪」と記事の中で京都大学大学院教育学研究科の岡邊健教授が述べているわけですが、死刑制度に代替して終身刑を導入したところで同じ現象が起こるのではないでしょうか。「他人を殺して終身刑になりたい」と志向する犯罪者が出るだけで。もちろん単なる仮説であり、本当のところはアメリカの終身刑受刑者がどれくらいの割合で自殺願望を抱いているか、あるいは服役中に自殺しているかを調べなければなりません(それでも日米間の自殺に対する考え方の違いが横たわりますが)
記事への疑問3 本当に共通点はあるのか?
東海高校の生徒による東大前刺傷事件で、犯人である生徒は「人を殺して自殺する」とか「切腹する」などと口走っていましたが、犯行時は自殺にも着手せず、切腹もしていません。彼の場合、「自殺する」も「切腹する」も単なるイメージでしかないのです。栄養ドリンクの瓶で火炎瓶めいたものを自作し、地下鉄の車内でそれを使い放火し、多くの死傷者を出すつもりだったものの、燃え広がらず失敗しています。これもか彼の犯行が単なるイメージでしかなく、実効性を欠いた机上の空論でしかなかったからでしょう
刃物を振り回し、児童を1人1人殺傷していた池田小学校事件の詫間死刑囚のようなリアルがそこにはありません。東大前刺傷事件では刺された高齢の男性が重症を負いましたが、受験生の2人は分厚い冬物のコートを着込んでいたためもあり、刃物が深く刺さらず軽症で済んでいます。分厚いコートを貫通するような刃物でなければ多人数を殺害できないのであり、そこまで考えが及ばなかったのです。単なる結果論では片付けられない点です
殺人事件を起こした被告が、単にジャーナリストに見せたい人物を演じているだけで、どれだけの真実味があるのかと思ってしまうからです
記事への疑問2 死刑制度があるから死刑になりたがる?
「死刑制度があるから成り立つ犯罪」と記事の中で京都大学大学院教育学研究科の岡邊健教授が述べているわけですが、死刑制度に代替して終身刑を導入したところで同じ現象が起こるのではないでしょうか。「他人を殺して終身刑になりたい」と志向する犯罪者が出るだけで。もちろん単なる仮説であり、本当のところはアメリカの終身刑受刑者がどれくらいの割合で自殺願望を抱いているか、あるいは服役中に自殺しているかを調べなければなりません(それでも日米間の自殺に対する考え方の違いが横たわりますが)
記事への疑問3 本当に共通点はあるのか?
東海高校の生徒による東大前刺傷事件で、犯人である生徒は「人を殺して自殺する」とか「切腹する」などと口走っていましたが、犯行時は自殺にも着手せず、切腹もしていません。彼の場合、「自殺する」も「切腹する」も単なるイメージでしかないのです。栄養ドリンクの瓶で火炎瓶めいたものを自作し、地下鉄の車内でそれを使い放火し、多くの死傷者を出すつもりだったものの、燃え広がらず失敗しています。これもか彼の犯行が単なるイメージでしかなく、実効性を欠いた机上の空論でしかなかったからでしょう
刃物を振り回し、児童を1人1人殺傷していた池田小学校事件の詫間死刑囚のようなリアルがそこにはありません。東大前刺傷事件では刺された高齢の男性が重症を負いましたが、受験生の2人は分厚い冬物のコートを着込んでいたためもあり、刃物が深く刺さらず軽症で済んでいます。分厚いコートを貫通するような刃物でなければ多人数を殺害できないのであり、そこまで考えが及ばなかったのです。単なる結果論では片付けられない点です
上記のインベ カヲリ★の記事では「共通点がある」と言いたいようですが、あくまで「拡大自殺」という現象(外見的な特徴として)の共通点にとどまるのでは?
自分にはそれぞれの事件の差異ばかりが思い浮かぶのであり、違う事件を一括りにして同じだと主張されても同意はできません。内に抱えたリアルがそれぞれ異なっているのですから、犯行動機も犯行に至る経緯もバラバラで、単に集団自殺を志向したという結末部分が共通しているだけのように思えるのです
余談として 美しい家族
記事では家族のあり方が壊れているという趣旨の言及があります
自民党の参議院議員選挙立候補者は、「2千年続いた美しい家族関係を守らなければならない」などと発言し、同性愛者たちの結婚など権利拡大を批判しています。そもそも「2千年続いた美しい家族関係」などというものは存在しないのであり、幻想にすぎません。自民党の保守派は明治時代の家父長制を理想であるかのように持ち上げ、賛美しますが、誤魔化しの理屈です。夫が外に愛人を囲い、婚外子を生ませ、婚外子だからと差別する構図が明治の家父長制です。そんなものを美しい家族関係などと称賛するのはバカバカしい限りです
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