大和市男児殺害 代理ミュンヒハウゼン症候群への誤解
某ニュースサイトで上田綾乃被告について、「精神障害者を野放しにしておくからこんな事件が起きる」などの書き込みがあり、代理ミュンヒハウゼン症候群=精神障害と誤解している人がいるのに今更ながら驚きました
また、別のサイトでは、代理ミュンヒハウゼン症候群が疑われる芸能人として複数名を列挙し、「芸能界に多い」などとわざわざ書いていたりもします。いずれもSNSで家族(特にこども)の情報を積極的に発信している芸能人であり、強引な決めつけでしょう。呆れたことに羽生結弦選手を「大した怪我をしてもいないのに大袈裟に振る舞い、同情集めようとしている」と書き、彼を代理ミュンヒハウゼン症候群と決めつけていたりするのですが、勘違いもはなはだしいところです
こうした誤解をする人にあれこれ説明したところで耳を貸さないのは分かっていますが、それでも書いておこうと思います。こどもへの虐待の形として理解する人が1人でも増えれば、虐待を防ぐ手立てになるかもしれないと期待して
代理ミュンヒハウゼン症候群は、自分の体を傷つけて病気をつくり病院を渡り歩く精神疾患「ミュンヒハウゼン症候群」が元になっており、子供を自身の代理として行っていることからこう名付けられた。
一躍有名になったのは、平成22年、京都市内の病院などで子供3人の点滴に水道水などを混ぜて死傷させたとして母親が逮捕され、傷害致死罪などで懲役10年の実刑判決を受けた事件だ。
被害者の治療を担当した医師の供述調書によると、母親はベッドサイドを清潔に整え、子供の身なりにも気を配る「よき母親」と周囲に映っていたという。起訴前の精神鑑定で代理ミュンヒハウゼン症候群と診断された母親は、公判で「医師らから特別な子供、特別な母親とみられて居心地よかった」などと述べた。
(中略)
溝口医師によると、代理ミュンヒハウゼン症候群は親の精神疾患のように扱われているが、本来は子供への虐待の一類型。現在では関係機関がより客観的に取り扱うことができるよう、「医療乱用虐待(MCA)」という用語を用いることが提唱されている。必要があるのに医療を拒む「医療ネグレクト」とは逆に、不要であるにも関わらず医療を求める状況全般を指すという。
(中略)
MCAは動機ばかりに注目が集まるが、本質的な問題は、いかに子供を守るかだ。溝口医師によると、MCAも他の虐待と同じく、(1)虐待を見つける(2)止める(3)再発を防止する-といった順序で対応するという。
関係者が混乱し、子供の安全への視点が弱まってしまう恐れが高いため、MCAの動機を深く見つめていくのは、親子が再び一緒に暮らす「再統合」が考えられる状況となってからが良いという。
溝口医師は「特別な予防法はないのが現状だ。この虐待は、小児に関わる医療者が気づくことで初めて、存在するものとなる。特殊なので自分が関わることはないだろうと考えず、普段から医療者が存在を意識しておくことが、早期発見につながる」と話す。
重度のMCAは文献にもよるが、適切な介入がなされなければ再発率はほぼ100%。致死率は最大で30%にも上り、親子の再統合は難しいのが現実だという。
溝口医師は「親子を分離して虐待した親に刑事罰を科し、社会から排除するだけでは問題解決にならない。親子のつながりをどう安全に構築するのかや、親自身も分からなくなっている心の内面を遡(さかのぼ)ってひもとき、どのように向き合うのかについて、専門家も社会全体でも、答えを探す努力を続けなくてはならない」と強調した。
(産経新聞の記事から引用)
通常、身体への暴力を繰り返す親はこどもの身体の痣が発覚するのを警戒し、病院に連れて行こうとはしません。「躾のために叩いている」などと釈明しますが、暴力を振るっているのを自覚しており、犯罪として処罰される可能性があると理解し警戒しているわけです
代理ミュンヒハウゼン症候群の場合はどうなのでしょうか。上田被告は犯行を否認していますが、こどもを殺害したとの認識を持っているはず、と考えるのですが
あるいは上田被告の場合、病室に付き添って「良い母親」をアピールしていたわけでもなく、上記の記事にあるような典型的な例から外れているようにも感じます
なので、「〇〇症候群の特徴はこれだ」という既存のケースに当て嵌めるのではなく、虐待という枠でまず理解するのが前提なのでしょう
その上で医療濫用という側面があれば代理ミュンヒハウゼン症候群と解釈し、対応を考えるという手順です
上田被告の事件ではこどもの容態が危篤状態になって救急車を呼んでいますので、医療濫用の側面はないと判断し、厳密には代理ミュンヒハウゼン症候群ではないとも考えられます(最終的には精神鑑定によって鑑定医が判断するわけですが)
冒頭書いたように、芸能人がSNSでこどもの情報を発信するのは「良き母親」、「良き父親」をアピールして好感度を上げるためです。ですから彼女たちを直ちに代理ミュンヒハウゼン症候群だとレッテルを貼るのは大間違いです
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