5人殺害も恩赦で死刑を免れた少年 小田原事件(昭和24年)

先日、福岡で少年院を出たばかりなのに面識のない女性を殺害したとして、犯行当時15歳だった被告が懲役10年以上15年以下の不定期刑とする判決を受けました
一部には、「未成年者による凶悪が犯罪が増えているのだから重く罰するべき」と声高に叫ばれるのですが、少子化の影響もあって未成年者による殺人事件は激減しているのが実際です(未成年者の刑法犯検挙総数は平成9年から15年にかけて年間14万人ほどでしたが、平成30年には2万人少々と、7分の1にまで減っています)
未成年者による殺人も昭和43年までは毎年300人を超える検挙者がいたのですが、こちらも大きく減少し2007年は73人となっています
ただし、件数全体が減少したから未成年者による残虐な殺人事件が減ったという実感が乏しく、メディアが大きく報じるのも相まって、未成年者による凶行は繰り返されていると世間一般では認知されているのでしょう
さて、前置きが長くなりました。今日は昭和24年の小田原一家殺害事件を取り上げます。5人を殺害し、1人に重傷を負わせて死刑判決が確定したものの、その後恩赦で無期懲役に減刑されたため死刑を免れたという件です

サンフランシスコ講和条約による政令恩赦
日本は敗戦国として占領下にあったわけですが、講和条約の成立ともに独立国の地位を回復し、国家的な慶事として迎えられました。その結果、恩赦の大盤振る舞いが行われ、死刑囚12人が無期懲役に減刑され、無期懲役受刑者が数多く有期刑へと刑期が短縮されました
その恩恵を受けた1人が、小田原市内で銭湯を営む一家5人を殺害し1人に重傷を負わせて死刑判決を受けた杉山優です。犯行動機は杉山が銭湯の女湯をいつも覗いていたため、経営者が目隠しを設けて覗けないようにしたから、という実に身勝手なものです
杉山は両親が早く亡くなったため、弟とともに叔父の家で育ちました。事件当時は勤務していた工場をクビになって無職だったのですが、それ以前にも窃盗で逮捕されており、素行は決して良くなかったといわれます
犯行後、杉山は叔父にすべてを打ち明け、警察に自首しています。が、5人殺害の凶行であり、自首による減刑はなく死刑判決を受けています
模範囚
杉山は死刑から減刑されて無期懲役となり、宮城刑務所に服役。刑務所内では問題を起こすこともなく、模範囚として38歳で仮釈放となっています。恩赦による減刑を受けたのは昭和27年であり、仮釈放は昭和45年です。なので、無期懲役受刑者としては異例なほど早い仮釈放だったといえます。ただ、当時の無期懲役受刑者の服役期間が平均でどれだけであったのか、よく分かりません。無期懲役でも極端に服役期間の短い受刑者もいれば、仮釈放を受けられず獄死する受刑者もいたのですから、「平均」を算出したところで意味はないのでしょう
再犯
38歳で仮釈放となった杉山は、その後家出中の女子中学生と同棲を始めます。しかし、別れ話がもつれて(年齢が違いすぎるから別れようと女子中学生に言われ激高した)、彼女とその友人を刺し殺人未遂で逮捕されます
この事件で杉山は懲役8年の実刑判決を受けるとともに、仮釈放を取り消され再び無期懲役受刑者として刑務所に戻されます
その後、平成21年に宮城刑務所で高齢の受刑者が縊首自殺したと伝えられ、杉山受刑者だったのではないかと噂されるのですが、法務省は明かしていません

死刑を免れて減刑されたものの、再び殺人未遂事件で刑務所に戻っており、あの恩赦は何のためだったのかと思うばかりです
杉山死刑囚の他にも11人が恩赦によって無期懲役に減刑されたのですが、その後どんな人生を送ったのか機会があれば調べてみるつもりです
昭和天皇が崩御した際、あるいは新たな天皇(現上皇)が即位する際、大規模な恩赦が行われるのではないかとの噂話が刑務所内で飛び交いました。まあ、受刑者にすれば恩赦にすがってでも早く出たい、との心情なのでしょう
現在では死刑囚は恩赦の対象ではありませんし、今後もないはずです

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