光市母子殺害事件 裁判を振り返って

光市母子殺害事件では最高裁で死刑判決が確定した後、1次の再審請求が退けられ、今年の4月にも2次の再審請求も広島高裁で退けられています。再審請求を認めなかった決定について、弁護団は最高裁に異議申し立てを行っているところですが、最高裁が再審請求を認める可能性は皆無でしょう
ただ、この事件の裁判では犯行時18歳1月の被告に死刑判決が下されるのをよしとしない弁護士が大勢集まり、死刑反対運動と化した感があり、被告の意志がどこまで反映された弁護活動が行われたのか、疑わしい面もあります
そして上記のように集まってきた弁護士の1人がシンポジウムの席で、被害者遺族である本村氏を罵倒する発言を口にし、それが大々的に報道されて弁護団への批判が高まりました
弁護団の基本的なスタンスは、ミクシーに残る「大月孝行死刑囚を支援する会」の宣言文に表明されています
この宣言文は前に当ブログで1度言及しているのですが、今回は別の視点から語ります

光市母子殺害事件 最高裁が特別抗告棄却
https://03pqxmmz.seesaa.net/article/202012article_13.html
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大月孝行死刑囚(1981年3月生まれ)を支援する会です。
大月孝行(当時は福田孝行)は、18歳のとき、殺意はなかったものの母子を死に至らしめました(傷害致死)。山口家庭裁判所は、刑事処分相当として大月孝行を山口地方検察庁に送検しました。山口地検は大月孝行を山口地裁に起訴し、殺人罪で死刑を求刑しました。しかし山口地方裁判所は、無期懲役の判決をくだしました。
もし、世界のほとんどの国のように、検察に控訴・上告の権利がなければ、大月孝行被告が死刑判決を受けることはなかったでしょう。しかし、日本は検察に控訴・上告の権利が認められている人権後進国です。そのため、検察は大月孝行被告の死刑を求めて不当にも広島高等裁判所に控訴しました。広島高裁は控訴を棄却しました。検察は、大月孝行被告の死刑を求めて不当にも最高裁判所に上告しました。人権無視で名高い最高裁は、広島高裁判決を破棄して差し戻しました。
2008年4月、広島高裁は不当にも検察側主張を全面的に認め、大月孝行被告に死刑判決を出しました。大月孝行被告は上告しましたが、2012年2月、最高裁は上告を棄却、さらに3月に判決訂正申し立てを棄却し、死刑が確定しました。
この裁判にはいくつもの問題点があります。まず第一は、検察側に控訴・上告の権利が認められていることです。ほとんどの国では、控訴・上告は被告人の権利と考えられており、検察が控訴・上告をすることはできません。第二は、死刑制度の問題点です。一般刑事犯罪に死刑を適用することは認めるべきでないというのが世界の潮流であり、死刑廃止国・事実上の廃止国は増え続けています。第三に、「永山基準」の撤廃です。永山則夫元死刑囚は1968年から1969年にかけて連続ピストル射殺事件を起こし、東京高裁で無期懲役判決を受けたにもかかわらず、最高裁で不当にも死刑判決をうけ、1997年8月に不当にも死刑執行されましたが、最高裁は「永山基準」を示しました。しかし今回の事件では、最高裁は事実上この基準を撤廃し、「特に酌量すべき事情がない限り死刑の選択をするほかない」と、死刑判決を出しやすくするように判決基準を変更しました。第四に、被害者遺族の本村洋が、「被告が社会に出てくるなら私の手で殺す」などの異常発言を繰り返す危険人物であったにもかかわらず、マスコミにちやほやされて、死刑制度推進の主張をし、死刑廃止の流れへの重大な逆流となってしまったことです。第五に、広島高裁・最高裁は被告側の主張を理由もなく退け、検察側の主張する事実を全面的に認定したことです。第六に、死刑判決は全員一致が原則とされているのに、最高裁では1人の反対意見があったにもかかわらず死刑判決をだしたことです。死刑はもっとも重大な刑罰ですから、いかなる裁判所のいかなる裁判官であっても死刑を選択するであろう事件以外では死刑判決はあってはなりません。したがって、検察が死刑を求めて控訴・上告することはあってはならないし、1人でも反対意見があれば、死刑判決は下せないという制度にしなければなりません。
あらゆる可能な手段を使って、大月孝行死刑囚の死刑執行を阻止しなければなりません。また、大月孝行死刑囚の再審を実現し、彼の殺人罪認定を取り消させ、傷害致死認定で減刑させましょう。
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大月死刑囚より、死刑廃止の訴えが中心です
そして被害者遺族である本村氏をここでもなお、「被告が社会に出てくるなら私の手で殺す」などの異常発言を繰り返す危険人物、と書いて敵意を剥き出しにするという異常さです
通常の殺人事件であれば弁護士は、被害者遺族への謝罪を被告に促し、和解の方策を探るところです。が、この事件の弁護団は異常なまでに本村氏を敵視し、罵倒し、死刑推進派の中心人物であるかのように扱っています。大月死刑囚自身、知人への手紙の中で「ま、しゃーないですね今更。ありゃー調子付いてると僕もね、思うとりました」と本村氏を罵倒していたのですが、弁護士までが加担して被害者遺族を攻撃する様が世間一般にどう映るか、考えもしなかったのでしょう
上記の宣言文を見ると、検察が控訴したり上告する日本の裁判制度は異常だと訴えていますが、裁判制度をどうこうしろと主張するのはこの裁判とは別問題です。同じく死刑廃止の主張もこの裁判とは別問題であり、他所でやるべきです
それより大月死刑囚(裁判中は被告)を説得し、公判で遺族に謝罪させたり、これまでの誹謗中傷を謝罪させたり、弁護士による本村氏への罵倒発言を弁護士自身が謝罪するなどといった手段を講じなかったのか、疑問です。和解し示談書を交わすのは無理でも、被害者遺族に心情に寄り添おうという姿勢を示せば、裁判の結果は変わっていたかもしれません
死刑廃止運動のためにこの裁判を利用するのではなく、大月死刑囚本人の利益を考え行動するのが弁護士の務めだったはずで
結局、大月死刑囚個人の意志や思惑とは関係なく、弁護団が勝手に法廷戦術を決定した上で自爆した裁判だったように思えます
第2次再審請求には大月死刑囚の心理鑑定書なども提出されたようですが(精神鑑定とは別に、被告の心理的な力動面から犯行に至った経緯を分析し、説明するもの)、それこそ最初の裁判でやるべきでしょう。弁護団の弁護活動がどうにもちぐはぐに感じます
弁護士が大勢やってきたことで、大月死刑囚は味方が現れたと勘違いし、彼らの言うがままに裁判を進め、ことごとく逆の結果になってしまったと言うほかないでしょう
追記:大月死刑囚の第2次再審請求は2023年12月11日付け最高裁第3小法廷で、特別抗告を棄却する決定がされました。再審開始を認めない判断が確定しています。
最高裁に上告できるのは原判決に憲法解釈の誤りがあった場合と、法律に定められた重大な訴訟手続の違反事由があった場合の2つ限られます。大月被告の請求(再審を認めなかった原判決への不服)は上告の理由に当たらないと、最高裁は判断しました

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