神戸連続児童殺傷事件と匿名性を考える(続き)

少年事件と匿名性、そして更生とは何かを昨日、書きました。あまりまとまりのない記述になってしまったので、本日はもう少し整理して記述しようと思います
昨年、甲府で起きた放火殺人事件では週刊新潮が犯人である19歳少年の顔写真と実名を掲載し、日本弁護士連合会がこれに抗議する一幕がありました。週刊誌は「犯人の名前や顔写真を含めた事実を、広く世間に知らしめることこそ報道である」との考えなのでしょう。もちろん、世間の好奇心を煽って雑誌を売る狙いもあるわけですが
週刊新潮は日弁連の抗議に対し、反論する記事を掲載しています。日弁連の「少年の匿名性を保護しないと更生の妨げになる」との主張に異論を唱える弁護士の口を借りた格好で
そこでは、「本来、更生とは、自分の犯した罪と向き合わないかぎり、成しえないものです。しかし、日弁連は加害少年を被害者と向き合わせようとしない。被害者と向き合わせると、更生が妨げられると考えているのです。本末転倒です。被害者は事件の当事者ではなく、単なる証拠物だと考えているのではないか、とすら思えてしまいます」と述べられています

(引用元の記事)
甲府夫婦放火殺人事件でまたもや日弁連が抗議 少年犯罪被害者遺族は「時代にそぐわない少年法の理想を信じ込んでいる」

日弁連のみならず、これは法務省についても同じ指摘ができます
遺族と会わない理由
神戸連続児童殺傷事件の「元少年A」は医療少年院を仮退院するにあたり、本来の氏名とは別の名前が与えられ、親元の神戸ではなく広島へ住居を定めています。これは保護観察所が手配し、自動車部品製造の工場で就労していたようです
そして複数の被害者家族宛てに年1回手紙を送る暮らしを続けていました。
被害者家族には「元少年A」の住所は伝えられていません。被害者家族が直接「元少年A」と接触するのは、彼の更生の妨げになると保護観察所や弁護士が考えたからなのでしょう
しかし、本当にそれが正しい判断だったのか、と上記の週刊新潮の記事を読んで思うところです。腫れ物に触るように扱い、世間一般から見えないように隠し通す扱いが果たして更生といえるのかどうか?
ただし、だからといって少年院を出た時点で遺族らと面会し、謝罪する機会を設けたとしても遺族側にとっては迷惑なだけで、謝罪を受け入れる気にはならない可能性もあり難しい問題です
加えて、「1回謝罪したから禊は済んだ」と片付けられるようなものでもありませんし、遺族は決して殺人者を許さないと思います
罪を背負うということ
他方で、「14歳で犯した殺人の罪を一生背負って生きていく」というのも、決して生易しいものではなく、「元少年A」の場合、謝罪し続けなければならない重圧に苦しんだのでしょう。その重圧から逃れたくて行方をくらませたとも考えられるのですが、本当のところは本人に確認するしかありません。どこへ逃げようと、己自身の罪からは決して逃れられないのですが
さて、少年事件以外の成人による犯罪が世の中では大多数を占め、彼ら彼女らが刑務所を出た後、どう償いをするか国は関与していません
遺族が損害賠償を求めたところで、彼ら彼女らは弁済する能力がないからとそれを無視しているのが現実です。それを今までは「仕方がない」とか、「国もそこまでは関与できない」として放置してきたのですが、犯罪被害者・遺族の救済についても何か策を講じるかもしれません。特に昨今のような、拡大自殺と言われる無関係の人を巻き込む犯罪が発生するようになった現状を考えるならば
長々と書いておきながら、何も結論めいたものは提示できません。更生とは何か、考えるほどに深く、難しい問題です

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