佐川一政 パリ人肉食事件を考える2
当ブログで佐川一政のパリ人肉食事件を取り上げたのが2010年11月でした。続きを書こうと思いながらも放置し続け、10年以上経ってしまいました
前回、佐川一政はカニバリズムに取り憑かれた異常者を装っていただけであり、刑罰を逃れるための方便だった可能性があると書きました
フランスの精神病院から日本に送還された佐川は都立松沢病院に入院させられ、そこで「精神病ではなく人格障害であり、刑事責任を問われるべき」との診断を受けています。しかし、フランスの司法当局は「不起訴処分になった人物の捜査資料は日本に提供できない」と拒否したため、日本の検察も起訴を見送っています
ところが日本のメディアはその後も佐川一政を人肉食(カニバリズム)に取り憑かれた男、という扱いを続けて今日に至っています
おそらく、その方が世間一般の興味をひき、話題になるからとの理由でしょう
もちろん、佐川一政もその風潮を利用し、一時期はメディアにも登場し小説家・評論家めいた活動をしていました
さて、今回は日本記者クラブのウェッブサイトに掲載されている片貝憲二記者の取材ノートを取り上げます。ベテラン記者による取材活動のレポートなのですが、何ともみすぼらしい内容です
パリのサンテ刑務所(片貝 憲二)2012年3月
(前略:パリ人肉事件の概要と佐川一政の生い立ちに言及)
●フランスの司法制度を知りたい
サンテ刑務所はパリの下町14区にあり、1865年に建てられた古い刑務所である。「人肉事件の佐川を取材したい」といっても認められないことは百も承知なので、表向きは「フランスの司法制度と刑務所の実態」を取材したい、とダメもとで法務省に申請した。どういう風の吹き回しかこの申請が認められたのだ。
刑務所内はとにかく古くさくて暗かった。ネズミが走り回っていそうな雰囲気である。しかしながら刑務所側は日本のテレビ局にフランスの刑務所の実態をすべて取材させようと極めて丁寧に案内してくれた。一通り取材した後、案内役の看守長が我々をある独房の前に案内した。入り口の名札には「SAGAWA」と記されていた。
「君たちの本当の狙いはここなんだろう」と言って彼は片目をつぶった。いかにもフランス人らしい。独房の広さは畳にすると5畳程度。古びたベッドと小机、片隅にむき出しの便器、突きあたりに鉄格子のはまった窓があった。
驚いたことに壁には被害者のルネさんの大きな顔写真や事件を報じた新聞記事の切り抜きが所狭しと貼られていた。この写真と記事をどういう心理状態で見ていたのだろう。所側によれば獄中の彼はよく食べ、よく眠り、本を読む“殺人犯にしてはおとなしい囚人”だそうだ。しかし、看守長が見せてくれた1冊の大学ノート。そこには鉛筆画で多数の女性の裸体が綿密に描かれていた。乳房をはじめここにはとても書けない部分画だ。彼はどうも女体パラノイアらしい。
独房の取材が終わって中廊下に出たその時、看守長が「あれが佐川だ」と指さした。「だけど撮影はダメだぞ!」と看守長は念を押した。
ほの暗い廊下の向こうに看守に連れられた小男がいた。私が目配せをするまでもなく、金井カメラマンは手に提げたENGカメラのスイッチをひそかにONにしていた。完全な隠し撮りである。ピントも合わせられない。果たして映っているか!?
右上の写真はその時の映像から取ったものである。やや焦点がぼけているが、小柄な体型がよく映し出されている。このスクープ映像は翌日、フジテレビから全国に放映された。
●帰国、マスコミの寵児に
この後、彼はフランスで精神鑑定を受けた結果、“心神喪失状態での犯行”と判断され、殺人の罪を問われることなく不起訴処分となった。この処分にルネさんの両親は猛烈に抗議をしたが、受け入れられなかった。そして84年、日本に帰国していったんは精神病院に入院したものの刑事責任を問われることなく自由の身となった。大手を振って日本国内を歩き始めたのだ。
さらに86年頃から驚くべき変貌を遂げる。マスコミで有名人になり、事件を含めた小説を多数出版し、テレビ番組やビデオにも数多く出演した。89年の宮崎勤事件以後はピークに達した。大金も手にしたようだ。
私と金井カメラマンは85年に一緒に帰国したが、その頃の彼をテレビなどで見かけるにつけ、一体この国はどうなっているのかと不思議でならなかった。このような残忍な人間が社会的制裁を受けることもなくマスコミをにぎわしているのはなぜか。自分がマスコミの世界にいながらどうしようもなく割り切れない印象が残ったものである。
(以下、略)
あまりに表面的な取材、隠し撮りを自慢する記述、そして佐川一政が精神異常ではなく人格障害だとの見解が示された点など無視した内容です
拘置中の佐川一政を盗み撮りしたのを手柄話にしたいだけなのでしょう
記者の意識の低さに失笑するしかありません。この程度の取材をしていた人物がフジテレビのパリ支局長になり、重役になったのですから
いまさら佐川一政を引き出して糾弾しろ、などとは言いませんが、人肉食に取り憑かれた男を偽装した件について正面から問い質す機会は過去にいくらでもあったのではないでしょうか?
結局のところ、彼が異常な殺人者であった方がメディアには都合が良かった、という話なのでしょう
(関連記事)
パリ人肉事件 佐川一政の死
島根女子大生遺棄事件を考える30 犯人家族の苦悩
島根女子大生遺棄事件を考える31 屍姦という行為
島根女子大生遺棄事件を考える35 犯人の育った環境
高校教師が殺人動画を生徒に見せ停職処分に
現代の切り裂きジャック事件に終身刑の判決 英国
英国切り裂きジャック殺人 グリフィス被告のその後
「切り裂きジャック」研究者が売春婦殺害で逮捕
「切り裂きジャック」殺人 売春婦を殺害する理由
「切り裂きジャック」事件 125年目の真相
今市女児殺害事件 犯行を自供した男
今市女児殺害事件 「物色中に偶然見つけた」
実在した殺人鬼を描く映画「チャイルド44 森に消えた子供たち」
ロシア政府が米映画「チャイルド44」を批判、上映禁止
高槻少女殺害事件を考える1 快楽殺人
犯罪心理学の准教授が妻を刺殺 懲役10年の求刑
犯罪心理学の准教授が妻刺殺 「論文を書くためやった」
少年誘拐ホルマリン漬け事件(昭和32年)
女性の遺体を弄んだ男 執行猶予付き有罪判決