愛知中3刺殺事件を考える 少年院送致決定
愛知県弥富市の十四山中学で作年11月、中学3年の男子生徒が別のクラスの男子生徒を持参した包丁で刺し殺す事件がありました。殺人容疑で逮捕された少年の審判が名古屋家庭裁判所であり、少年院送致とする保護処分が決定しています
現在、殺人を犯した少年は15歳ですから、おそらくは20歳に達するまで相当長期の処遇を実施するよう家庭裁判所が勧告をつけたものと予想します
愛知県弥富市の中学校で中3の男子生徒=当時(14)=を刺殺したとして、殺人などの非行内容で送致された同学年の少年(15)について、名古屋家裁(後藤隆裁判長)は23日、第1種少年院送致とする保護処分を決定した。
決定によると、少年は中3になり成績や進路選択への不安などから鬱憤(うっぷん)を募らせていたところ、昨年11月の修学旅行で禁じられたスマートフォンを教諭に取り上げられ、告げ口されたのではないかと思い込み、疎外感や絶望感を抱いた。嫌っていた被害生徒の楽しそうな様子を見て怒りが湧き、つらい現状から切り離されると考えて殺害を決意した。
決定は、鑑定結果などから少年に自閉スペクトラム症が認められると指摘。「理不尽で身勝手な動機で強い非難は免れない」とする一方、「深い非行性に基づくものとは言えない。理解のある指導者による教育が必要」と判断した。
決定などによると、少年は昨年11月24日、通学していた中学校で、同級生の腹部を包丁で突き刺し、死亡させた。
(時事通信の記事から引用)
動機が不明
事件後の報道をざっと見ていたつもりですが、「動機に不明な部分がある」と書いた報道が多かったように思います。被害者は明るく活発な野球少年であり、クラスのリーダーという存在です。学校側からすれば絵に描いたような望ましい生徒だったのでしょう。他方で加害者である生徒は目立たない存在だったようです。同じ地元で育ち、小学校も一緒という加害者と被害者ですから、殺害しなければならないような怨恨・対立・葛藤があったとは、学校側も警察も思えなかったのでしょう
会話に割り込んでくるとか、上から目線であれこれ指示するとか、加害者である生徒は動機を説明したようですが、「そんな理由で人を殺すのか」と、話を聞いた大人たちは疑問を感じ、納得できなかったというわけです
自閉スペクトラム症
さて、上記のような、大人の目からすれば些細な生徒間の軋轢なのですが、加害者である生徒にとってはそれこそ生きるか死ぬか、殺すか殺されるかという抜き差しならぬ事態だと受け止めてしまったのでしょう。そこから自閉スペクトラム症ではないか、との疑いが浮上します
自閉スペクトラム症という概念は、従来の発達障害の拡張したもので、アスペルガー障害(昔は高機能自閉症とされ、対人交流が可能ではあるが、物事への執着が強く柔軟な思考や立ち振舞ができない)や広汎性発達障害も取り込んだものです
おそよ20人から50人に1人の割合で自閉症スペクトラム症のこどもが存在すると言われますので、1つのクラスに1人くらいはいる勘定になります
今後の処遇
送致されたのが第一種少年院ですから、昔で言うところの中等少年院でしょう。第三種少年院(医療少年院)に収容するほど、医療上の措置は必要としないとの判断です。愛知県の中学生で3月で卒業ですから、送致先は瀬戸少年院になるはずです。本人が強く高校進学を希望し、その希望に沿うのが改善更生に資すると考えられるのなら高校の通信課程を組み入れた栃木県の喜連川少年院に送致する場合もありますが、まずは近隣の中等少年院に送致して1年ほどは様子を見るでしょう
先に書いたように、殺人事件ですから24カ月で仮退院させるのは不十分と家庭裁判所は考え、20歳に達するまでの相当長期の矯正教育を実施する必要があると、処遇勧告を付して少年院に注文をつけたのではないか、と推測します。少年院側としても処遇勧告に沿った対応をしなければならず、約4年数ヶ月の長期間の処遇計画を組むことになります
もちろん、この先は本人次第であり、少年院で反抗を繰り返し、暴れたりケンカをすれば収容期間が伸びます
逆に一般j論として少年院内での生活が安定し、改善更生の意欲も高く、高校の通信課程で卒業資格を取得するようなら、19歳で仮退院を申請する展開もありえます
ただ、本件が殺人事件であり、被害者家族の心情にも配慮しなければならないため、早期の仮退院申請はあり得ない、と実務上は考えられます
早期に仮退院させたものの、再び事件を起こしてしまったのなら「少年院は何をやっていたのか」と世間から批判を浴びるので
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