千葉流山母姉殺人 息子に懲役30年判決
ひきこもりの息子が親や兄弟姉妹を殺害する事件があります。逆に、親が息子や娘を殺害する事件もあります
家庭内の事情は外部から伺い知れないものであり、親子間の葛藤や愛憎も外からは見え辛いものです。ただ、殺害行為は法の許で裁かれなければならず、そこに検察官や裁判官が介入します
家庭の事情、家族の思惑に左右されずに裁きを下すとなれば、時には非人情な判決になる場合もあります。そこで裁判員裁判という形が機能するかどうかが問われるのですが、裁判員の意見がどれだけ反映されるのかはケースバイケースでしょう
前置きはここまでにして、2020年の大晦日の夜、母親と姉を殺害したひきこもりの息子に対する裁判員裁判の判決を取り上げます
息子は大学を中退して以降、18年も家にひきこもった状態でした
【母姉殺害判決】ひきこもり男性に裁判長が「魚の祖先からつながる命だ」と異例の説法
自宅で母親と姉を殺害したとして、殺人罪に問われた40歳男性に対する裁判員裁判(岡部豪裁判長)の判決が1月28日にあると聞いて、千葉地裁で傍聴した。
被告の男性は大学3年で中退して以降、18年間自宅でひきこもり生活を送っていた。被告は「社会に出られないのは母親が否定的な態度を取り、姉と共に自分を追い詰めているから」で、2人が姉の婚約者に「何もしない」「優柔不断」などと話しているのを聞いて「平穏な生活を送っていたのに脅かしてくる」ように感じ、姉が実家に帰省した2020年12月31日夜、2人を殺害したという。
これまでの裁判を聞いていないので、詳しい事情はわからないものの、判決は検察側の求刑通り、懲役30年の実刑が下されたことに少し驚いた。
弁護側は「被告が常に生きづらさを抱え、必要なケアを得られなかった」などと訴えていた。しかし、裁判長は「デザインの仕事をしながら結婚を目前に控えて幸せな家庭を築こうとしていた姉と、趣味や仕事に充実した生活を送って娘の婚約を喜んでいた母が、それぞれ命を奪われた心情は察するに余る」と指摘する。そして、「2人に恨みを募らせた背景には、発達の偏りや自己肯定感の低さから意欲を持てずに認知バイアスが存在しているものの、その影響は極めて限定的で、短絡的かつ身勝手な犯行」などと認定。量刑については「父親や妹が厳罰を望んでいない」として、「本来、無期にすべきところを30年にした」などと説明した。
じっと聞いていた被告は、裁判長から「わかりましたか?」と聞かれると、「はい」と小声で頷いた。もう誰にも理解してもらえないという、あきらめのような表情にも見えた。
亡くなったおばあさんは戦争を生き残った
モヤモヤする裁判長の判決理由だったが、さらに違和感を抱いたのは、この後だ。
裁判長が突然、「判決とは別に裁判官と裁判員から伝えたい言葉がある」と言い出した。メモが正確ではないかもしれないが、裁判長の「伝えたい言葉」は、大まかに次のような趣旨だ。
「あなたは、お説教は嫌いだと言っていたが、どんなに生きづらかったとしても、傷ついたとしても、命を奪う理由にはならない。釣り合っているかのように感じるのは、あなたが命の尊さを理解していないからだ」
裁判長から一言、被告に声をかけてアドバイスする光景はこれまでも見たことはあったが、記録に残らない話は長々と続いた。
「生命の生まれた40億年前の昔から、あなたの祖先は途切れることなく命のバトンをつないできた。魚の姿をした祖先が(敵から泳いで?)逃れたこともあった。寝ている姿の祖先が恐竜に食べられそうになっても、命をつないできた。あなたの祖先が1人でも生きることに失敗したら、あなたは存在してなかった。あなたが生きていることは奇跡だと思いませんか?」
裁判長は「魚の姿をした祖先」の話まで持ち出しながら、「命に限りがあるから命を大事にしなければいけない」という趣旨の“説法”を説き続ける。
「亡くなったおばあさんは先の戦争を生き残った。どうやって戦争を生き抜いたか、聞いたことはありますか?もっと大人にならないといけないと思いませんか?懸命に生きてこなかったから、命を大切にできなかったんです」
(以下、略)
記事を書いているのは「ひきこもり問題」を追いかけているジャーナリストで、そのためかひきこもりの息子に同情的です
18年もひきこもり生活を続け、その果に母親と姉を刺殺した息子に、裁判官の説教が届かないのは上記の記事にあるとおりでしょう
ただ、それでも岡部豪裁判長は法廷で説教する裁判官として有名な人物であり、これまでにもさまざまな事件で被告に語りかけ、説諭を試みてきました
もちろん、説諭などせず判決文だけ読み上げて終わらせる裁判官が多いのであり、無駄なのかもしれません。ですが、無駄だと分かっていても、被告の心に届かないと分かっていても、時間を割いて自身のことばで語りかけるのを止めない裁判官がいる、と書きたくてこの記事を取り上げました
「魚の先祖が」という説諭の内容はトンチンカンに聞こえたのでしょうが、テレビドラマとして放映されている「ミステリーと言う勿れ」で久能整をとつとつと語るように、語りかける行為が人の心を動かす場合もあります(そうでない場合も多いのですが)
この場合、「自分だけ不幸」との考えで頭の中が覆い尽くされている被告に対し、命の尊さを考えされるためあえて突飛な話を持ち出したように思えます。被告にも、取材していたジャーナリストにも「?」だったのかもしれませんが
「ミステリーと言う勿れ」風に書けば、あえて違う視点から物事を眺める行為になるのでしょう。そして言葉に出さなければ何も伝わらないのですから
本多新被告は41歳でこの先30年近く考える時間が与えられたのであり、彼なりの結論に辿り着けるかもしれません
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