男目線だけの夫婦映画「なん・なんだ」 主演女優が猛批判

昨日に続いて映画の話です
烏丸せつこの名前を憶えている方がいるとすれば、自分と同世代か、あるいは上の世代の方かもしれません。烏丸せつこが66歳になっているとニュースで知り、「ああ、もうそんな年齢なんだ」と思った次第です
その烏丸せつこが主演を努めた映画「なん・なんだ」について、猛批判をぶちかましている記事がデイリー新潮にありましたので取り上げます
映画「なん・なんだ」は、文部科学省で2000年代に官房審議官を務め、いわゆる「ゆとり教育」政策実現を主導した寺脇研がプロデューサーをした作品です。なぜ寺脇がこの映画を作ることになったのか、その経緯は脇に置いて、烏丸せつこは寺脇による映画作りと脚本を徹底的に批判しています
高齢夫婦の悲哀を描くと題されているものの、その殆どが男性側の目線だけで語られており、烏丸せつこ演じる妻は添え物扱いされているというのが理由です。結局、男性プロデューサーが男目線でしか夫婦関係を理解していないという、皮肉な現実を暴露した映画になったわけです
以下、デイリー新潮掲載の記事から一部を引用します


烏丸せつこが主演作のプロデューサーに手厳しい批判 「この映画には気持ち悪いところがいっぱい」
(前略)
決定的に間違い
烏丸の厳しい指摘はほぼ全編に及ぶが、とくに矛先が向けられたのは、後半のワンシーン。過去に夫婦生活を求めて拒絶された美智子が、当時の三郎の冷たい振る舞いをなじる場面だ。
「押し入れに隠してあった夫のエッチな本を盗み見していたとか、それで覚悟を決めて誘ったのに応えてくれなかった、だから死のうと思ったとか。そんな女、いるかっての。だから監督に“仮にそういうことがあるとしても、もうちょっとセリフを何とかしようよ”って言ったんだけど、向こうは“はい、考えておきます”って言ったきり。どうせ寺脇に“烏丸さんがこんなことを言ってますけど”って知らせに行って、寺脇が“いやいや”とか“まあまあ”って宥(なだ)めていたんでしょ。そうやって、なし崩し的におかしなセリフを押し付けて来るんだから」
怒りの直言はなおも続く。
「本来なら、ラスト近くで家路についた美智子と三郎が、長い道のりをトボトボと歩いていくシーンが入るはずだった。情感と余韻に富んでいる本当に素晴らしい場面だったのに、なぜだかこれも全部カットされちゃったのよ」
烏丸の映画作りにかける思いはことのほか強い。
「作品の解釈は、お客さんの性別や年齢によって変わるもの。それぞれが余韻に浸りながら“この夫婦はどうなるんだろう?”って考えるの。それこそがこの作品がタイトルに掲げた問いかけなわけでしょ? それを“こんな結末になっちゃった”って見せるのは決定的に間違いなのよ。だから寺脇には聞いてみたい。あまりに映画的ではない演出じゃないの? これで本当にいいの?って」
ベテラン女優が振るう愛のムチを一身に受けた、当の寺脇氏は何と答えるか。
「500万円に満たない低予算映画なので、至らない点が多かったことは事実なんです。実際、撮影中に笑いながらでしたが“あんたでしょ、一番悪いのは”とか“あたし、怒ってんのよ”と言われましたからね。でも、烏丸さんは若い頃からずけずけと物を言うタイプで、一時は毒舌女優なんて呼ばれていましたよね。だから、今回もシャレの部分があると思う。だって、初日の舞台挨拶にも“もちろん、出るわよ”と快諾して下さったんですから」
そう言いつつも、「近いうちに烏丸さんと一席設けて“あなたは一体、なんなんだ?”って叱られてきます」と、頭を掻くのだった。


まるで妻の愚痴に付き合ってやるのが夫の役目、だと言わんばかりの態度です。烏丸せつこは当然、この寺脇の言い分を読んで激怒するでしょうし、「ああ、この人はやっぱり分かっていないんだ」と思うに違いありません
すべての男性がそうだとは言いませんが、長年共に暮らしてきた夫婦であっても、男は男目線でしか物事を理解できない面があるのでしょう
まさに夫と妻のそうした受け止め方の違いこそが描くべき主題であると思うのですが…
「低予算映画だから仕方がない」ではなく、撮影に入る前に寺脇と監督、烏丸せつこで話し合い、修正すべき点は修正し、脚本や演出プランに手を加えて取りかかれば、もっとまともな映画になったのではないか、という気がします
「なん・なんだ」の公式ページにある「ストーリー」は以下のようになっています。脚本は寺脇研ではなく、別人の手によるものです


結婚してもうすぐ40年になる三郎と美智子。三郎は大工を引退してやることもないまま、海が見える古い団地で一日を過ごす。妻の美智子は出かけるための準備に余念がない。「どこ行くんだよ」「化粧濃いんじゃないか」。そうしたやり取りのうちに、美智子は家を出る。美智子に届け物を頼まれたが、どこに届けるのかを失念したまま三郎は戻ってきてしまう。帰りを待ちながらビールを飲んでいると三郎の携帯が鳴る。
京都府警からだった。美智子がひき逃げに遭って意識不明だとの連絡。なぜ、京都に? 取るものも取り敢えず、娘の知美に電話をかけて三郎は京都へ向かう。病室で眠ったままの美智子の荷物を開けてみると、古いアルバムとカメラがあった。若いころ写真家を目指していた美智子が愛用していたカメラだ。
意識が戻らないまま1週間。三郎は現像を頼んでいた町のカメラ屋に写真を取りに行く。そこに写っていたのは、知らない男の姿だった。誰だ? この男は。自分の知らない美智子の世界がある。京都でこの男と会っていたのか。次々にわいてくる疑惑に押されるように、三郎は美智子の実家がある奈良へ。追ってきた娘の知美とともに、美智子の浮気相手探しの旅を始める。
自分が知らない少女時代の美智子。自分に黙って男と逢引していた美智子。夫婦の40年間はなんだったのか。美智子と重ねた思い出が一枚一枚と抜け落ちていく――。

映画『なん・なんだ』予告編

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