愛知中3刺殺事件を考える はっきりしない動機

愛知県弥富市の中学生が同学年の男子生徒を包丁で刺し、殺害した事件の続報です
現在、逮捕された中学生の身柄は名古屋少年鑑別所に移されています。通常は逮捕状で48時間、身柄を拘束できるわけで警察の留置場に身柄が置かれます。その後、検察庁に送検され、検事が裁判所に勾留を請求し、判事がこれを認めるとそのまま警察の留置場に身柄を置いたまま警察による取り調べが続いて調書が作られるという流れになります
ただし、少年の場合は留置場に身柄を置くのが適切ではないとして(成人の容疑者も警察の留置場には勾留されており、同じ場所で生活させると悪風感染の懸念があるとの理由)、少年鑑別所を勾留場所に指定する場合があります。この場合は勾留状ではなく、観護令状による拘束となります。日本は令状主義を採用していますので、身柄を拘束する根拠としては必ず裁判所の発行する何らかの令状が必要となるからです
身柄が名古屋少年鑑別所にあるため、取り調べを担当する警察官は鑑別所に出向いて調書を取る必要があり、警察官にとっては時間の制約が大きくなります
さて、逮捕された少年が犯行動機らしいものを語っていると報じられるのですが、どれも首を傾げたくなる内容です。「こんな理由で刺し殺すのか?」と思ってしまうわけで


愛知県弥富市の市立中学校で3年の男子生徒(14)が同学年の男子生徒(14)に刺殺された事件で、加害生徒が今月半ばにあった修学旅行に禁止されていたスマートフォンを持参し、学校側に指導されていたことが28日、関係者への取材で分かった。
修学旅行が終わった数日後に、事件に使われた刺し身包丁をインターネットで購入していたことも判明。事件が起きた24日と時期が近いことなどから、県警は修学旅行でのトラブルが事件の引き金の一つになった可能性もあるとみている。
修学旅行は14~16日の日程で行われた。関係者によると、加害生徒はスマホを持ち込んだことを他の生徒に見つかり、連絡を受けた学校側から指導を受けた。教職員がスマホを預かり、保護者を通じて後日、加害生徒に返したという。
捜査関係者によると、加害生徒は逮捕後に「ゲームが好き」などと話しており、修学旅行の際にスマホを持ち込んだ理由の一つとみられている。県警は、加害生徒が今月中旬ごろに事件を計画した可能性が高いとみている。
加害生徒は取り調べに対し、「嫌なことが続いた。複数の悩みを抱えていた」と供述しているという。県警は、学校関係者からの聞き取りや押収したスマホの解析などを進め、事件に至った詳しい経緯や動機を調べている。
(時事通信の記事から引用)


愛知県弥富市の中学校で男子生徒が刺され死亡した事件で、逮捕された生徒が学校でのアンケートで複数の不満を訴えていたことがわかりました。
弥富市の中学校では11月24日、3年生の伊藤柚輝さん(14)が包丁で刺されて死亡し、警察は逮捕した同学年の14歳の男子生徒を殺人の疑いで調べています。
男子生徒は、今年2月の学校でのアンケートで、伊藤さんについて「生徒会選挙の応援演説を頼まれたのが嫌だった」「友人と話している時に割って入ってくるのが嫌だった」など複数の不満を、訴えていたことが新たにわかりました。
市の教育委員会によりますと、その後、担任の教師が複数回「大丈夫か?」と声をかけましたが、男子生徒は「大丈夫です」と答えていたということです。
男子生徒は、調べに対し「色々な悩みがあった」という趣旨の供述をしていて、警察は、動機などを慎重に調べています。
(東海テレビの記事から引用)


逮捕された後の様子は不明ながら、黙して語らずというわけではなく、取り調べに応じてあれこれ語っているのでしょう。ただ、調書を取っている警察官としても、この内容では「殺人の動機」として納得できるわけもなく、まだ何かあるのではないかと辛抱強く聞き出そうとしているはずです
以前にも書きましたが、昔の田舎の警察など酷いもので、暴走族の少年を逮捕すると警察署の中にある柔道場へ連れていき、「(暴走を繰り返すくらいなら)お前ら運動不足だろ。運動させてやる」と言って柔道着を着せ、足腰立たなくなるまで投げ飛ばし、寝技で締め上げてから、「それじゃ、話を聞こうか」と調書作成に入る、という真似を平気でやっていました
さすがに現代ではそんな警察官はいないと思います(刑法196条の特別公務員暴行陵虐罪に該当し、クビになります)
上記の記事のような断片はともかく、犯行に至るまでの間、彼の内で組み上げられたストーリーがあるはずで、報復し殺さねばならないと結論つけた論理が存在するのは間違いないでしょう。ただ、実際の人間関係と符合しているかどうかは別です。思い違いや被害妄想など、現実とは乖離した要素が作用している場合もあります
少年事件なので、発達障害やその他の精神障害の可能性も考え、精神鑑定が行われるのでしょう
少年鑑別所では収容した少年の資質鑑別を行う(知能検査、性格検査、その他の心理テスト、鑑別技官による面接)のですが、観護礼状で拘束している間は取り調べ優先であり、これを行いません。事件が家庭裁判所に送付され、観護措置決定(これも家庭裁判所の出す一種の令状です)による拘束に切り替わった後に行います

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