「中国アニメが日本を追い越す日」という記事

いまだに「中国や韓国のアニメが日本を追い越すだろう」との記事を書いているライターがいます。誰かと思って名前を見たら窪田順生。売れっ子のライターなのか、頻繁に名前を見かけます。先日当ブログで取り上げたダイヤモンド・オンライン掲載記事、「京王線のジョーカーなりきり男」を書いていたのも窪田順生でした。別段、恨みはないのですが、今回も彼の記事を引用します。やはり、読んでいて「?」と思うところが数箇所あります
2009年からこのブログを始めたのですが、2000年以降に「中国や韓国はアニ-ションに官民一体で取り組んでいる。日本に追いつき、追い越すのも時間の問題だ」とする記事を度々目にしました
しかし、ご承知のように2021年現在、作品の制作本数は中国が圧倒的に多いものの、中国のアニメファンからも「ゴミ」扱いされるほど質の低いものばかり量産しているのが実態です。韓国も幼児向けアニメばかりが目につき、ウエッブトーンと呼ばれるインターネット配信マンガをアニメ化した作品を作っていますが評価は高くありません
それでもなお、窪田順生は中国アニメが日本を追い越す日が来るかもしれない、と書きます(その見解自体を否定するものではありません)


「日本のアニメ」は家電や邦画と同じ道を歩んでしまうのか
技術や品質が「下」だとみくびっていた相手に、いつの間にか追い抜かれてしまう。そんな悪夢が再び繰り返されてしまうのだろうか。
最近、さまざまなメディアや専門家の間で、「日本のアニメ産業が海外で負けてしまうのでは」という脅威論が唱えられることが多くなってきた。
ご存じのように、アニメといえば日本のお家芸。ジブリにワンピース、進撃の巨人、最近では鬼滅の刃に呪術廻戦など、海外でも人気のアニメ作品は例を挙げればキリがない。が、そんな「世界一のアニメ大国」の座を、中国や韓国が脅かしつつあるというのだ。
(中略)
中国アニメが日本を追い抜かす日
さて、そこで話を「アニメ」に戻そう。今の中国アニメはレベルが上がってきて市場も成長しているとはいえ、まだまだ世界で人気とは言えない。一方、日本のアニメは市場も縮小してきたが、世界的に高い評価を受けている作品が多数ある。技術もある。名声のあるクリエイターも多数いる。そのような意味では、中国に負ける要素はない。
が、そこでもし中国が国策としてアニメ産業を発展させていくため、日本の出版社や漫画原作者、アニメ制作会社に触手を伸ばしてきたらどうか。
映画産業を発展させるため、中国は地政学的にバチバチやっている米国の映画会社まで買収している。これだけ近くて、経済的にもかなり依存している日本で、同じことをやらない理由が見当たらない。
そうなれば、これまでお話をしてきたようなメカニズムで、中国のアニメ産業は一気に発展していくだろう。ジブリ作品が足元に及ばないような巨額の資金が投じられ、大作がつくられ市場が活性化する。人材も多く集まるので、若いクリエイターの中から、「中国の宮崎駿」や「中国の庵野秀明」が登場してもおかしくない。
つまり、これまでは「下」に見ていた中国アニメが、日本のアニメに肩を並べる、いや、追い抜かす時代が来るかもしれないのだ。
追い抜かす時代が来るかも
「ジャパニメーション」という言葉を世界に広めた『機動戦士ガンダム』がハリウッドで映像化される。これまでの『ドラゴンボール』などの実写化失敗から「やめてくれ」という声も多いが、日本が誇るアニメ『ガンダム』の再評価につながると好意的に受け取る方も少なくない。
が、実はこの作品を手がけているのは、先ほど触れたレジェンダリー・エンターテインメント、中国資本の入った映画会社だ。
本来、日本のキラーコンテンツなのだから、日本人の手で実写化して、日本人の手で世界で売っていくべきだ。ナショナリズムの観点ではなく、そのように自国で産業化しないと、「次」が続かないのだ。
帝国データバンクによれば、日本のアニメ制作会社300社の6割は従業員20人以下で、3割が売上高が「1億円未満」だ。中小零細企業だらけで、低賃金労働者が命を削って高いクオリティーを支えている。
本来、世界に売るコンテンツの要なのだから、国策としてこれらの小さな会社を統合・再編して、巨大なアニメ制作企業をつくらないといけない。企業規模が大きくなれば投資も呼び込めるし、賃金も上がる。輸出も促進される。韓国ドラマを世界に売るスタジオドラゴンがまさしくそれだ。
「日本のアニメは世界に人気」と言いながら、実際に潤っているのは版権ビジネスをしている人たちだけだ。「作り手」にはなかなかその恩恵がない。だからこそ、コンテンツを海外企業に売ってもうけるスタイルではなく、自国内でもしっかりと産業化をする仕組みが必要なのだ。
白物家電、半導体、造船、鉄鋼、そして邦画……「日本ブランドは揺るがない」「日本の技術は世界一」と叫びながら、次々と追い抜かされた産業と同じにおいが「アニメ」からも漂うと思うのは、気のせいか。


まず「ジャパニメーション」という造語を使うのは止めた方がよいと言いたくなります。時流に乗り遅れたメディア、ライターだけがいまだに「日本のアニメはジャパニメーションと呼ばれ、世界で人気」だと常套句のように用いますが、およそコアなアニメファンで「ジャパニメーション」などという造語を使う人はいません。ですから、「ジャパニメーション」を使うライター、評論家はいかにも事情通を装っている偽者臭く映ってしまいます
さて、上記の記事のように白物家電や半導体、造船や鉄鋼など日本の産業が追い抜かれ衰退した…と書いているのですが、それぞれに衰退した理由・事情が異なるわけで、すべてを一緒にするのは間違いでしょう
家電は日本のメーカーが高級品にシフトしていったものの、多くの購入者は「安さを求めた」という経営戦略の誤りが命取りになりました。半導体は赤字覚悟の量産体制と低価格競争で挑んできた韓国に負けたといえます。邦画はあくまで日本の観客を対象にしているので、海外に売り込むのは困難であり、家電や半導体と同じレベルで語るわけにはいきません
日本のTVアニメは邦画と異なり、無料でテレビ放映されたのであり、これが世界に広がった理由です
こうした形態の違いを無視して語ろうとするのは居酒屋談義みたいなもので、そもそも間違いです
豊富な題材を取り上げる日本アニメ
中国のアニメが映画館やテレビ放映で日本にも登場していますが、仙人やら道術やら絡めたファンタジー、西遊記の焼き直しといったものばかりであり、斬新さはありません。日本のように水泳競技を軸にした「Free!」とか、ジャズと高校生活を描く「坂道のアポロン」のような作品は生み出せないのです。あるいは女子高生とキャンプを結びつけた「ゆるキャン△」のようなユニークな作品も、中国には作れないわけです
中国で劇場版アニメ「西遊記 ヒーロー・イズ・バック」が大ヒットしたら、西遊記を題材にしたアニメが30本近く作られた、などという笑えないエピソードがあります。新たな題材を掘り起こしたり着想することができず、ヒット作を模倣するだけという惨状が見えるのですが、「中国アニメが日本を追い越す」と主張する人たちの目には映らないようです
先日、マンガ「応天の門」について書いたのですが、在原業平と菅原道真を主人公にしたマンガ作品が成立するのが日本という国です。中国が杜甫や李白を主人公にしたアニメをどうして作ろうとしないのか不思議です(まあ、作れないのでしょう)。身の回りに題材などいくらでもあるでしょうに
三国志や西遊記の焼き直しばかりやっている限り、日本に追いつくなど不可能なのでは?
アニメ制作会社買収は成功するのか
ただし、中国資本が日本のアニメーション制作会社を丸ごと買収するのなら、それはそれであり得るわけで、阻む理由はありません
それでもソニーが米映画会社コロンビアを買収し、パナソニックが米映画会社MCAを買収し、東芝と伊藤忠が米メディア企業タイム・ワーナーに出資をしたものの、どれだけの成果があったのかを考えると、中国資本が金に物を言わせて日本のアニメーション政策会社を買収し参加に収めたところで「すべてがうまくいく」とは思えません。中国側が作りたいアニメと、日本の制作陣が作りたいアニメとは大きく異なっているわけですから
中国企業がディズニーやピクサーを買収しても同じであり、成功するのは簡単ではないはずです
批評の不在
中国のメディアは官製であり、要するに習近平と中国共産党を褒め称える記事を書くのが仕事です。批判する記事を書けば刑務所行きです
そんな記者たちが、あるいは評論家がアニメーション作品を論じる能力があるとは思えません。中国メディアが発信する批評を当ブログではあれこれ紹介してきましたが、これという見識は見当たりません。質の高い批評が作家を育てるのであり、批評の質が低ければ作家も育ちません
日本には世界一うるさいアニメファンが大勢いて、作品の良し悪しを常に論じているわけで、そこが中国との大きな違いです

中国国産アニメ歴代1位/映画『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』予告編

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