大口病院不審死 久保木被告の精神鑑定結果
久保木被告の裁判が続いています。10月13日の第7回目の公判では精神鑑定にあたった医師が出廷するとあって、注目されました
産経新聞ウェッブ版にはこの公判の記事がありませんので、東京新聞の記事から引用します
起訴前に検察が実施した精神鑑定では横浜病院精神科の田村由江医師が、「自閉スペクトラム症」との鑑定を下し、刑事責任の能力に問題はないとの判断を示しました。これに対して弁護側は裁判所に新たな精神鑑定の実施を要求し、岩波明昭和大学教授が2度目となる鑑定を実施して「統合失調症」との判断を示しています
入院患者の命を奪うと分かっている行為を、なぜ繰り返したのかという疑問に少しでも迫れるのか、読んでいきましょう。起訴された殺人は3件ですが、久保木被告は48人から40人の殺害に関与したと推測され、それだけの殺害行為を繰り返したわけ(理由)を自分は知りたいのです
長くなりますが、法廷でのやり取りを引用した方が臨場感があると思いますので引用します
【詳報・第7回】久保木被告「点滴で殺害、罪悪感感じにくい」 鑑定医が証言 3人点滴中毒死
「幻覚、妄想なかった」
田村氏による鑑定についての説明が始まった。
田村氏によると、被告は「自閉スペクトラム症」だった。症状の程度は最も軽く社会的コミュニケーションはレベル1、反復的はレベル1。田村氏は「変化に対応することが苦手、いつまでも看護職に留まっているのは、こだわりやひきずっている。反復的なのは、目をつぶることで、看護学校のころにやめた。統合失調症の症状の幻覚や妄想はまったくなかった」と説明した。
続いて、事件にASD(自閉スペクトラム症)がどう影響したかを語った。「直接の影響はない。消毒液を点滴に混入したのは、家族の説明が面倒で、テキパキと動くことができないので、患者さんに死んでもらうのがいい。テレビで見た点滴の混入をまねればいい。なんら幻聴や妄想、意識障害はない。現実的に理解できる理由だ。患者さんに責められた辛い体験に、固執してこだわっているのは、若干ASDが遠因としてある」と語った。
さらに「鑑定時の精神状況は、精神病はない。特に入院を必要とする症状はない」と話した。
執着性「犯罪だと分かっても続けてしまう」
続いて、田村氏はなぜ「自閉スペクトラム症」と診断したかを説明した。被告人の性格について「被告は友達がいない。周囲に興味関心がない。孤独を好んでいるわけではなく、関係を持ちたいとは思っている」と分析。
さらに自閉スペクトラム症の症状である「常道的、反復的」について「両目をつぶる癖があったが、これは20歳でおかしいと気づいてやめた」と指摘。「同一性への固執」については「臨機応変に対応できず、一つにこだわり、看護職から変えられなかった」とし、「執着する」についても「今回のように犯罪だと分かっていてもいつまでも続けてしまう」の部分が当てはまるとした。
また音に過敏でイヤホンをして街に出ていたほか、「小さいころはピアノをけったり、看護学校の寮で壁をけって穴を開けたり、鬱憤の解決が物を壊すこと」も、ASDの症状に当たるとした。
「動機、理解できる」「計画に沿って遂行」
さらに田村氏は、精神障害が事件に与えた影響をどう判断したかについて語った。
まず「動機を理解できるか」については「夜勤で死なれたら家族への説明がめんどくさい。どうしたらいいか。これは幻覚妄想ではなく、理解できる。了解可能です」と語った。
続いて「計画性(物事を計画して組み立てる能力があるか)」は「(消毒液の)使用後にナースステーションで破棄してはばれるので、ゴミ捨て場にいった。被害者A、B(最初の2人)の死亡は自分が関わらないようにしている。後半(3人目)は不特定多数に消毒液を入れたが、自分の夜勤に当たらない、重症度の高い人を選んでいる」として計画性がうかがわれるとした。
「犯行の一貫性(目的があって計画通りできているか)」についても「計画に沿って遂行していて、十分にあった」と指摘。また自己防衛(犯行後に自分を防御する能力があったか)」は「警察の事情聴取に否認しています。自己防衛能力はあった」と語った。
田村氏は「自閉症スペクトラムは脳の機能の障害なので完治しないが、重篤な疾患ではない。世の中に適応して、人格者、成功している人もたくさんいます」とし、「治さなきゃならないものではないし、うつ、眠れなくなったときは睡眠薬などの治療もあるが、本格的に治すものは今の医療にはないから、入院の必要はない」と話した。
さらに犯行時について「妄想、支離滅裂はなくて、集中力、計画遂行能力、目的にそって行動する能動的なエネルギーがある」と分析した。
「うつ病ではなく、うつ状態」と主張
続いて田村氏は、起訴後に久保木被告を鑑定した岩波氏に対する反論を行った。
岩波氏の鑑定では「うつ病が再燃、統合失調症」として、ASD(自閉スペクトラム症)を否定。「入院治療が必要です」としている。
田村氏は、岩波氏の鑑定で「仕事のストレスで抑うつになり、薬物の処方や休職、退職も経験している心身ともに衰弱し、大きなストレスを感じていた」として「うつ病」と診断したことについて、「クリニックに初めてかかった時、うつ病ではなく、うつ状態と診断されている」と指摘。「(最初に勤務したの病院での)休職時はうつ病とされているが、その日の気分や天気で症状が変わると。うつ病ではこういうことはありません。うつ状態です」と反論した。
さらに、田村氏は久保木被告が大口病院で1カ月に10回の夜勤に入っていたことを挙げ「1ヶ月に10回以上夜勤をすればだれでも消耗します。これでうつ病とするのはどうなのかと思います」と指摘した。
「看護師にこだわり、しがみついた」
田村氏は、岩波氏が、犯行時の影響は動機の形成過程で統合失調症とし「良く吟味しないで短絡的に結論を決め、統合失調症と認められる」と鑑定していることについて、「犯罪ではこういう状況はある。これで統合失調症と罹患していたとはどうも解せない。動機の形成にどう影響していたのかわからない」と否定した。
また久保木被告の犯行の計画性について「最初の方が処理して計画的にしている。(その後)大勢(の点滴袋に消毒液を混入)になったのも無差別ではなく、夜勤であたらないように重症度の高い人を選んでいた。犯罪になれてくると、罪悪感が薄れてまひしてくる。犯罪者にはあること。計画性はあったと思われる」と指摘した。
さらに「いつまでも看護職についていたのは、それはASD(自閉スペクトラム症)で臨機応変に対応するのが不得手だからで、ほかの職につけなかった。看護師にこだわり、しがみつかざるを得なかった」として、ASDの症状に当たると主張。「合理性については、犯行時に目的に沿った一貫性ある行動ができている。誰でも常識的な思考ができれば、犯行はしない。統合失調症じゃなくても精神疾患の人もだれでもありうる」と語った。
(以下、略)
患者が亡くなるのが辛かった、遺族へ説明する役割が大変だったと供述している久保木被告が、それでも看護師を辞めずに働き続けた理由が、自閉スペクトラム症だからこそと説明されています
物事への執着が強く、切り替えができない性格が生来の自閉スペクトラム症に由来するとの見解は、記憶に留めておいた方がよいでしょう
記事からの引用は省きましたが、久保木被告の母親から田村医師が聴取したところでは、「手のかからないこどもだった」と久保木被告の幼少時を表現しています。この「手のかからないこども」というのが発達障害を抱えたこどもの特徴であり、ゆえに障害だと認知するのが遅れてしまう原因です
ただし、田村医師は自閉スペクトラム症だから犯罪に走るわけではないと明言し、自閉スペクラム症と鬱病、統合失調症を久保木被告が同時に併発していたとは考えられないとも述べています
19日には2度目の鑑定を実施した岩波教授が法廷で証言する予定になっていますので、そちらも言い分も取り上げるつもりです
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