冤罪確定事件でも犯人扱い 滋賀県警本部長更迭
湖東記念病院事件で男性患者の呼吸器を抜き、死亡させたとして有罪判決を受けた元看護助手の西山美香さんは和歌山刑務所に12年服役した後、再審によって無罪が確定しました
誤審による冤罪と確定した以上、国や滋賀県(逮捕し、取り調べを行ったのが滋賀県警)に損害賠償請求の訴訟を提起するわけですが、滋賀県警は「捜査は適正に行われた」と主張し、「犯人は西山元受刑者しかいない」とする申立書を提出したため、大問題になりました
西山さんと弁護人の抗議を受け、滝沢依子滋賀県警本部長が会見して「西山さんを(いまだに)犯人と決めつける申立書を提出したのは間違いだった」と謝罪しています。ここまで、当ブログの前回の記事で書きました
しかし、事態はそれで収まらなかった、というのが今回の話になります
まず、朝日新聞は10月5日付けの記事で以下のように報じています
滋賀県の湖東記念病院で2003年に死亡した男性患者への殺人罪で服役後、昨年に再審無罪が確定した元看護助手の西山美香さん(41)が国と県に国家賠償を求めた訴訟で、県が5日、大津地裁に提出していた書面の一部訂正を申し立てた。西山さんの弁護団が明らかにした。書面には無罪判決を否定する表現があり、知事や県警本部長が謝罪する事態になっていた。
訂正申立書によると、訂正は7カ所。昨年3月の再審判決は患者が病死した可能性を指摘していたのに、「心肺停止状態にさせたのは、原告である」と断定した部分については、末尾に「と判断する相当な理由があった」を加えた。県警によると、有罪判決が言い渡された当時の認識だと分かるように訂正したという。
また、「取り調べ担当官に好意と信頼を寄せて虚偽の殺害行為を自白することなど、根本的にあり得ない」としていた部分は削除。再審判決の際、刑事司法関係者に捜査の改善を求めた裁判長の説諭について、「県警として承服しがたい」と主張していた部分も削除した。
西山さんは「批判を受けた部分の表現を訂正しただけで、県警の認識は何ら変わっていないとしか受け止められない。余計に傷つけられた思いだ」とのコメントを発表。代理人を務める井戸謙一弁護士も、取材に対し「書面の表現を改めたところで、県警が西山さんを犯人視する認識は変わっていない」と批判した。
問題の書面は、先月15日に提出された。2日後、三日月大造知事が会見を開き「西山さんの心を深く傷つける極めて不適切な表現があった」と謝罪。さらに28日、滝沢依子・県警本部長も県議会で「書面の表現に不十分な点があった」と訂正する考えを示し、報道陣の取材に「再審無罪判決は重く受け止めている」と釈明した。県警監察官室の担当者も「判決を真摯(しんし)に受け止めている」としており、再審無罪判決の内容については争わない方針という。
(朝日新聞の記事から引用)
最初に提出した申立書が西山さんを犯人だと断定しているのは、現場の警察官の意向を強く反映したものであり、「捜査も適正だった」といまでも信じているのでしょう
当ブログの最初の記事では、この申立書が本部長決裁を経ずに裁判所へ提出されたのではないか、と憶測を書いたのですが、実は滝沢県警本部長が申立書に目を通して上で決裁していたと判明しています。これは現場の意向に押され、申立書の書き直しを命じられなかったためと考えられます
しかし、その結果、提出した申立書は轟々たる批判を浴び、本部長は謝罪し県警監察官室も「冤罪という判決を真摯に受け止める」と白旗を挙げざるを得ませんでした。現場は不満たらたらでしょう。が、判決に逆らうような真似は公僕としてあり得ません
しかし、滝沢本部長が申立書を決裁していた事実を警察庁は重く見たのか、滝沢本部長を更迭して警察庁長官官房審議官に転出させる人事異動を発表しています。発令は10月18日付け。転属先が官房審議官ですから露骨な左遷人事ではありませんが、この時期での異動は明からに滝沢本部長の不始末を咎める意図が伺えます
官房長の下には各内局の意見を代弁する官房審議官が複数いて、政策の調整など行っています。ノンキャリアでは滅多にたどり着けないポストであり、次は局長へステップアップが期待されるポジションです。が、もしかするとこの後は警察関連の外郭団体への出向とか、海外の大使館の1等書記官として派遣され、出世コースから外れるのかもしれません
追記:滝沢依子氏はその後、警察庁長官官房審議官に就いており、警察庁内に踏みとどまっています
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