小田急切りつけ男 女性憎悪犯罪なのか?
走行中の小田急電鉄車両内で牛刀を振り回し、乗客を負傷させた対馬悠介容疑者(36)が逮捕され、取り調べを受けています。死者が出なかったのは幸いですが、切りつけられ負傷した乗客は言いようのない恐怖を味わったはずです
プレジデントオンライン掲載の記事が、この事件を「フェミサイド」(女性を憎悪し、狙う犯罪)だとする見方に一石を投じていますので取り上げます
プレジデントオンラインの記事が言うところの、小田急電鉄事件を「フェミサイト」だとして糾弾している声とは、朝日新聞系のオピニオンサイト「ウェッブRONZA」を指すものと思われます(他にもあるのでしょうが)
以下、ウェッブの記事からの引用部分は赤字で、自分のコメントは黒字で表示します
小田急線「フェミサイド」、女性憎悪は最も差し迫った“テロリズム”だ
殺人未遂容疑で逮捕された対馬悠介容疑者は、動機として「幸せそうな女性を見ると殺したいと思うようになった。誰でもよかった」「ターゲットにしている勝ち組の女性に見えたので狙った」と供述し、「幸せそうな人を見ると殺したい」「ターゲットにしている勝ち組に見えた」とは言っていません。つまり、女性に対する強い憎悪をもつヘイトクライムであり、不特定の女性を狙った無差別「フェミサイド(女性であるという理由で行われる男性による殺人)」だと言えるでしょう。
(中略)
つまり、女性憎悪は現代社会の主要なテロリズムの一つと化していると言っても過言ではないのです。テロリズムというと、アルカイダやIS(イスラム国)のようなイスラム過激思想をイメージする人が多いかもしれません。しかし、男性は実感を持ちにくいでしょうが、今や私たちの身近に迫っているのは、この「女性憎悪のテロリズム」だと思うのです。
と、上記のように女性蔑視から無差別殺人⇒テロと決めつけ、危機感を煽っています
もちろん、對馬容疑者の犯行は理不尽な暴力であり、無関係の人を巻き込もうとする悪意にほかならないわけですが、果たしてテロと呼べるほどの思想的な背景、既存の社会を打ち壊してやろうとする継続的な政治運動という側面があるとは思えません
数年前、インドでバスに乗り合わせた女子大生がならず者である男性らの集団レイプされ殺害される事件がありました。犯人たちは学校も出ていない底辺層に所属し、女子大生を妬み、恨み、そして襲いかかったものと思われます。が、これはテロではなくあくまでも犯罪として扱われる事件でしょう
小田急線刺傷事件を「フェミサイド」と結論づけるのが極めて危険な理由
(前略)
事件発生直後の初報において「勝ち組の女性(幸せそうな女性)を標的に」という文言があったことから、一部界隈ではこれを「フェミサイド」だと断定し、一部の人びとはまるでこうした出来事を「待ってました」といわんばかりに声を荒げ、「フェミサイドだ!」「女性が幸せそうにしているだけで私たちを殺さないで!」「日本は女性が命の危険にさらされる女性差別大国!」などと勢いづいていた。
男性も女性も「無差別に」狙われている
だが、そうした主張は実際には「ファクト」ではないことは付言しておきたい。そもそも本事件でも被害者のうち半分は男性であるし、少なくとも近年における「無差別殺傷事件」の被害者は男性も女性も数としてほとんど同数である(データをいろいろ見てみる「フェミサイドという言葉は男性被害の透明化によって流通するのでは?」)。ツイッターのフェミニストや一部のネット論客が既成事実であるかのように語る「日本では無差別といいながら、実際は女性ばかりが狙われている」「女性ばかりが殺されている」などということはない。男性も女性も、やはり文字どおり「無差別に」狙われ、傷つけられているのである。
指摘の通り、本件は「女性だけ」を狙っているのではありません。車両内居合わせた男性も被害に遭っています。もし、犯行現場が女性専用車両なら「フェミサイド」と言えます
ただ、女性を狙った犯行に着手した結果、車両内にいた男性も巻き込むことになったとの見方も可能でしょう。つまり、男性も巻き込んだという結果を重視するか、「女性を狙った」と主張する對馬容疑者の言い分を重視するかによって違ってきます
現時点での「犯行動機」は真実とは限らない
「だれでもよかった」というありきたりな表現の場合は「だれか特定の人を私的なトラブルや怨恨で狙ったわけではない⇒つまりだれでもよかった」という意味合いで、一般の人が想定する「だれでもよかった」の表現に含まれるニュアンスとは異なっている場合がしばしばある。
「だれでもよかった」「むしゃくしゃしてやった」「いまでは反省している」など、事件発生直後に錯綜するさまざまな犯行動機は、必ずしも真実であるとはかぎらない。多くの人の記憶に刻まれる「秋葉原通り魔事件」がその典型である。初報段階でメディアに流れていた「負け組の怒り」「いわゆる『毒親』による教育の失敗」「非モテの怒り」は真実ではなかった。被告人の口から裁判で語られたのは「自分の大切な居場所だったネット掲示板でなりすましをやめさせたかったから」だった。
犯行の直接の動機としてはさまざまに推測されうる(そしておそらくは複雑な個人的ライフヒストリーにおいて複合的に影響し合っている)が、それは今後の取り調べや裁判で真実が明らかにされるのを待たなければならない。
この当たりは秋葉原通り魔事件と同じで、一部のメディアや識者が「派遣切りされた若者の怒り」による犯行だと決めつけ、宣伝したものの、それ自体を犯人である加藤智大死刑囚に否定され、尻すぼみになってしまったのを思い出します
人は現実に起きた事件であっても、自分に都合よく解釈し、自分の思うがままに語ろうとします。そこでは事件を意味を問うのではなく、事件とは別の何かを語ろうとするからです
「通り魔」たちに共通する「疎外」という背景
凶行に及んだ最終的な個人的動機(トリガー)がなんであったにせよ、具体的な動機の内容にかかわらず、現代社会の「通り魔」的な事件のほとんどに大なり小なり共通している心理社会的背景は「疎外」である。
法務省の「通り魔」についての統計調査資料『無差別殺傷事犯の実態』によれば、こうした「通り魔」的犯行に及ぶ人びとは、住所不定者や施設入所者の割合が高く、また交友関係も狭く交際経験も乏しく、半数以上が無収入者であることが確認されている。相当過大に見積もっても、かれらのほぼ全員は恵まれた社会生活を送っている者ではない。社会的・経済的・人間関係的に厳しい状況にある人びとである。かれらはその厳しい状況のなかで、人間社会そのものに絶望や憎しみを抱くようになっていった。
私たちはこうした「社会的・経済的・人間関係的に厳しい状況にある人」を自分たちの手で助けようとすることは少ない。助けるどころか、可能なかぎりにおいて自分の傍から遠ざけて疎外する。ただし、疎外するときの態度はけっして冷酷なものではない。「自分が相手を拒絶した」というある種の《後ろめたさ》を負わなくてもよいように、とても美しく思いやりのある表現によって丁寧に装飾加工がほどこされている。
銃の乱射による大量殺人事件がしばしば起きているアメリカでは、「通り魔殺人」というのもありますが、多くは「特定の誰か」を狙った犯行であるのが特徴です
職場を解雇されたので銃を持って職場に乗り込み元同僚らを射殺するとか、高校や大学で差別を受けたから学校に乗り込み銃を乱射するとか、ある意味分かりやすい事件が目に付きます。不特定の誰かを狙うより対象を明確に絞り、憎悪をぶつけた方が鬱憤を晴らせるからでしょう(当たり前です)。そこでは社会に対する不満といった漠然とした対象を敵視するのではなく、個別・具体的な誰かを敵だと見定めているわけです
むしろ、日本のような不特定の誰かを狙って鬱憤を晴らそうとする犯行の方が、珍しいのかもしれません
「不快な他人」を遠ざけた社会の代償
社会に対して「反逆」することを選んだ「疎外者」たち――「派遣社員としての絶望(マツダ本社工場連続殺傷事件)」にせよ「インセルとしての憎悪(トロント車暴走連続殺傷事件)」にせよ、あるいは「ジハーディ・ジョン(ISILに参加したムスリム系イギリス人。首狩りの処刑人として知られた。彼はイギリスの名門大学を卒業するが、イギリス社会の人種・宗教差別によって恵まれた仕事ができず、次第に西欧文明の先進社会に憎悪を募らせていくようになった)」にせよ同じことだ。
のちに明らかにされたかれらの直截的な具体的動機は全員異なるが、かれらは自らの希望とは反し「疎外者」として生きることを余儀なくされたという背景を共有している。その対岸で、彼らのような人を疎外することによって、その他大勢の人びとは「不快な他人」とかかわらなくて済む快適な社会を享受した。
こうした括り方には賛同できません。「不快な他人」とかかわらなくて済む快適な社会などというのは筆者の頭の中にだけ存在するのでは?
多くの人は、職場に不快な人物がいたり、近隣に不快な人物が住んでいたりと、何がしかのストレスを感じて生活していると自分は思います。一戸建ての住宅で生活しようと、マンション暮らしだろうと、周辺に多かれ少なかれ問題のある人物が住んでいたりするものです
あるいは職場の上司、同僚、部下の中に話が通じない人物、疎ましく感じる人物がいたりするのでは?
なので、上記の記事のように、不快な他人とかかわらなくて済む快適な社会に自分たちは生きている、などと自覚している人は極めて少数派でしょう
この部分で筆者の言う前提は崩れるのであり、「不快な他人」を遠ざけた社会に暮らす代償として通り魔事件のようなリスクを引き受けなければならない、との論旨は的を外していると感じます
通り魔を生み出した「背景」を考えているか
言うまでもないが、通り魔やテロなどの行為自体はけっして許されるわけではない。だがそうした行為に及んだ人びとの「差別性」「加害者性」にのみ注目してしまうのはナイーブな議論である。「私たちとはまったく相容れず無関係な狂人が、お門違いな憎悪や差別心を募らせた結果だ」とすれば、自分たちや自分たちの暮らす社会の無謬性や正当性を守りながらたやすく「切断処理」してしまえるが、しかしそれでは「通り魔」という結果を生み出した原因のより深層にあるものを知ることができなくなる。
もっともな言い分ですが、しかし、對馬容疑者が何を考え犯行に至ったかを皆が皆、理解する必要があるとは思いません。自分は事件マニアなので知りたいと欲しますが、他の方は知りたくもないのでは?
秋葉原事件の加藤智大死刑囚が何を考え、実現しようとして犯行に至ったのか、多くの人には興味も関心もない話です。同情もしないでしょう
犯罪予防という観点から、これら通り魔事件を研究し、原因を解明し、社会防衛のための施策を講じる必要があるとしても、皆がそれに参画する必要があるわけでもなく
数ヶ月後には對馬容疑者も拘置所の中で「告白本」を書くのかもしれませんが、そこにあるのは自己宣伝や欺瞞であり、自分が何者かであるよう嘘を連ねるだけでしょう。「疎外された者」であっても、真実を語って世の人々に理解を求めるとは限りません。最後まで嘘をつき続ける犯罪者もいるのです
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