大阪交番襲撃 飯森被告に懲役13年求刑
かなり前になりますが、ロンドン市警で街頭を巡邏している警察官は拳銃の所持を止めたとニュースで報じていました。ただ、その後はロンドンでイスラム過激派による爆弾事件などありましたので、現在も原則として拳銃不携帯なのかどうかはわかりません
世の中には、「警察官が拳銃を所持しているから、これを奪おうとする人間がいて襲うのだ」と言う人もいます。ただし、刃物で通行人を襲う通り魔事件が毎年、あちらこちらで発生しているのであり、こうした凶器を所持した犯罪者に丸腰で立ち向かえ、というのは無茶でしょう
さて、大阪の交番を襲撃して拳銃を奪った飯森裕次郎被告に対し、検察は懲役13年を求刑しています
前回取り上げた7月26日の公判について、NHKが別の角度から記事を書いていますので、そちらも併せて引用します
おととし、大阪・吹田市の交番で警察官を包丁で襲って拳銃を奪ったとして、強盗殺人未遂などの罪に問われている35歳の被告は26日の被告人質問で、「頭の中で知人から殺せと指示された」などと述べました。
弁護側は、精神的な病気の影響で責任能力が無かった可能性があるとして無罪を主張しています。
東京・品川区に住んでいた無職の飯森裕次郎被告(35)は、おととし6月、吹田市の交番の前で警察官を包丁で襲い、一時、意識不明の重体となるけがを負わせ、拳銃を奪ったとして、強盗殺人未遂などの罪に問われています。
これまでの裁判で、弁護側は、被告は事件当時、統合失調症の影響で責任能力が無い状態だった可能性があるとして、無罪を主張しています。
大阪地方裁判所で開かれた26日の被告人質問で、飯森被告は「頭の中では、幼いころの自分が被害者の警察官に刺されていて知人から殺せとか拳銃を奪えと指示があったので、襲ってしまった」などと述べました。
幻覚による指示と自分の意思が区別できるかどうかについては、「よくわからない。あいまいです」と話しました。
また、警察官に対しては、「大変申し訳なく思うが、今も頭の中では自分と被害者が殺し合いをしている」と述べました。
今後の裁判では、精神鑑定を行った医師の証人尋問などが行われ、来月(8月)10日に判決が言い渡される予定です。
(NHKの記事から引用)
大阪府吹田市の交番で令和元年6月、警察官を刺して重傷を負わせ、拳銃を奪ったとして強盗殺人未遂などの罪に問われた無職、飯森裕次郎被告(35)の裁判員裁判の論告求刑公判が2日、大阪地裁(渡部市郎裁判長)で開かれた。検察側は「強固な殺意に基づく犯行で、住民に多大な恐怖を与えるなど社会的影響は甚大」と述べ、統合失調症の影響により責任能力は限定的だったとし、懲役13年を求刑した。午後に弁護側の最終弁論が行われ、結審する。
被告は犯行について「たぶん僕がやったであろうことは認めますが、正直分かりません」と述べており、争点は責任能力の程度だった。弁護側はこれまでの公判で、重い統合失調症の影響で「責任能力を問えない可能性がある」として無罪を訴えていた。
検察側は、犯行前に虚偽の110番をしたり犯行後に衣類を見つかりにくい場所に隠したりした行動を挙げ、「幻聴の指示では説明できない臨機応変で合理的な行動をしていた」と指摘。統合失調症の著しい影響があったものの、「残された正しい判断能力のもとで犯行を行った」として、限定的な責任能力はあったとした。
その上で、警察官から拳銃を奪うという特殊性や、丸1日間の逃走で過去最大級の緊急配備態勢が敷かれた危険な犯行から、通常であれば「求刑は懲役25年を超える部類」としつつ、限定的な責任能力を考慮し、懲役13年を求刑した。
(産経新聞の記事から引用)
前回取り上げた産経新聞の記事では、「妖精に指示された」との記述があったのですが、NHKの記事では「妖精」とは書かず「頭の中で知人から指示があった」と表現しています
統合失調症の方の幻覚・幻聴の特徴の1つが、「電波で指示された」とか「〇〇に命令された」などの言い回しで、命令されてそれに従わざるをえない状態だと表現します。反発することも拒否することもできず、第三者の命令で動いてしまったと当人は認識しているわけです
これは責任逃れの言動ではなく、当人ならではの実感としての表現です。ただし、このように「◯◯に命令されて交番を襲撃し、拳銃を奪った」と語っている限り、飯森被告自身、何を目的にして交番を襲撃し拳銃を強奪したのか、明確には認識できていないのかもしれません
フランスの精神分析家ラカンは、「主体が何を欲しているのか、自我は知らない」と表現しています。一般的に自分が自分であると認識する人間の心、意思を自我と表現しているわけですが、ラカンはこれを自我と主体という2つの概念に分けました
職場の若い部下(女性)をガミガミと叱りつける上司は、「彼女の仕事に問題がある」とこれを説明するのかもしれませんが、実は彼女から「厳しくも頼りがいのある男性」との好意を寄せてもらいたくてガミガミと叱りつけている、というケースがあります
この場合、「彼女の仕事に問題がある」と建前の部分を語っているのが自我であり、「頼りがいのある男性」という好意を期待しているのが主体です。自我は主体が何を欲しているのか、知らないまま行動しているのです
上記のように法廷では刑事責任を認めるか、認めないかの話になっていますので、飯森被告が何を考えて交番を襲ったのかは裁判の論点から外れてしまい、省みられないのでしょう。が、この事件の核心と呼ぶべきは飯森被告が何をするために拳銃を欲し、交番を襲ったかにあると考えます
取り調べ段階でさまざまな供述をしたとは思うのですが、飯森被告の主体は沈黙したままで何も語ろうとはしなかったのかもしれません
ところで求刑を報じる記事を読むと、検察は「統合失調症の著しい影響はあったものの、限定的な責任能力があった」と述べています。いつもなら「統合失調症の影響は限定的であり、責任能力はあった」と述べるところですから、今回は真逆です
それでも警察官を襲い重傷を負わせてまで拳銃を強奪した飯森被告は社会秩序の敵ですから、検察としては「心神喪失状態だったので不起訴」にはできないのでしょう
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