小田急切りつけ男 非モテによる無差別殺人?
小田急線の電車内で乗客を刃物で切りつけ逮捕された対馬悠介容疑者について、フリージャーナリスト青沼陽一郎が書いている記事を読んで「オヤオヤ」と思いましたので取り上げます
青沼はこの事件を、「日本では見られなかった犯罪形態」であるとし、アメリカで話題になっている「インセル」犯罪を引き合いに出しています
「インセル」犯罪とは、モテない貧困白人男性が、自分がモテないのは世の中の女が悪いとかリア充の男が悪いなどと決めつけ、無差別に銃を乱射して起こす事件を指すようです
アメリカでの銃乱射事件には、イスラム系やアジア系の住民が犯人というケースもあるのですが、大多数は貧しい白人男性によって引き起こされています
以下、青沼陽一郎の主張を引用します
「非モテ」による無差別刺傷、小田急線事件が示す分断社会の暗闇
(前略:事件の経緯)
「幸せそうな女性を見ると殺したいと思うように」
逮捕されたのは川崎市多摩区の職業不詳の對馬悠介容疑者(36)。報道によると取り調べに対して、こう供述しているという。
「約6年前から幸せそうな女性を見ると殺したいと思うようになった。誰でもよかった」
また、別の報道によると、以下のように供述していることも伝えられている。
「大学時代にサークル活動で女性から見下され、出会い系サイトで知り合った女性ともうまくいかず、勝ち組の女性を殺したいと考えるようになった」
「男にチヤホヤされてそうな女性を殺してやりたい」
最初に襲った女子大生については、こう述べている。
「可愛らしい服を着て男性に好かれそうだったため殺そうと思った」
「勝ち組の典型にみえた」
■日本にはなかった犯罪形態
そして、女子大生に切りつけた後は、「興奮して覚えていない」としつつも、こう語っているという。
「誰でもよかったが人を殺せなくて悔しい。でも逃げ惑う姿を見て満足している」
駅を通過する快速急行に乗り込んだ理由については、「途中で乗客が降りられないため逃げ場がなく、大量に人を殺せると思った」という對馬容疑者。そこからうかがい知ることができるのは、女性への執拗な劣等感とそれを飛び越えた強烈な殺意だ。
そこで私の頭に真っ先に浮かんだのが、「インセル」という言葉だった。これまでさまざまな通り魔事件や大量殺戮事件をみてきたが、ここまでの報道を知る限りでは、少し異質な事情を漂わせている。むしろ、それまで日本になかったはずが、海外から上陸した犯罪形態を映し出す。
■「望まない禁欲者」の犯罪と酷似する對馬容疑者の犯罪
「インセル=Incel」とはInvoluntary Celibateのことで、日本語に直訳すると「望まない禁欲者」「不本意な禁欲主義者」で、宗教的な意味があるわけでもなく、自分ではどうしようもない理由で禁欲状態に陥っている者たちのこと、もっと踏み込めば童貞をさす。日本では「非モテ」といえばわかりやすいかもしれないが、恋愛や性的なパートナーが見つからない、あるいは自身に性体験のない原因が女性にあるとする男性たちが、ネット上で自虐的にそう呼んだ。
インセルが一躍脚光を浴びたのは、2014年のことだった。エリオット・ロジャーという22歳の男が、米国カリフォルニア州サンタバーバラで銃とナイフで6人を無差別に殺害、多数の負傷者を出して自殺している。ロジャーは「インセル」を名乗り、自分がモテずに童貞であるのは自分を振った女性たちのせいである、その復讐が目的であるとする犯行声明をYouTubeに投稿していた。
以降、ロジャーはインセルの「神」となり、同様の事件が相次ぐ。15年10月にはオレゴン州の短大で9人が死亡、17年12月にはニューメキシコ州の高校で2人が死亡、18年2月にフロリダ州の高校で17人が死亡すると、同年4月にはカナダのトロントで25歳の男がバンで通行人10人を轢き殺して逮捕されている。この時に男はSNSにこう投稿していた。
「インセルの反逆はもう始まった。チャドとステイシーの支配を打倒せよ! 偉大なるエリオット・ロジャー万歳!」
「チャド=Chad」とはインセルの世界観でモテる男のこと、「ステイシー=Stacy」は魅力的な女性のことを呼ぶ。このチャドとステイシーの世界から排除されていることに反発を覚え、自分に振り向いてくれない女性を蔑視する。このインセルのほとんどが白人の若者で、アメリカ社会ではマジョリティであるはずなのに、アンダークラスに追いやられた「プアホワイト」の側面と自己認識を持つとされる。
(以下、略)
長々と引用しました。途中で区切ると意味不明になりそうなので、できるだけまとまった部分を抜き出しました。が、青沼は小田急事件を「インセル」犯罪だと断定しているのではなく、むしろ違うと主張します。「インセル」には横断的なつながりがインターネット上で形成されているわけですが、対馬容疑者にはそうしたつながりがなく、むしろ社会で孤立していたのが実際です。そして非童貞でしょうし
ならばと青沼は池袋通り魔事件や「津久井やまゆり園」殺人など引き合いに出すのですが、どうにも腑に落ちません。自分はむしろ、秋葉原の歩行者天国にトラックで突っ込んだ加藤智大死刑囚に近いと感じます
が、「感覚的に近い」と感じるだけであって小田急の切りつけ事件と秋葉原の無差別殺人が同じもの、と決めつける気になれません。加藤智大死刑囚も「非モデ」だったというだけです
そもそも「モテないから無差別殺人に走る」くらいカッコ悪い所業はないのであり、小学生にも笑われるでしょう
モテないのは容姿の問題ではなく、人間性で重大な欠落があるからでは?
それに気がつかないままナンパを繰り返し、力づくで女を口説き落とそうとするがゆえ女性から嫌悪される…と想像します
別段、青沼陽一郎を槍玉に挙げるつもりはなく、もう少し事件を語るのなら工夫すべきでは、と思った次第です
ただ、青沼陽一郎が文春オンラインに書いた記事の中に、「現実の裁判で、実際に死刑が差し迫った被告人が、その時の心境を、正直に打ち明けてくれたことがある。法廷の裏側で。ぼくにだけ。そんな貴重な体験をしたことがあった」と書いており、この時の体験をして「自分だけが死刑囚の本音を聞き出せ、その真の姿を伝えることができる」という思い込みに走らせたのだろうな、と推測します
これまでも繰り返し書いてきたように、ジャーナリストが拘置所で死刑を求刑された被告と面会を繰り返し、自分があたかも彼ら彼女らの本音を聞き出せていると勘違いするのはよくあるケースです。それが過剰な思い入れの結果であったり、精神分析で言うところの「転移」であり、死刑囚の代弁者になってしまっているという自覚を欠いた行為です
対馬容疑者は逮捕後、べらべらとよくしゃべるようですが、その中に重要な要素はほとんどないのであり、上辺のおしゃべりに心を奪われるのは大間違いでしょう。精神分析の側から見れば、彼が口に出さない部分こそが重要なのですから。残念ながらジャーナリストの人たちはそのように考える訓練は積んでいません繰り返しますが、対馬容疑者が何を語ったのかが重要なのではなく、何について語ろうとしないのかが重要です
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