元農水事務次官 子殺しは執行猶予という判例

元農水省事務次官である熊澤英昭被告が当時44歳になるひきこもりの息子を殺害したとして、一審で懲役6年の判決を受け控訴していましたが、控訴審でも懲役6年の判決は変わりませんでした。その後、被告も検察も上告しなかったため、熊沢被告の刑が確定しています
ここまでの事件の背景や裁判の経過は、当ブログで取り上げたところですから繰り返しません
事件そのものは熊澤被告による息子の殺害として認定され、懲役6年という殺人事件としては異例の軽い刑罰で決着したわけですが、それでも「こども殺し」という重い現実だけが何も解決しないまま残された感があります
2019年6月のデイリー新潮に「元農水次官の息子殺害事件、同じような“子殺し”裁判では執行猶予付き判決も多数」との記事があり、文末にこどもを殺害した親が執行猶予付き判決になった事例が列挙されています


元農水次官の息子殺害事件、同じような“子殺し”裁判では執行猶予付き判決も多数
「ごめん、ごめん」と謝りながら絞殺
2015年3月、和歌山地検は80歳の父親を起訴した。罪名は殺人罪。2月に自宅和室で長女(41)の首を電気コードで絞めた。殺人未遂で逮捕されたが、長女が搬送先の病院で死亡したため、殺人罪での起訴となった。
和歌山県警の取り調べに対し、父親は「娘が精神的に不安定で暴れるので、言うことを聞いてほしいと思って首を絞めた」と供述。朝日新聞が7日に報じた「殺人罪で父親起訴 和歌山・長女死亡で地検」の記事によると、自宅の壁には穴が開いていたり、ものが壊れていたりしたという。
そして7月、和歌山地裁の裁判員裁判は「約20年間長女の暴力に耐え、努力を続けたが一向に改善せず、肉体的、精神的に限界を迎えた末の犯行で強く非難できない」とし、懲役3年、執行猶予5年の判決を言い渡した。判決から殺害の状況を確認しておく。
《被告は2月14日午後10時20分ごろ、自宅寝室で横になっている病身の妻を長女が布団の上からたたく姿を見て怒り、自分の死後に親族に迷惑はかけられないと考え、長女を殺害した》
執行猶予の判決が出たこともあり、毎日新聞と朝日新聞が事件と裁判を詳細に報じた。前者は「和歌山・長女殺害:社会と考えたい 精神障害で家庭内暴力20年…行政への相談も途絶 父、28日に講演」、後者は「精神障害、一番苦しんだのは 暴力受けた20年、長女絞殺 【大阪】」との見出しで掲載された。それぞれの一部を引用させていただく。
《3人の子供がいる5人家族。末っ子の長女は、【註:原文は父親実名】さんにフレンチトーストを手作りしてくれる「優しい子」だった。だが、高校卒業後に就いた仕事はいずれも長続きしなかった。20歳ごろからは家にひきこもり》
《01年12月。長女は買い物で帰りが遅くなった妻をとがめ、窓から皿10枚を隣の家に投げつけた。警察に保護され、精神鑑定の結果、「情緒不安定性人格障害」と診断された。「ショックだった。外見もしゃべり方も普通の子なのに」
暴力は毎日のように続いた。標的は妻だった。ハサミで刺す。家中のガラスを割る。隣の家に包丁を投げたこともある》
《相談を受けた警察が暴れる長女を保護し、保健所の職員が精神科に連れて行くことも度々あった。自己中心的、他罰的になり、暴言や暴力行為などの症状が見られるパーソナリティー障害などと診断され、入退院は11回を数えた》
《警察から「事件でない限り、これ以上の対応はできない」として刑事告訴の選択肢も示されたが、できなかった。(略)考えつく全ての機関に助けを求めたが状況は変わらなかった》
《長女はクラシックなど音楽が好きだった。「お父ちゃん、聴いてみる?」。よくお気に入りの音楽を保存した携帯電話につけたイヤホンを差し出し、メロディーを聴かせてくれた。そしてあの日、いつものように勧めてくる長女のあどけない表情を見て、頬を手でなでた。「お母ちゃんからもらったきれいな肌を大切にしいや」。ひょう変したのは、その数時間後だった》
(中略)
《約20年前から繰り返されてきた光景。限界だと思った。【註:父親実名】さんは「ごめん、ごめん」と言いながら、こたつの電気コードを持ち、背後から長女の首を絞めた》


読売新聞の調べによれば、親が障害や病気に悩んだ末に子供を手にかけた殺人事件(2010~16年)の判決を調べたところ、実刑は6割で、残り4割は執行猶予だったそうです
当然ながら、判例重視の日本の裁判の傾向からして、熊澤被告に執行猶予付きの有罪判決が下される可能性は十分にあったのでしょう
何が理由で、根拠で、熊澤被告は実刑となり、他のケースでは執行猶予付きになったのかは興味があるところです。が、デイリー新潮の記事に掲載されている「こども殺し」事件の判決を丹念にたどり、比較して論じるのは自分の能力を超えますので、どなたか関心のある方にお願いします
ただ、上述のように「こども殺し」で実刑になった例も多数あるわけで、「こども殺し」が常に被告に甘い判決になったりはしません
熊澤被告の事件の際は、上級国民とされる高級官僚への反発や敵視が高まっていた時勢であり、逆にひきこもりでゲーマーだった息子に同情が集まるという奇妙なねじれ現象がありました。この事件の直前には、通学バスを待っていた私立校の児童の列に刃物を持ったひきこもりの男が切り込み、多数を死傷させる事件があり、ひきこもり男=犯罪予備軍との扱いでメディアが報じており、その反動で熊澤被告の息子に同情が集まったのかもしれません
事件の形は異なりますが、日立の母子殺害事件のように妻とこどもを殺害した小松博文被告について水戸地裁は心中事件として扱わず、小松被告の身勝手な犯行と断罪し死刑判決を言い渡しています。こどもは親の所有物ではなく、独立した人格として生きる権利を有するのですから、親の都合で命を奪うなどあってはならないとの考えでしょう
今後の類似した事件が繰り返されるわけですが、やはり個々の事件ごとに判断を下すしかないと思います

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