島根女子大生遺棄事件を考える48 事件の総括

文藝春秋デジタルに島根女子大生殺人事件を振り返る記事が掲載されています。警察はしばしば、「捜査方法に問題がなかった検証する」などと表明はしますが、本当に捜査方法を検証しているのか、それが現場で刑事事件を扱う捜査員の間で共有されているのか、疑問です
ましてや、メディアによる警察捜査への批判など、歯牙にもかけないのではないか、という気がします。それは唯一の捜査機関としての自負であるのかもしれませんし、驕りがあるからなのかもしれません(外野が分かったような口をきくな、と)
当ブログでもこの事件を幾度も取り上げましたし、警察の情報提供を呼びかけにも苦言を書きました。「不審者の情報を提供してくれ」と一方的に求めるだけで、何ら具体的な犯人像を提供していないのですから、市民が戸惑うのは当たり前です
前置きはここまでにして、記事を読んでいきましょう。長文の記事なので、全文は以下の文藝春秋デジタルへアクセス願います


【島根女子大生殺人】33歳真犯人は遺体発見2日後になぜ死んだのか

元捜査関係者が明かす。
「都さんがショッピングセンターを退出した前後に、通用口付近で、白いセダンの目撃証言が複数あった。車種はトヨタのマークⅡと見られ、まずは市内の同車種が徹底的に確認されました。やがてそれは同型種のトヨタ車にもおよび、それらの割り出し作業に時間を取られました」
しかし――。真犯人の矢野が乗っていた車は、トヨタのコンパクトカー・ヴィッツだった。初動の捜査で実際とは異なる車種への絞り込みが行われていたことになる。

白色のマークⅡが怪しい、との報道が出たのは事件から3年経った頃であったように記憶しています。しかし、この車は都さんがアルバイトをしていたショッピングセンターに勤める女性を迎えに来た夫の車、と判明しています。事件から3年を経て、まったく無関係な車両を捜査対象にし、報道を通じて情報提供を求めるという迷走振りです。加えてその後、白のマークⅡは無関係だという訂正を、警察がアナウンスしていたのでしょうか?
訂正しなければ、一般市民はいつまでも犯人は白のマークⅡに乗った人物、と思いこんでしまいます

捜査の焦点は、猟奇的な遺体の解体方法に移っていく。遺体は、内臓の一部が取り出された形跡があり、大腿骨の肉も、鋭利な刃物と見られるもので人為的に削ぎ取られていた。先の元捜査関係者は語る。
「遺体が残忍に切り刻まれていたため、合同捜査本部では犯人像について、猟奇的な性向をもつ人物であると、プロファイルしていた。レンタルビデオ店でホラー映画を借りた人物や、刃物店やホームセンターで鋭利な刃物を購入した人物を一人ずつつぶしていきました」
(中略)
だが、そうしたプロファイリングによって捜査が長期化したと、その元捜査関係者は指摘する。
「犯人像は狭まるどころか、どんどん拡大していった。あまりにも遺体が鮮やかに解体されていたため、猟師や、解剖の知識に長けた医療関係者にも捜査の網は広げられた。さらには都さんがロシア船の入港イベントに1度だけ参加したことから、ロシアの特殊部隊関係者説まで出ていました。捜査員の“思い込み”が捜査の偏りを生み、時間がかかったとの指摘があります」

捜査対象を絞り込むのではなく、むしろ捜査対象が拡大するという悪手です
もともと、捜査関係者の中には女子大学生を巡る痴情のもつれが原因の殺人で、犯人は交友関係を洗えば簡単に見つかるとの先入観があり、県立大の学生が犯人だと目星をつけ最優先に調べていたのです
犯人である矢野富栄は性犯罪の前科がありました。事件当時は県立島根大のある浜田市の隣、益田市に居住していたのですから、浜田市を中心に性犯罪の前科前歴のある居住者をリストアップしていけば、矢野富栄もそのリストに載る可能性はあったわけです
しかし、矢野は都さんを拉致して殺害し遺体を解体した直後、交通事故(あるいは事故を装った自殺)で死亡しています。なので、警察の捜査対象から抜け落ちてしまったのでしょうか?
本当のところは警察に訊かないと分かりません
事件から7年後、矢野富栄を犯人と断定した捜査本部の会見を伝える記事では、「捜査本部は今年に入り、性犯罪者が関与した可能性が高いとみて性犯罪前歴者の洗い出しの範囲を広げた。すると、今夏から秋ごろにかけ、平岡さんが行方不明になった島根県浜田市と隣接する同県益田市に、当時居住していた矢野容疑者の存在が浮上した」と書かれているだけです
矢野富栄に捜査対象を絞った警察は矢野の遺族を訪ね、遺品として残されたデジタルカメラを入手します。画像データは削除されていたのですが、データを復元すると都さんと見られる女性の遺体を解体する写真が何枚も撮影されていたと判明します
さて、捜査の方法、判断、見込みのどこに問題があったと警察が結論付けたのか、聞かせてもらいたいものです

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