マスク拒否男 エヴァに乗りそこねたシンジ君
マスク拒否男として逮捕された奥野淳也容疑者(34歳)について週刊女性が記事を掲載しています。奥野容疑者の実家にまで足を運び、取材を試みたのですが、実父からは「取材お断り」と拒絶されています。代わりに親族筋から話を聞き出して記事にしています
そこで思ったのが、記事のタイトルに挙げた、「エヴァンゲリオンに乗り損ねた碇シンジ君」のイメージです
もちろん、奥野容疑者は14歳でエヴァンゲリオンに搭乗するか否かを問われた碇シンジとは別であり、共通点などありません。あくまでも自分のイメージです
さて、週刊女性の記事は以下のようになっています。記事の前半には小学生から中学生まで「頭が良かった」とのエピソードが書かれていますが、そこは省略します
“元祖・マスク拒否男”がまた逮捕! 犯行のウラに東大大学院中退と「父親への復讐心」
(前略)
「それだけは、正直わからないんです……。理屈をこねるところはあったけど、普段はおとなしい子でしたからね。田舎の資産家のボンボンが、大学院を中退して、人生で初めて挫折した。東大卒なのに理想の職業に就けなかったことへのうっぷんが“マスク拒否”という形で爆発したのかもしれませんね」
と、厳しい言葉が並んだ。さらには、
「飛行機騒動のあと、アベマTVに出演して“マスク拒否の持論”を披露していましたよね。メディアに取り上げられて、調子に乗ってしまったのかもしれません」
父親の見栄のために東大に行かされたのかも
容疑者の本音はどこにあるのだろうか──。その疑問に、冒頭に登場した容疑者と親交のある天野さんが答えた。
「彼は父親への復讐のために問題を起こしていると、私は思っています」
今回の逮捕後、容疑者に面会して、身元引受人になった天野さん。容疑者と天野さんを結びつけたのも、やはり「マスク」だった。
昨年5月、天野さんの中学生になる息子がひとりで家電量販店を訪れた際、“マスクをしていない”と入店を拒否された。そして、店員から3枚990円ものマスクを売りつけられたという。これに天野さんは激怒し、
「マスク未着用で入店できないのは仕方ない。でも1枚だけ売るならまだしも、3枚入りのこんな高額なマスクを子どもに売りつけるのはやりすぎ。警察を呼んで恐喝だと話したところ、返金してもらいました」(天野さん、以下同)
この事件はネットニュースにもなり、それを見た容疑者は天野さんに強く共感。茨城・取手に住んでいた容疑者が、わざわざ東京まで足を運んで来店したのだ。
なぜトラブルを繰り返すことが父親への復讐になるのだろうか──。
「世間体ばかりを気にして生きてきた父親を困らせたいんだと思います」
例えば容疑者の東大卒という肩書。他人からすれば、素晴らしい経歴に思えるが、
「彼は本当に東大へ行きたかったんでしょうか……。父親の見栄のために行かされたのかもしれないとも思えてしまって。彼と話して、私はそう感じました」
一方で、これまで父親からの金銭的な支援にすがりながら生きてきた容疑者。今さら復讐と言い出しても、筋が通らないように思えるが、
「確かに単なるボンボンのたわ言かもしれません。親への復讐のために赤の他人を巻き込むなんて、私も理解できません。それでも、彼にチャンスを与えてあげたい」
天野さんは続ける。
「今後、私が彼にマスクをつけさせます。シャバへ戻ったら、うちの店で彼を働かせる約束もしてきました」
数日後に容疑者と再び面会する天野さん。元祖マスク拒否男の“心のマスク”をはずすことはできるのか──。
いつも書いているように、発達障害のあるこどもの場合、学校の成績が良ければそこだけが注目され、評価され、特異な言動は無視されがちです。なので成績が良かったというエピソードをいくら並べても、奥野容疑者の姿は浮かび上がってきません。省略した小学時のエピソードで重要なのは、「小学校の運動会で、ひとりだけ逆走したり、グラウンドの中央を突っ切ったりして場を乱していましたよ」、「テストで自分よりいい点数の子がいると、その子の肩や腕を歯形が残るほど本気で噛んでいた。自分より先にテストを終えた子に対しても“なぜ自分より早くできるんだ!”と怒っていた」の2点でしょう
あとは中学時代、陸上部に所属していたという話です。記事に添付された写真が部活のものかは判然としませんが、トラック競技をしていたのでしょう。走るしかできない単細胞、というわけではなく、つまり奥野容疑者は野球のように複雑な競技規則を理解し、投げる、打つ、走るといった身体的に高い技能を会得しなければならないスポーツは苦手だった、と解釈できるからです。そして運動会のエピソードは注意欠陥多動障害児にしばしば見られる行動です
奥野容疑者はこうした発達障害の症状が見られたわけですが、学校の成績がよいという面ばかり評価され、障害については特段の治療も受けないまま大学に進学したと考えられます(その意味で、週刊女性の記事は見当外れです)
現在、奥野容疑者は「自分は発達障害であるからマスクは着けられない」と主張しています(厚生労働省も発達障害のある人はマスクを装着し続けるのが困難な場合がある、と理解を呼びかけています)ので、成人後にどこかの医療機関を受診し、発達障害であるとの診断を受けたのではないかと考えられます
大学院で博士課程へ進んだものの、学位請求論文が審査を通らず、その後も何度か論文提出をしても博士号は得られませんでした。取材するならそこに突っ込んでほしかったのですが。指導教授から話を聞くとか
実際に博士号未取得(博士課程単位取得退学)でも研究者になった人物はいくらでもいるわけであり、博士号が取れなかったから研究者になれなかったという記事の内容は大いに疑問です。もともと研究者になれるだけの独自の理論を構築したり、従来の定説をひっくり返すような新たな学説を唱える能力が彼には欠けていたのでは。受験勉強だけは得意であっても
エヴァに乗れなかったシンジ君
さて、そんなところから碇シンジ君が14歳でエヴァンゲリオンへの搭乗を拒否したら、奥野容疑者みたいになっていたのかと考えてしまいます。マスクを拒否するのと、エヴァンゲリオン搭乗を拒否するのとではどうにもギャップがありすぎるわけですが
作品中に描かれる碇シンジには発達障害をうかがわせるエピソードはなく、内気で人見知りが強い程度でしょうか?
一部には碇シンジを「自閉症」だと指摘する声もありますが、それは自閉症の定義を誤解している人の意見でしょう
父ゲンドウは最初からシンジならエヴァを操縦できると確信していたのであり、事実そのとおりになりました
その点では、奥野容疑者は大学院の博士課程まで進んで博士号を取り損なったのであり、父親の立場からすれば失望したに違いありません
そして大学の研究者や講師にもなれませんでした。博士号未取得でも、どこかの大学の非常勤講師になる術もあったのでしょうが、おそらく奥野容疑者は論文の再提出でなんとか博士号取得をすることに賭け、数年を無駄にしたと思われます
秀才である自分が挫折し、惨めな境遇に陥った現実を奥野容疑者は受け入れられず、社会のせいだ、とすり替えた結果がマスク拒否事件なのでしょうか?
シンジがエヴァに乗らなかったなら、それに代替する何かで自分を証明し、皆から承認されることを求めたはずです。大学院まで進んで博士号取得を目指したのかはともかく
父と子の対立、葛藤などは数千年にわたって繰り返されてきたのであり、いまさら新しい問題ではありません。が、当人たちにすれば現前の、まさに今つきつけられている問題であり、答が見えない状況のまま四苦八苦している、と解釈できます。奥野容疑者にすれば、逮捕され起訴されている今こそ、自分を証明し、皆から承認される機会なのかもしれません。同時に、父親に対して何かを示すことができると
まとまりに欠けますが、シンジがエヴァに乗らずとも父ゲンドウとの対立、葛藤は続いたのであり、そこでシンジは何かをもって自身を証明するよう迫られたはずです
奥野容疑者には「エヴァンゲリオン」の物語がどう映るのか、訊いてみたいものです
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