元農水事務次官 控訴審でも懲役6年判決

引きこもりの長男を殺害した罪で一審東京地裁において懲役6年の判決を受けた、元農水省事務次官の熊澤英昭被告の控訴審判決がありました
東京高裁は熊澤被告の控訴を棄却し、一審判決を支持する決定を言い渡しています

東京都練馬区の自宅で令和元年6月、長男=当時(44)=を刺殺したとして殺人罪に問われた元農林水産事務次官、熊沢英昭被告(77)の控訴審判決公判が2日、東京高裁で開かれた。三浦透裁判長は懲役6年とした1審東京地裁判決を支持し、被告側の控訴を棄却した。
弁護側は控訴審で「被害者に殺されると直感して反射的に殺害に及んでおり、正当防衛に当たる」として無罪を主張。正当防衛が成立しなくても、暴行を受けると誤信した「誤想防衛」に当たると訴えていた。
判決理由で三浦裁判長は「長男は被告の行く手を阻んだり追いかけたりする動きを見せておらず、現実的な危険性は差し迫っていなかった」と指摘。「強固な殺意に基づく犯行で、1審判決は量刑傾向に照らしても重すぎるとはいえない」と結論づけた。
1、2審判決によると、熊沢被告は元年6月1日、自宅で長男の首などを包丁で突き刺し、失血死させた。
(産経新聞の記事から引用)

産経新聞の報道はあまりに簡潔すぎますので補足しなければなりません
熊澤被告は当初、一審判決を受け入れ刑に服すつもりだったようですが、弁護士と話し合って控訴しました
その経緯は「FRIDAY」の以下の記事に書かれています。ライターの高橋ユキはプロの傍聴人を名乗り、数多くの刑事裁判を傍聴し、記事を書いている人物です

長男刺殺の元農水次官 弁護士10人従え主張した「無罪」の論理

長男の英一郎さんは中学生の頃から家庭内で暴れるようになり、ほどなくして熊沢被告の妻に暴力を振るうようになった。熊沢被告はこれを、時に手で制止し、時に言葉で諌めながら向き合ってきた。高校卒業後、長男は日本大学を休学したのち別の専門学校へ入学するなど、紆余曲折をへて無事に大学を卒業するに至ったが、ときの〝就職氷河期〟の影響もあり、希望の仕事も不採用となる。その後もパン作りの学校へ通わせたり、知人のつてで仕事を紹介したりと、さまざまに手を差し伸べてきた。
長らく精神疾患を患っていた長男の代わりに通院し、病状を伝えてきた。さらに、アニメや漫画、ゲームが好きだった彼にコミケへの出品をすすめたり、妻の所有する目白の戸建てに長男を住まわせ、近所の駐車場や賃貸物件の賃料で生計を立てられるように準備を整えるなど、熊沢被告は長男の今後を考え、様々に世話をしていた。そんななか、事件は起こった。

十分か不十分かの議論はさておき、熊澤被告が長男の身を案じてさまざまな手を尽くしていたことが伝わってきます。それでも長男の家庭内暴力は収まらず、事件に至ってしまった、と裁判で主張しているわけです
東京地裁、東京高裁の判断としては、「目前急迫の危機がない限り、正当防衛とは認められない」というものです。つまり、長男が刃物を持って襲いかかってきたら正当防衛と認められる、というものであり、睨みつけたり暴言を吐いた程度で正当防衛は成立しないとの考えです
長男との関係に疲弊し、老いを実感している熊澤被告にすれば、長男を殺すなら今しかないと思いつめたのではないかと推測できます
時あたかも私立学校に通う児童の列に引きこもりの男が刃物をもって切り込み、児童を殺傷する事件が起きたばかりでした
熊澤被告の行動を正当化するつもりはありませんし、量刑も特段偏っているとは思いませんが、息子を殺すしかないと思いつめた熊澤被告の絶望というものを、裁判を介して受け止める必要があると感じます
上記の「FRIDAY」の記事とは真逆の記事が朝日新聞系オピニオン雑誌「論座」のウェブサイトに掲載されています。こちらもノンフィクションライターの手による記事ですが、熊澤被告を池袋暴走事故の飯塚幸三被告と同一視し、高級官僚の思い上がりが家族を犠牲にし、事件を招いたとして糾弾する意図で書かれています(飯塚幸三被告は事故を車の異常によるもので、自分の責任ではないと主張しています。熊澤被告は長男殺害を認めており、その責任を自分は負うと述べており、大きな違いがあります)
記事の副題は「エリート官僚の殺人犯は、徹底して弱者への想像力がなかった」とあり、殺害された熊澤被告の長男を弱者と位置づけています
そしてあろうことか、熊澤被告の娘の自殺を最初に取り上げ、熊澤被告とその妻が娘を自殺に追い込んだと断定しているのですから呆れて言葉も出ません。記事を書いたライターがどこまで取材をしたのか不明ですが、当時、どのような事情があって熊澤被告の娘が自殺したのか、真相を究明した上で書いているのでしょうか?

元事務次官熊沢被告はなぜここまで擁護されるのか

およそ、娘の自殺を悲しまない親はいないのであり、熊澤被告を血も涙もない人間と貶めるために書いているとしか思えない内容です
そして長男殺害も、エリート官僚ならではの計算尽くの、世間の同情を得られると踏んだ上での行動と決めつけたいのでしょう
しかし、どこまで関係者に取材をした上で書いているのか疑問です
記事の途中にはなぜか唐突に松田聖子と神田沙也加の親子問題に言及しており、とんちんかんな内容です。が、興味のある方は一読ください
このライターにすれば、熊澤被告が8874万円の退職金を手にしたのも許せないのでしょうし、控訴審で弁護士が10人もついていることすら許せないのかもしれません。ですが、控訴するかしないかは被告人が決めることであって、赤の他人のライターが決めることではないのです

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