「セーラームーン」と美少女アニメを考える

「カワイイは正義」と言われるように、少女アニメの主人公はもれなく美少女です。いくつか例外はあるとしても
そして世の中の男は皆、美女や美少女が好きです
では女性はどうなのでしょうか?
「魔法少女」というジャンルから新たな形態を生み出した「美少女戦士セーラームーン」のシリーズについて考えようという企画です
当時、「戦隊ヒーロー物」は存在しましたが、紅一点で女性メンバーが加わる構成が常であり、全員が女性という戦隊ヒロインは画期的なアイディアでした。以降、漫画だけでなくアニメーションや実写ドラマ、ミュージカルなど多くの派生コンテンツを生み、社会現象とまで言われるに至ったわけです
ただ、そこにジェンダー目線の批評(あるいは批判)が加わるようになって、単純に美少女の活躍を愛でる作品ではなくなり、論争の場へと変化しています
今回は海外での「セーラームーン」の反応を軸に考えることにします

セーラームーンが世界の女性に示すも
(前略)
少女漫画の多くは思春期や10代の少女たちを描きだしている。 そのテーマは多岐にわたり、ビジュアルの描き方、ロマンチックな題材や感情を描いているという点では、対になる少年漫画や青年漫画とは一線を画しているといえる。
『セーラームーン』シリーズは、少女漫画のジャンルの中でさらに魔法少女ものに分類される。卑劣な敵から世界を救うため、魔法で「かわいい」姿に変身する能力を持つ8~14歳の少女が登場するファンタジーアニメの一種だ。
かわいさと強さを同時に見られる上、主人公は精神的に成長し、大人になっていく。つまり、魔法によって成長の仕方を学ぶのだ。
『セーラームーン』などの少女漫画の人気は日本だけにとどまらない。特に『セーラームーン』のような魔法少女ものが、西洋でアニメや漫画が紹介されるきっかけになった。
日本国外のファンが、『セーラームーン』で個性を感じ、時には変わったと言っている。
人気オンラインパーソナリティのPrincess Mentality Cosplayは、「あなたにとって『セーラームーン』とは?」と尋ねられた際、このように述べている。
(以下、さまざまなファンの発言)
肌の色が違うせいでこのファンダムに私の居場所はないと言われたときでさえ、『セーラームーン』はどんな試練にも立ち向かう強さをくれました。セーラームーンが、平等と受容、そしてとことん楽天的でいることの大切さを教えてくれたのです。

セーラームーンは宇宙人だけでなく、少女たちの中にある美しいものすべてを壊そうとする大人の世界とも戦っている。愛する人々を守るために戦い、傷つき、倒れ、時にはすっかりへこたれることさえある。そしていざ切り抜けることができたときには、魔物にされた人間も救おうとするのだ。

このシリーズはセーラー戦士たちの性格や興味、ジェンダー的表現の幅広さにも焦点を当てている。読書好きの亜美(マーキュリー)から体育会系のまこと(ジュピター)、芸術家肌のみちるまで、それぞれの少女たちに対応する戦士の形がある。さらに、たくましい少女たちがどのような苦労をしてジェンダーの役割を模すのかという点に言及することもある。たとえば、おてんばゆえに失敗していたまことがどのように料理を学んだかなどだ。


思いの外、好意的な声が寄せられています
もちろん、これとは真逆の容赦ない批判もあります
「ミニスカートで敵と闘うなんて馬鹿げている」、「男に媚を売っているところが嫌い」、「なぜ美少女だけがセーラー戦士なのか」などなど、女性の側からの指摘を集めたウェッブサイトもあります
ただ、上記の記事にあるように、セーラー戦士たちの豊かな個性、ノビノビとした立ち振舞に、苦難に立ち向かう勇気に救われたと感じる女性が存在するのであり、これは素直に褒め言葉と受け取って良いのではないでしょうか?
洋の東西を問わず、クラスに馴染めなくて孤独を感じている女の子はいるのであり、彼女たちが「セーラームーン」からささやかな勇気を得られたと言うのであれば、漫画の作者武内直子にしてもアニメーションの制作スタッフにしても、自身の仕事に誇りを感じられるでしょう


日本において魔法少女ものの持つ文化的意味は、伝統的な女性らしさの特徴を抑える一方、女性の地位向上と自立をテーマとするところにある。
日本の少女たちにとって、セーラームーンは少女や少女らしさに対して日本人が抱く概念の典型である。彼女には興味を惹かれるものを追う自由や、進みゆく道に立ちはだかる困難に打ち勝っていく精神力があるのだ。


以前、イギリスの漫画ファンの女性の討論というものを紹介した記事の中で、ブログ「日本晴れ!」のヤオイ系漫画に対する海外の反応、というものを引用させてもらいました。ジェンダーという視点からすれば、「日本は遅れている、それに比べて欧米は」という語り口があるわけですが、意外とそうは言い切れない現実が浮かび上がってきます
ヤオイ系漫画(現在ならBL)について語る彼女たちは、BL好きを親にはひた隠しにしています。親にバレたら説教どろこでは済まない、と分かっているからです。彼女たちからすればBLの漫画雑誌や同人誌が堂々と売られている日本こそ、自由の国と映るのでしょう
あるいは、日本では土日にロリータファッションで渋谷や原宿を歩き回っても別段とやかく言われないのですが、ロンドンやパリの街角をロリータファッションで歩こうものなら、たちまち顰蹙を買い、見知らぬおばさんから説教を食らうでしょう。そもそも親たちは、ロリータファッションの娘を家から出そうとはしないと考えられます。場をわきまえない服装は恥ずかしいのであり、そんな格好で出歩くべきではない、とする価値観が根強く残っているからです
自由の国とされるアメリカでさえ地方によっては娘らしさが過度に求められ、それに反する服装はタブー視されるという保守的な面が健在だったります
なので、日本人が思っている以上に日本の漫画やアニメーションに描かれている日常生活は、「自由」を享受しているように欧米の視聴者には映るようです
日本社会に対する誤解と片付けるのは簡単でしょうが、案外そうとばかりは言い切れないキリスト教社会の閉塞された状況が欧米には存在すると思います
イギリスの公共放送BBCは日本の漫画やアニメはポルノであり、取り締まるべきとの番組を放映していましたので、そこらの問題はまた機会をあらためて取り上げます

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