映画「えんとつ町のプペル」 高評価と批判

キングコング西野亮廣が絵本作家としても活躍し、「えんとつ町のプペル」を劇場版アニメーション化するとの報道に接したのはいつだったか?
はっきり言って自分の関心外であるため、特段注意も払っていませんでした
「現代ビジネス」のサイトに、「話題の映画『えんとつ町のプペル』に抱いた『強烈な違和感』」と題する記事がありましたので、取り上げることにしました
昨年末に全国308スクリーンで公開された「プペル」は公開2週目には興行収入成績第3位につけており、好調です。コロナ禍の影響でライバルが不在とも言えますが、予想外の健闘でしょう
その健闘ぶりとは裏腹に、「現代ビジネス」掲載の批評は随分と辛口です


話題の映画『えんとつ町のプペル』に抱いた「強烈な違和感」
(前略)
絵本から映画になるにあたって加筆修正が加えられているが、これが問題含みなのだ。
絵本から何が変わっていて、どこがまずいのか?
絵本のストーリーは、町中に無数に立つえんとつの煙でいつも薄暗くて星も見えない孤島の町にハロウィンの日にゴミ捨て場に落下してきた塊が周りのゴミを吸い付けてゴミ人間のプペルをつくる。ゴミの化け物で悪臭を放つプペルを町の人びとは嫌悪するが、町の外の世界や父が話していた星空の存在を信じている変わり者の少年ルビッチだけは理解を示し、ふたりは飛空船を使って分厚い雲の上まで飛んで星の輝きを目の当たりにする――というものだ。
映画ではプペルとルビッチだけが星空を見るのではなく、彼らが空に登ったあとで大量の火薬を爆発させることで雲を消し飛ばして町の人びと皆に星空を目撃させ、「星なんてない」という迷信の誤りを知らしめる、というのが最大の変更点になっている。
これの何がまずいのか?
映画版では、えんとつ町がなぜ煙の町になったのかという背景が明かされる。
えんとつ町は特殊な経済原理を導入したコミュニティであり、外界から発見され、交流を持ってしまうと、外側から迫害されたり、制度を変えさせられてしまうかもしれないがゆえに、あえて閉じていたのだ、と。
ルビッチはこの話を聞いてなお、町の外側の存在を住民に知らしめることを一切ためらわない。
また、星空を見たえんとつ町の為政者たちは「煙を止めろ」とあっさりルビッチの行動を認める。
これには驚いた。
よそから見つからないように、また、住民が外に出て町の存在を吹聴しないように煙幕を張り、迷信が流布されていたはずなのに、町全体を危険にさらす行為をすることに主人公はなんの躊躇もなく、体制を護持してきた側はなんのお咎めもしないのである。
だったらはじめからオープンにすればいいではないか。
設定が破綻している上に、絵本版が持っていたメッセージを、より尖った、危険な方向に拡張している。
西野はこの作品を自分をモデルにしたものだとくりかえし語り、「夢を持つと笑われる社会を変えたい」「やってみないとわからないことを否定するな」とことあるごとに語っている。
(以下、略)


「夢を持つことは大切」とか、「夢を諦めてはいけない」などという、アレなメッセージを発信する作品なのでしょうが、その脚本の弱さ、破綻を上記の記事は指摘しています
ただし、これまで幾度も指摘したように大御所である宮崎駿の劇場版アニメーションでも脚本が破綻しているのは珍しくはないのであり、西野亮廣をことさら責める気にはなれません
シネマカフェでは「プペル」を激賞する記事を掲載しています


絵本の世界がさらに進化! 未来へと踏み出す勇気とパワー溢れる物語に「前向きな気持ちになった」
鑑賞した約8割が「号泣した」「何回も泣いた」「ウルっときた」と答えたことに加えて、夢を諦めないキャラクターの姿に「前向きな気持ちになった」「何かに挑戦したくなった」といったポジティブな声も多数。泣けると同時に、観客の背中をそっと押してくれるメッセージ性に、世代を超えた共感が寄せられた。
「原作も感動しますが、こちらの映画もとても見がいあります。家族にもおすすめしたい作品です」と原作ファンからも高評価。「内容は知らず見ましたが、今だからこそもらえる勇気のメッセージがこの映画から伝わってきました」「マスクがぐちゃぐちゃになるくらい泣きました。信じることの大切さ、諦めない心を教えてくれる素敵な作品だと思います」といった感動のコメントをはじめ、「窪田正孝さんの声優がめちゃくちゃ良かったです。もっと声優業やって欲しいなと思いました」という声優陣を高く評価する声もあった。


感動された観客の皆さんに、作品を観てもいない自分が冷水をぶっかけるような真似をするのは恐縮ですが、思考停止せずにきちんと話の筋を追い、どこまで理解可能か吟味する必要があります
そうしないと、毒にも薬にもならないディズニー作品に無条件で感動する、などという飼い慣らされた状況に陥ってしまいます
宮崎駿の作品でも駄目なものは駄目であり、それを駄目だと指摘できるだけの鑑賞眼を持つべきだろう、と自分は思います
絵本のアニメ化だから、メルヘンだから、「多少の矛盾や破綻に目くじらを立てるべきではない」との意見もあるのでしょうが、賛同できません
こども向けであるならなおさらことの良し悪しには敏感であるべきで、一方的な価値観の押し付けは避ける必要があるのでは?
しかし、「現代ビジネス」の記事は「映画『えんとつ町のプペル』には対話もなければ葛藤もない」と指摘しており、「ルビッチたちは自らの内面の弱さや危うさと真剣に向き合うこともなければ、敵側の主張や行動とわたりあうことで何かを学ぶこともない」のであり、学ばない以上ルビッチには成長もありません。こうしたこども向けアニメーションの多くは、主人公たちが葛藤や対立を乗り越え成長する姿を描くことで感動を呼び起こすのです
作者西野亮廣には根強いアンチが存在しているわけですが、結局のところアンチによる数々の批判はスルーして、自身を支持するファンとの交流に依存しているその姿勢が、独善的な物語を作ってしまう結果に結びついているのではないか、という気もします。だからといって、アンチと対話しろとか、交流しろとか主張する気はないのですが
やはり身近なところに作品を辛辣に批評してくれる人物がいないと、脚本の破綻にも気づかず、気づいても「これはこれでよいのだ」と誤魔化してしまう危険があるのかもしれません。宮崎駿の場合も、ジブリの中に宮崎駿に諫言できる人物がほとんどいなかったという状況が災いしたのではないか、と推測します

『映画 えんとつ町のプペル』冒頭180秒大公開

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