「漫画やアニメはこどもに悪影響を与えている」と主張する論文

今回取り上げるのは福岡にある中村学園大学短期大学の学生による卒業論文のようです
最初は卒業論文とは知らないまま(教職員のものか、と決めつけ)、ブログに取り上げようとあれこれ書いていました。最後に短大の教職員かどうか確認しようと検索したら、学生の卒業論文と判明した次第です
せっかく書きかけたものをボツにするのは「モッタイナイ」ので、修正した上でアップします
かつて少年非行の温床としては俗悪テレビ番組(ドリフターズの「8時だよ!全員集合」など)が槍玉に挙がり、さらに漫画(少年ジャンプの「ハレンチ学園」など)が批判され、そしてテレビゲームが元凶とされた経緯があります
そちらの話をするのが目的ではないので割愛しますが、こうした俗説がまだまだ生きているのかな、と思えるような論文があったので取り上げることにしました
卒業論文を晒しものにして揶揄するような真似はしたくありませんので、そこは節度を持って扱うよう気をつけるつもりです

アニメ・漫画の影響

前段の漫画やアニメの歴史は読み飛ばしてください
問題は『3 章 心理的「悪」影響と効果』からです

3.1 節 アニメ・漫画が与える心理的悪影響
アニメ・漫画が与える心理的悪影響についてまず初めに、暴力的なシーンや発言等が多数あり、子ども達が真似をしてしまうという点である。前述したように、漫画やアニメのキャラクターに強い憧れを抱く子どもは多いが、その憧れが逆に悪影響となる場合もある。例として、「ワンピース」では刀が頭に刺さろうと、鉄のバットで頭の骨を砕かれようと、真剣でめった斬りにされようと、巨人に踏みつぶされようと、主人公は決して死なず、また、「ポケモン」では動物虐待等が挙げられる。勿論、争うことは悲しいこと、人を傷つけることは自分を傷つけること、守る為の戦いで傷つける為の戦いではない等、漫画を通して作者が伝えたい意図は多々あることも理解できるが、それ以上に年々漫画やアニメの暴力シーンや格闘ゲームは激しさを増しており、どんなに暴力を奮っても人間や動物は死なない等、生き物の命の感覚が希薄化してきていることの方が大きな問題となっている。その結果として、興味本位で真似をすることが増え、イジメ等が増加することが懸念されている。
3.2 節 アニメ・漫画から影響を受けた凶悪犯罪
日本の未成年の凶悪犯罪が起こる背景として、「アニメや漫画」の存在が少なからず関わっていると言われ、特に影響を与えている週刊アニメ雑誌に出てくるような連載作品には、命を軽視するような絵が描かれていたり、未成年にはとても不適切な表現の言葉ややり取りが交わされる等、凶悪犯罪の温床になりかねないとの意見もある。生活の中にアニメや漫画が毎日のように関わっている現代では、子ども達がアニメや漫画から受ける影響は良い面でも悪い面でも共に大きなものとなってきている。中には、アニメや漫画の影響が犯罪へと繋がる事件も起きており、例を挙げると宮崎勤元死刑囚の「東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件」や「酒鬼薔薇聖斗事件」等がある。
しかし、例にも挙げたような犯罪において、同じアニメや漫画を見た子ども達が全員犯罪を犯してしまうのかと考えると、アニメや漫画の影響は人それぞれ違うと捉えることが出来るのではないだろうか。

まず、宮崎勤死刑囚がどのような漫画作品、アニメ作品の影響下で事件を起こしたのか、作品名を具体的に提示する必要があります。神戸の連続児童殺傷事件でも同じく、どのような作品が彼をして犯罪に走らせたのでしょうか?
作品と犯罪事実との因果関係をきちんと示すことができないのなら、それは単なる憶測であり一部の報道の受け売りにすぎないのです。ならば論文に書くのは止めましょう
卒業論文というからには指導教授がいたはずであり、指導教授はこの記述を読んで何も思うところがなかったのでしょうか?
その他、漫画の影響で起きた凶悪事件の1つでも例示できているならともかく、こうした著名な事件を出しながら因果関係の考察を欠いているのは未熟であるにしても酷い内容です

3.4 節 少女漫画が与える悪影響
少女漫画について考えると、少年漫画に比べ性描写が多く描かれている。元々、児童ポルノ法案(児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法案)の第一条では「この法律は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ、あわせて児童の権利の擁護に関する国際的な動向を踏まえ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利を擁護することを目的とする。」と定められている。
しかし、少女漫画では性的描写の自主規制が少年漫画に比べ、規制の度合いが緩く、その規制緩和の動きが低年齢化してきている。
少年漫画を好んで読む女性が多く、少年漫画人気が続いていることから、少女漫画の売り上げは伸び悩んでいる。そこで、少女漫画は基本的に人気のある恋愛モノを主流として、少年漫画よりも性的描写が多く過激なものも出版されている現状である。成人向けの漫画は売り場を分ける等の対策をして、はっきりの差別化が図られており、子ども達には読むことができないようになっているが、それに比べると少女漫画は過激なシーンがあったとしても、本屋では普通の漫画と同じように棚に並んでおり、子ども達でも自由に読むことも出来る環境にある。このような少女漫画を子ども達が読むことに対して、反対する親が多いことも事実であり、例えば、茨城県では一部の少女漫画を有害図書に指定された。更に、2007 年には日本 PTA 全国協議会による「子どもとメディアに関する意識調査」の中で、「子どもに読ませたくない雑誌」に少女漫画が第一位に選ばれた。

この記述も何ら説得力がありません。少女漫画と記述しているだけで、具体的にどの作品を指しているのか不明です
どの作品の、何の描写が問題なのか、きちんと示す必要があります。加えて、その作品によって誰がどのような悪影響を被った事実があるのか、例示できるのでしょうか?
性非行、援助交際に走った少女Aが漫画「◎◎」の影響を受けていた、という事実のないまま、一般論めいた主張を展開してもねえ
さらには少年漫画と少女漫画の差異もきちんと論述してほしいものです
PTA協議会が何を決議しようと、調査しようとどうでもよいのであり、そこで何が議論の対象となったのかが重要です
おそらく卒業論文を書いた学生さんは真面目な方であり、講義にもきちんと出席していたのでしょう
にも関わらずこのような空疎な内容の卒業論文を書いたのは、大学の講義内容に問題があったのか、卒論指導に問題があったのか、あるいは両方だったのではないか、と思います
少女漫画の性描写が問題であると決めつける前に、思春期の少女たちにどれだけ有意義な性教育が日本でなされているか(セックス教育ではなく)、それを問う必要もあるでしょう
日本は民法で女性は16歳で結婚できると定めてきましたが、果たして有意義で必要なだけの性教育を中学卒業までにきちんと行ってきたのかどうか?
「女は結婚して子供を産めばいい」との考えしかなかったのでは?
最後に少女漫画の現在、という意味で「CITRUS」の動画を貼っておきます

CITRUS OPENING

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