宮崎駿「風立ちぬ」は戦争賛美アニメか?
宮崎駿の「風立ちぬ」については幾度も言及したところですが、公開から数年を経過しどう評価が定まったのか、気になるところです
作品の内容云々よりも、太平洋戦争に突入してゆく時代の、戦闘機の設計者を主人公にしたがゆえに戦争賛美する作品であると決めつけられ、批判を浴びました。特に中国や韓国で、さらにはこれまでジブリ作品を愛好してきたと称する日本人からも批判を浴び、宮崎駿としては憤懣やる方ない気分だったはずです
当然ながら「風立ちぬ」を制作する前に批判があることは想定していたのでしょうし、それを踏まえてもなお「風立ちぬ」を制作するべきと判斷した上で取り組んだはずです
しかし、想像以上の批判を浴びてうんざりしたのか、批判の中身のなさに失望したのか、宮崎駿は弁解や釈明を放棄してしまった感がありました。スタジオジブリは韓国メディアの記者を集め、宮崎駿が会見を行ってまで作品に対する誤解を解こうと試みましたが、失敗に終わっています。実際、批判する人を相手に何を言ったところで折り合えるはずもなく、妥協も和解も成立しなかったでしょう
本日は「偏屈文化人のブログ」さんから引用させていただきます
『風立ちぬ』再論 宮崎駿『風立ちぬ』にみる科学技術と倫理
反戦映画なのか、戦争賛美映画なのかとの論争
(前略)
様々なメディアでの批評の嵐は、『風立ちぬ』も例外ではなかった。この作品の批評が始まったのはテレビやラジオといったメディアよりも、ネットメディアであった。そもそもジブリ映画は、アニメーションということもあり、比較的若い世代に人気がある。ネットで言論を述べているのも若い世代であるから、以前からジブリ映画に対する様々な書き込みが見られた。公開されるやいなや、通称「ネトウヨ」と言われる、ネット上で右翼的な発言をしている人たちが、この映画について過激な批評を繰り出してきた。この映画が「戦争賛歌」だという解釈である。
また、この作品は公開前から問題視され、韓国のメディアは「(ゼロ戦を製造した)三菱重工は朝鮮人を強制連行し、労働力を搾取した」「(映画に登場する)関東大震災で朝鮮人の大虐殺があった 」とかなり厳しい批評を寄せた。ただ、同記事によると公開前に批判的なコメントの多かった韓国メディアは、公開されると特に作中に問題場面が見当たらないのか特に問題は生じなかった。
『風立ちぬ』は当初、韓国や中国、アメリカといった戦争をめぐる関係国からは歴史認識を問う問題が発生すると思われたが、公開してみるとそうした問題はほとんど生じなかった。その代わり、国内からの批判が相次いだ。本論にも関わってくる指摘をしている佐藤優氏は精神科医の斉藤環氏の「宮崎駿の最大の問題が、彼の敬愛するサン=デグジュペリや宮沢賢治にも親和性が高い生命論的ファシズムである」という部分を引用し、この作品を「堀越二郎が開発する飛行機全体が生命体であり、この飛行機を制作するチーム自体が生命体であることは、このアニメから容易に読み解くことができる」 と述べている。宮崎駿が機械を生命体と考えていることについては私も賛成するが、詳しくは後で述べる。ただ、その考察をしたうえで、佐藤氏は「この作品において、重慶で爆撃される側の人々が完全に捨象され、爆撃機を制作する技師たちの美学に吸収されている。「風立ちぬ」を見て、爆撃される側の気持ちを追体験する人がどのくらいでてくるであろうか」と評価している。私はこの点には賛同しかねる。
(中略)
なので、この映画が戦争賛美だという批評は的が外れていると私は考える。宮崎駿が描き出したかったのは、技術それだけでは無である。機械は少しは命を持っていると宮崎駿は考えているが、しかし、技術にしても機械にしてもそれを操るのは人間である。その使用方法を間違えればどうなるかということを問うているのであろう。
『風立ちぬ』は宮崎が、どのように機械に命が込められていくのかという過程を描いた作品であり、それを使用して戦争に向かって行った歴史に対しては何も述べていない。沈黙しているというのはただ無批判だということではなく、無言の抵抗だと考えたほうがいいだろう。
(以下、略)
文中に引用されている斎藤環と佐藤優の対談は「反知性主義とファシズム」(金曜日刊)として出版されています。佐藤優は「『風立ちぬ』が本当にファシズムだなと思う理由は,大衆を束ねちゃっているわけですよね。主人公の堀越二郎の仲間に対しては優しい眼差しで描かれているんですけれども,重慶の市民は視界から消えているわけです」と述べ、宮崎駿を「ふやけたファシズム」と断じています
佐藤優が言うところは、「戦争を賛美する意図を持たずに作られたアニメーション作品であっても、結果として戦争推進に組みした人物を主人公に据えた以上、その作品の公開をもって大衆を誘導する役割を果たすことになる」というものでしょう
大御所宮崎駿に忖度せず、ばっさりと言い切ってるところが佐藤優らしい気がします
ただ、そうした知識人の冷徹な見方に賛同する人が多いとは限りません
また、もう一つの佐藤の批判「爆撃を受けた側の重慶市民が描かれず、存在しないことになっている」については、何を描くかは監督(宮崎駿)の選択・判斷に委ねられているのであり、部外者が決めることではありません。もちろん、その結果としての作品批判を引き受けるのも監督ですが
もし、韓国が彼らの言う正しい歴史観を日本人に知らしめたいのなら、その正しい歴史観に基づいたドラマなり、アニメーションを作ればよいのであり、宮崎駿に「韓国の歴史観に基づいた作品を作れ」と命じられるはずはないのです(当たり前すぎて、書くのも嫌になります)
宮崎駿が堀越二郎と堀辰雄の人生を重ね、一つの物語を描こうとした意図は、決して彼らには理解できないのでしょう。それこそが文化の差異であると自分は感じます
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