グレタ・トゥーンベリとナウシカ

昨年、国連の気候行動サミットに登場して世界各国の首脳を容赦なく罵倒したグレタ・トゥーンベリについて触れます
日本のメディアの多くは彼女に好意的であり、16歳の少女が温暖化問題を真摯に考え、政治家達に変化を要求しているとの扱い方をしています
それ自体、批判すべきではないのでしょうが、彼女の喧嘩腰のスピーチに自分は嫌悪感を覚えるだけです。これだけ不愉快な16歳の少女というのは、世の中になかなか存在しないのでは?
しかも、あろうことかグレタ・トゥーンべりを「風の谷のナウシカ」の主人公になぞらえ、環境少女と称えるような扱いをしている個人や団体があるようで、これはもう黙っていられません
確かに劇場版「風の谷のナウシカ」だけしか観ていない人の中には、「人間が生きるためには、自然環境がいかに大切かを教えてくれる作品」などといった感想を抱く人もいて、ナウシカを環境少女のごとく理解しているケースも少なくないのでしょう


グレタさん礼賛一辺倒に見る「ポピュリズム」と「ナウシカ現象」
あなたたちには失望した、と国連の気候行動サミットで訴えたグレタ・トゥーンベリさん。糾弾された側の“大人たち”はこの16歳の少女に注目、称賛の声を上げているのはご存じのとおりだ。しかし、彼女と彼女を持ち上げる大人たちには、拭えない違和感が……。たとえば、極端すぎるCO2削減を訴える一方で、国連の会合に参加するにあたり、スタッフが飛行機を利用するといった「矛盾」をはらんだ活動となっているのだ。
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また、グレタさんは特定のスポンサーや政党からの支援は受けていないとアピールするものの、
「ドイツではこの運動が政治的な色合いを強めています。再生可能エネルギーを推進する『緑の党』にとって、デモに参加する子どもたちは未来の票田。投票権を16歳まで引き下げるべきとも主張している」(在独の作家・川口マーン惠美氏)
緑の党は9月末には支持率を27%まで伸ばし、メルケル首相率いるキリスト教民主同盟と拮抗。焦った彼女は、人気取りのために“デモを応援する”と宣言した。
「デモへの批判が許されない空気はもはやポピュリズムに近い。しかも、グレタさんの活動は大人への憎しみに満ちたものです。ドイツでは1960~70年代にかけてナチスを糾弾しなかった親世代を若者が攻撃しましたが、それと似た世代間闘争が煽られているように感じます」(同)
同じく、国連での敵意むき出しのスピーチにも疑義の声が上がる。
ハリウッド大学院大学の佐藤綾子教授(パフォーマンス学)はこう語る。
「スピーチで第一に重要なのは“場”と“関わり”を考慮して発言することです。言うまでもなく国連はフォーマルな場で、彼女がデモをする街角のようにフレンドリーな場ではありません。また、そこにいるのは学生ではなく、各国の首脳や環境問題のプロフェッショナルたちです。そうした人々を前に彼女は“許さない”と言い放ち、“How dare you!”、つまり“よくもそんなことが言えますね!”という強い言葉を4回も使いました。これにはアメリカでも“ひいて”しまった人は少なくないはずです」
(中略)
とはいえ、ジャーナリストの徳岡孝夫氏が言うには、
「欧米のメディアが彼女の攻撃的な発言を“たどたどしいけれど一生懸命に訴えている”と評価するのはまだ理解できます。ただ、日本のメディアが彼女を褒めるのは欧米の報道をマネしているだけ。日本人の感覚では、子どもが大人に対して命令口調を使うこと自体に違和感を覚える。彼女のような物言いでは日本の大人は反感を覚えることはあっても、説得されることはないでしょう。日本以上に年配者を敬うイスラム圏でも、彼女のスピーチは通用しないと思いますよ」
他方、評論家の唐沢俊一氏は次のように指摘する。
「汚れなき少女の思いが世界を変えるというのは、古くから続くファンタジー。オタク界隈では『風の谷のナウシカ』になぞらえて“ナウシカ現象”と呼びます。実際、自然を愛する勇気ある乙女という点で、グレタさんとナウシカは重なる部分がある。ただし、大人を怒鳴りつけるグレタさんのイメージは、これまでのか弱く純粋な少女像には当てはまりません。マララさんがパキスタンの太陽だとすると、さしずめ彼女はスウェーデンから吹きつける北風です」
唐沢氏もグレタさんが口にする大人たちへの憎悪を疑問視する。
「温暖化問題を巡っては、世代間の対立よりも、先進国と新興国の対立の方が根深い。いち早く産業革命を成し遂げて豊かな暮らしを享受する先進国に対して、新興国はいまだ発展の途上にあります。そんな国々に自然を破壊するな、化石燃料を使うなと説いても納得するはずがない。新興国で貧困にあえぐ子どもたちの未来は一体どうなるのでしょうか」
(以下、略)


唐沢俊一が言う「ナウシカ現象」なる造語がオタク界隈で流行っているのかどうかは疑問ですが、グレタ・トゥーンベリが温暖化問題のシンボルになっているのは確かです
ただし、純粋無垢な少女が温暖化問題について警鐘を鳴らす、というやり方ではなく上述のように正面から喧嘩をふっかけているのですから、余計に始末が悪いと感じます
ただし、一部の先鋭的な環境原理主義者とメディアを煽るだけで、多くの人は彼女の言動を冷めた目で見ているのではないでしょうか?
劇場版「風の谷のナウシカ」で、ナウシカはラストシーンで蒼き衣をまとって大地に降り立つ救世主のようになってしまいますが、漫画版「ナウシカ」では違います
むしろ、漫画版では救世主にも王にも、神にもなろうとしないナウシカが描かれているのです
なので、グレタ・トゥーンベリをナウシカに例えるのはとても奇妙な話です
たまたま偶然なのか、昨年9月に同じような記事が公開されています

「グレタ」と「ナウシカ」そして「ジャンヌ・ダルク」――人類の危機に現れる異能の少女
(前略)
それにしても、16歳前後の異能の少女は『魔女の宅急便』『新世紀エヴァンゲリオン』『時をかける少女』『君の名は』など、人気アニメの主人公に欠くべからざる存在だ。この少女から大人の女へと変わる微妙な時期は、男性にとってすでに神秘であるのかもしれない。こうしたアニメーションの人気は、むしろ実写ではないことによるファンタジー性によるのであり、それが舞台設定や主人公の能力の異次元性につながるのだろう。
「森」「風」「異能の少女」は、スタジオ・ジブリの3大象徴ともいうべき要素だが、その作品が世界的な支持を得たのは、多くの人が地球の生命の危機を感じ、そういった象徴に希望を見出そうとしているからではないか。
(以下、略)

世界中の人がアニメオタクであるなら、16歳の少女に地球の命運を託す展開はあり得るのでしょう。しかし、幸いなことに世界中の大部分の人はアニメオタクではないのであり、16歳の小娘に地球の命運を託すような愚かな真似はしないわけで…
つまり、そういう話です
グレタ・トゥーンベリは魔法少女ではありませんし、どう頑張ってもナウシカにはなれません。なる必要もないでしょう
20年後、テレビ番組の「あの人は今」特集で、すっかりやさぐれてしまったグレタさんを観る機会が巡ってくるのでは?

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