「村上春樹ブーム」は虚構であり幻想と書く評論家
村上春樹をめぐる言説を不定期で取り上げています。今回は山田高明という人物です。どのような人物であるか、よく知りません。Bingで検索をかけた際、たまたま上位にヒットしたページを読んでみたところ、笑ってしまうほどお粗末な内容でしたので、あえて取り上げることのしました。
もちろん、村上春樹の作品について何を言うのも自由ですが、批判の内容が「爆笑問題」の太田光並みにお粗末であり、なおかつ太田光の発言を引用しているところが痛々しく映ります
以下、一部を引用します
「村上春樹ブーム」の虚構と幻想の終わり
(前略)
3年ぶりに新作「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」(文藝春秋)を発表した作家・村上春樹氏(64)。発売わずか1週間で100万部超えのバカ売れ状態だが、これに爆笑問題・太田光(47)がかみついた。(略)
「村上春樹がなぜつまらないかわかった。俺に言わせれば、人間を描けてないってことなんだよね。登場人物が自分だけが特別だって意識の人たちで、涼しげに思わせぶりなことを言うだけでちっとも感情的じゃない。それと翻訳みたいな言葉ばかりで、そんな会話しているやつなんかいねぇだろって! 大事な根幹の部分を飛ばしちゃって涼しいままで終わっているから、ふざけんじゃねえよって感じなんだよ。やっぱり村上春樹は認められない。俺みたいな野良犬がキャンキャンほえたって何も影響ないから言うんだけど」(略)
私はいつも太田光の意見に賛成するわけではないが、これに関しては同意せざるをえない。キャラクターが「自分だけが特別だって意識」で「涼しげに思わせぶりなことを言うだけでちっとも感情的じゃない」のは、要するに「人形」ということだ。
精緻な内面描写がない。真のドラマがない。だから登場人物たちが血の通った「人間」になっていない。もっといえば、人間の心を持たないキャラクターに近い。
それを太田光は「涼しげ」と呼んでいる。その深みのなさを、村上春樹は小ネタやアイテムの羅列というファッションでカバーしている。
というわけで、「ポップな感じ」というポジティブ感は、根本的には、人間が描写できていないのに、無駄に長文であるばかりか、彼がアメリカ文化かぶれでそういう方面のトリビアに長けていることから起きる錯覚のように思われる。
(中略)
なぜ村上作品が世界的に注目されてしまったのか
ところで、村上春樹が世界的に売れているらしい。
以上の説明では、世界でヒットしていることの理由としては不十分だ。これについては、正直言って、私にも依然として不可解だ。
ビートルズやマイケル・ジャクソン、「ハリーポッター」や「ドラゴンボール」、「ゼルダの伝説」などが世界的にヒットする理由は分かる。
だが、なんでよりによって村上春樹がその二段下くらいのブームになるのか。
これは現代における世界七不思議の一つである。
幸運の要素も多い、世界的な集団同調性バイアス現象なのかもしれない。
村上春樹が世界の読者から注目され始めた時期は、日本のビデオゲームやアニメが世界に普及して、日本の現代文化に対する興味が高まった頃と一致している。
そこで、たまたま“そこにあった”村上春樹の、本来つまらない小説が、日本のカルチャーということで、過度に注目を浴びてしまった可能性は考えられないだろうか。
第一に、日本のものに飢えたファンが安易に日本の小説にも飛びついた。
第二に、なにかと異文化に理解を示し、過度に持ち上げることで世間に教養人たることをアピールしたがる欧米の評論家や書評家が無責任に評価してしまった。
このような連中が、本音では「なんだ、このゴミ小説は! 日本人は小説の書き方も知らんのか?」と思いながらも、つい大げさに褒め称えてしまった。
世間の評判に弱いのは、日本だけでなく、欧米でもどこでも同じだ。日本と同じ様に世界的に「過大評価の雪だるま現象」が起こってしまったのかもしれない。
引用で省略した部分では、「出版社とメディアの創り上げた『村上春樹』という共同幻想」の小見出しで書いているのですが、出版社が巧妙なイメージ操作(本のタイトルのつけ方、本の装丁、帯のコピー)で村上作品を売り込んでいる、と決めつけています。そのような戦略が有効であるなら、他の作家も売り込めるのでは?
それでも筆者は村上春樹が売れるので出版社がプッシュしている、と決めつけるだけです。「そうに決まっている」と述べるだけで説得力はありません
筆者山田高明の言うところの業界の売り込み戦略次第で駄作でもミリオンセラーになる、を証明する例として、なぜか「世界の中心で、愛をさけぶ」(小学館)を例に挙げ、Amazonのカスタマレビューでの評価の低さを示しています。ここは村上春樹の作品を例示するべきではないでしょうか?
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そうしなかった意図は、「世界の中心で、愛をさけぶ」が筆者にとって極めつけの駄作だと認識しているからだ、とは思いますが
さて、自分が村上春樹を高く評価するのは、作品への共感や感動といった個人的な体験によるものです。他の読者と体験を共有化しようとは思いませんので、どこに共感し感動を覚えたのか細かく語る気にはなれないのであり、例えて表現するならそれは精神分析の体験と類似しています
精神分析は他者の語りに解釈を与え、「ああ、そうだったのか」と納得することがすべてです。仮初めであっても、分析家と被分析者が体験を共有することで成立する儀式だとも言えます
もちろん、読書という行為はこうしたものですから、どこまで他者の語りに解釈を与え納得できるかは、作品によります。自分の場合は村上春樹の一部の作品に、より深く共感できたわけであり、逆に山田高明はできなかったのでしょう
加えて指摘しておきたいのは、省略していますが冒頭部分に村上春樹について、「しかし、この『軽さ』は、人間が描けていないところから来るのはないか。単に人の言動・行動を描写するだけでなく、その内面、つまり、揺れ動く心理を克明に描写して、人の心の中で起こっているドラマを描き出すことこそ、小説の真髄である。例を挙げると、松本清張の『真贋の森』『顔』『空白の意匠』などは白眉だ。そして、まさにここが、実は映画やアニメなどの映像作品と一線を画せる、小説ならではの長所なのだ。だから、しばしば傑作小説を映画化すると、奇妙なほど駄作になったりするのである。当然、物語作家としての真価が問われる部分だ」と書いており、随分と特異な価値観を有していることが伺えます
登場人物の心情を克明に描くか、あるいはそのほかの手法を取るか選択肢はあるわけで、前者の手法だけが小説のあり方ではありません
映画やアニメにもそれぞれ表現方法、手段はあるわけで小説だけが絶対的優位な立場にあるとはいえません。ビジュアルで見せる方が文章表現を上回っている事例はいくらでもあります
結局、村上春樹作品を読めていない、受け止められていないがゆえに嫌っている可能性も考えられますし、あるいは作品と共感し得るだけの感性を欠いているのかなとも思います
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