障害者施設19人殺害 植松被告に死刑判決
相模原市の知的障害者施設で入所者19人を殺害した罪などに問われた植松聖被告の裁判で、横浜地方裁判所は被告は事件当時責任能力があったと認めたうえで、「19人もの命を奪った結果はほかの事例と比較できないほど重大だ」として検察の求刑どおり死刑判決を下しています
犯罪事実については争いはなく、争点は植松聖被告の責任能力をどう判断するか、でした
相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で平成28年7月、入所者19人が殺害され、職員を含む26人が重軽傷を負った事件の裁判員裁判の判決公判で、横浜地裁は16日、殺人罪などに問われた元職員、植松聖(さとし)被告(30)に求刑通り死刑を言い渡した。
青沼潔裁判長はこの日、判決主文を後回しにし、理由の朗読から始め、最大の争点だった事件当時の植松被告の刑事責任能力を認定していた。
植松被告はこれまでの公判で起訴内容を認め、「意思疎通できない重度障害者は安楽死させるべきだ」「事件は社会に役立つ」と差別的な持論を展開。判決前、「どんな判決でも控訴しない」と述べていた。
弁護側は大麻による精神障害とし、「善悪を判断する能力はなかった」などと事件当時は心神喪失状態で責任能力はなかったとして無罪を主張。差別的な考えと犯行との間に「病的な飛躍がある」とした上で、事件の約1年前から大麻の乱用で人格が急変し、その高揚感から事件を起こしたと訴えた。
検察側は精神鑑定結果を基に「パーソナリティー障害」に由来する人格の偏りにすぎず、正常心理の範囲内で行動も制御されていたと説明。園での勤務経験などから犯行を思いつき、凶器を複数準備するなど計画的に実行したと強調した。大麻使用の影響も小さく、完全責任能力があったとして、死刑を求刑していた。
起訴状によると、植松被告は28年7月26日未明、入所者の男女を刃物で突き刺すなどして19人を殺害、24人に重軽傷を負わせたとされる。また職員5人を結束バンドで廊下の手すりに縛り付け、2人を負傷させたとしている。
(産経新聞の記事から引用)
判決の趣旨や責任能力についての判断はほぼ検察の主張通りです
青沼裁判長は「大麻の使用が犯行に与えた影響を低く評価すべきではない」などとする、弁護士側が被告の精神状態の分析を依頼した医師の意見について「採用できない」と退け、被告の動機の形成過程については「到底、認められないが、理解は可能だ」と指摘しました
死刑判決に対するコメントとしては、死刑反対の立場で活動する映画監督森達也が、「19人もの人が亡くなったのに2か月という短い期間で終わってしまい、なぜこのように被告が変貌したのか掘り下げられなかった。被告が突いてきた僕らが抱える矛盾に対し、命は平等というのなら出生前診断はどうなのか、何をもって命とみなすか僕たちは考えるべきだったが、その前に裁判が終わってしまった。死刑判決となり凶悪な人間だから生きる価値がないというのもひとつの選別で、同じ構造に社会がはまってしまっていることをもっと意識するべきだ。被告の起こした事件はありえないことだが、主張することの一部に理があるからこそ、多くの人が関心を持った事件だったと思う。自分の中の何が刺激されるのか、そして自分の中の矛盾や理不尽さをひとりひとりが考え続けることが、この事件を風化させないためには大事だと思う。命の格差、自分の中の差別性に対してもっと自覚的になることで、社会は今より変わるのではないか」と述べています
森達也が植松被告の主張のどこを取り上げ、「主張することの一部に理があるからこそ、多くの人が関心を持った事件だ」と発言しているのか、自分には理解できません
アスペルガー症候群でその名を知られたオーストリアの医師、ハンス・アスペルガーについての評伝「アスペルガー医師とナチス 発達障害の一つの起源」を読みました。身体障害、知的障害、精神障害のあるこどもたちを公共のためにならない、との理由で次々と施設に送り、殺害する優性思想に基づいた社会政策がドイツやオーストリアで行われ(一部、アメリカでも行われました)、その旗振り役を務めたのがハンス・アスペルガーです。彼はナチス党員ではありませんでしたが、ナチスの唱える社会理念に共感し、障害のあるこどもの面倒を見るのは親にとっても社会にとっても重い負担になるので、殺害した方が理に適っていると考えたのです
植松被告の主張も同じであり、その主張に「一部の理がある」などとは思えません
アスペルガー医師の抱いた理念については、また別の機会に言及するつもりです
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