実の娘と強制性交 控訴審判決の骨子
裁判の判決内容に関しては、新聞各社で扱いに大きな差があります(あくまでウェッブサイトに掲載される記事での比較であり、紙面でどれだけスペースを割いているかの比較ではありません)
度々取り上げているこの事件でも、地元紙である中日新聞のウェッブサイトでは控訴審の結果を伝えるたった2行の記事が見て取れるだけです。あるいは、いつも刑事裁判で詳細な記事を掲載する産経新聞(当ブログでは産経新聞からの引用が多いのはそのためですが)でも、この事件に関しては冷淡な扱いです
さて、主要なメディアのウェッブサイトを見比べて、今回の控訴審判決に関し情報量が多かったのはNHKでした
ただ、NHKのウェッブサイトは記事を削除してしまうのが早いため、保存しておかないと後で読めなくなってしまう問題があります
逆転有罪判決を下した控訴審について、以下、NHKの記事を引用します
娘への性的暴行罪 父親に有罪の逆転判決 名古屋高裁
愛知県で実の娘に性的暴行をした罪に問われた父親が、「娘は抵抗できない状態ではなかった」として無罪とされた裁判の2審の判決で、名古屋高等裁判所は「親による継続的な性的虐待の一環だということを十分に評価していない」として1審とは逆に有罪と判断し、検察の求刑どおり、父親に懲役10年を言い渡しました。
(中略)
12日の判決で名古屋高等裁判所の堀内満裁判長は「被害者が中学2年生の頃から、意に反した性行為をくり返し受けてきたことや、経済的な負い目を感じていたことを踏まえれば、抵抗できない状態だったことは優に認められる」と指摘しました。
そして、「1審の判決は、有罪の要件である『抵抗できない状態』について、被害者の人格を完全に支配するような状態だということまで求めていて、要件を正当に解釈しなかった結果、誤った結論になっている」としました。
そのうえで「1審は、父親が子に対して継続的に行ってきた性的虐待の一環であるということを十分に評価していない。抵抗できない状態につけこみ、自分の性欲のはけ口にした卑劣な犯行で、被害者が受けた苦痛は極めて重大で深刻だ」と述べ、1審の無罪判決を取り消し、検察の求刑どおり、父親に懲役10年を言い渡しました。
有罪には2つの要件
日本の刑事裁判では、性行為を犯罪として処罰するには
▽「相手が同意していないこと」だけでなく、
▽「抵抗できない状態につけ込んだこと」が立証されなければなりません。
刑罰を科す対象が広がりすぎないようにするため特に悪質なケースを処罰するという趣旨で、
▽暴行や脅迫を加えたり
▽正常な判断ができない状況を利用したりして、
抵抗できない状態の相手に性行為をした場合に罪に問われます。
抵抗できない状態だったかどうかについては、「物理的・身体的」な原因があった場合だけでなく、
▽被害者が恐怖のあまり逆らえなかったり
▽拒否できないような立場や状況だったりするような「心理的・精神的」な
原因があった場合も含むとされています。
1審が無罪とした理由
1審はなぜ無罪としたのか。
去年3月の判決で名古屋地方裁判所岡崎支部の鵜飼祐充裁判長は有罪の要件の1つ目の「娘が同意していなかった」ことについては認め、「極めて受け入れがたい性的虐待だった」としました。
また、父親は、娘が中学2年生の頃から性行為を繰り返し拒んだら暴力を振るうなど、父親という立場を利用して性的虐待を続けていたことも認め、「娘は抵抗する意思を奪われ継続的な性的虐待で精神的にも支配されていた」と指摘しました。
一方で、要件の2つ目の「抵抗できない状態につけ込んだ」とは認定せず、「拒否しようと思えばできる心理状態だったのに拒否しなかった」と判断しました。
その理由について1審は、娘が
▽過去に抵抗して拒んだことがあったことや、
▽一時、弟らに相談して性的暴行を受けないような対策をしていたこと、
▽アルバイト収入があり家を出て1人で暮らすことも検討していたことなどに触れ、
「人格を完全に支配され服従せざるをえない状態だったとは認めがたい」としました。
そして、「恐怖心から抵抗できなかった場合」や「行為に応じるほか選択肢がないと思い込まされていた場合」などと異なり、著しく抵抗できない状態には至っていなかったとして無罪を言い渡しました。
(以下、略)
省略した部分では関係者のコメントが並んでいます
さて、裁判であるからには法律論(犯罪の構成要件を満たしているか否か、適用する刑罰法令の解釈など)が重要であるのは当然としても、被害者の訴えに耳を傾ける姿勢も重要でしょう
昨年、酒を飲ませて酩酊した女性を強姦したにもかかわらず、抵抗できない状態ではなかった=抵抗の意思を示さなかったとして「強制性交罪は成立しない」と無罪を言い渡す判決が相次ぎました
裁判所の判断に疑問が提起され、法務省に対し法律改正を求める意見も多く寄せられた事情もあって、本件のように控訴審で逆転有罪判決が示されるようになったのでしょう
ただ、依然として性犯罪事件で被害者の側に不利な判断があるのは事実で、刑事事件としては無罪判決が出たり、あるいは検察が不起訴にするケースもあります。警察が被害届を受理せず、男女間の痴話喧嘩扱いするケースもあります。小中学校では、児童・生徒が教師によるわいせつ行為の被害を訴えても、学校側は事件化することに消極的であり、教育委員会にも報告せずもみ消そうとしたケースもあります
示談不成立なのに検察が不起訴とした事件でも、民事では損害賠償請求が認められる事件があり、何ともちぐはぐで納得できないところです(刑事と民事は別だとするのが法律制度上の建前ですが、被害者にすれば別ではありません)
今回の控訴審判断が「たまたま」とか、「偶然」ではなく、定着する方向へ進んでもらいたいものです
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