宮崎アニメをあやしく語る町山智浩
宮崎駿をしばしば取り上げています。個人的に関心があるためで、別段、崇拝しているわけではありません
尊敬も崇拝もできない理由は、過去にも当ブログで述べたように「もののけ姫」にしろ、「ハウルの動く城」、「千と千尋の神隠し」にしろ、シナリオが破綻しており、明らかに辻褄の合わない展開になっているからです
これは宮崎駿がスタジオジブリで専制君主のごとく君臨していたため、誰もシナリオの破綻について意見できなかったためと推測されます。もちろん意見をしたスタッフもいたのでしょうが、宮崎駿は無視して手直しに応じなかったと思われます
さて、今回は映画評論家の町山智浩による宮崎作品の論評を取り上げます
最初にお断りしておきますが、自分は町山智浩が大嫌いであり、その映画評は信用しません
従って、以下記述する内容は町山智浩への批判です。町山智浩のファンの方はページを閉じるようお勧めします
町山智浩、宮崎アニメについて語る(要点まとめ)
●みんな宮崎アニメの内容を本当に理解してるの?
『千と千尋』が大ヒットしてる時に「あの映画に出ている湯屋は売春宿だ」と発言したら、物凄くネットで叩かれたんだよオレ(笑)。でも、劇場の観客動員数はどんどん上がってってる。凄い数の人が映画を観てるわけだよ。でも、誰も内容を理解してない(笑)。これが大衆なんだよ!これって宮崎さんは喜んでないと思うよ。だって、自分のことをわかってない人が来たって嬉しくないじゃん。
じゃあ、宮崎作品が「わからないもの」になっていったのはどこからか?と言ったら、『ナウシカ』の完結(原作版)からだよね。あれ読んだ人は感じたと思うけど、後半の展開って意味不明じゃない?禅問答みたいな会話ばっかりでさ。しかも、映画版で描かれていた内容自体をひっくり返してるんだよね。
映画版の『ナウシカ』は、「”腐海”が放射能で汚染された世界を浄化している。だから自然を守らなければならない」というわかりやすいエコロジーの話だったのに、原作漫画では、「”腐海”とは人間が作ったものである」って、物語の前提をひっくり返しちゃってるんだよ。ここから宮崎さんの作品は、自分が出したテーゼにアンチテーゼをぶつけるという”徹底した複雑化”が始まったんです。
町山智浩を嫌う最大の理由が、「皆はこの作品を理解していない。オレだけが理解できている」というスタンスで語るところです。そもそも作品の解釈の仕方、受け止め方というのは人それぞれであるのに、「オレだけが理解している」と大上段に振りかぶる必要があるのか、と言いたくなります
漫画版のナウシカは完結まで長い歳月を要し、それだけに話をどう完結させるか宮崎駿の中で葛藤があったわけです。それは単に環境問題という視点で語れるものではありませんし、科学文明対大自然などという二項対立で表現できるものでもありません
「複雑化させてわからない内容になっている」などと町山智浩が何かを指摘し、言い当てたつもりになっているのは笑止千万です
原作を丁寧に読み解いていけば、ナウシカは宮崎駿の内面の投影であり、心の旅であるのが分かります。もちろん行き着いた場所(完結)に何かしらの解決や結論などないのであり、それが「わからない物語」という印象を与えるのでしょう
一つの解釈事例として自分の場合、精神分析の視点から読むと「ナウシカ」は含みのある豊穣な物語であり、その行き着いた場所にも十分な意味が感じられます。そしてこの困難な物語を語り終えたクリエイター宮崎駿に、敬意を表します
●なんで『ラピュタ』がヒットしなかったんだよ?
俺が一番悲しかったのは、『ラピュタ』を公開時に観に行った時、まあ東映の地下の劇場で『先天性欲情魔』っていうポルノ映画をやってるような映画館なんだけど(笑)、そんなところで『ラピュタ』を観たんですよ。そしたら、客が全然いなかった。3人ぐらいしか入ってないの。で、今はこんなに宮崎アニメに客が入ってるでしょ?ふざけんじゃねーぞ!って感じだよね(笑)。なんで『ラピュタ』の時に来なかったんだよ!
(中略)
でも、『ラピュタ』のコケ方っていうか、客の入らなさというのは「本当に悲しいな」と思ったもの。誰もいない劇場でさ、ラピュタが空に向かって飛んでいくラストを「俺以外誰もいないよ〜!」とか思いながら観てたもん(笑)。『ラピュタ』って、今観ると本当に分かりやすい話で、テーマも凄く分かりやすいのに、あれがコケて『風立ちぬ』が何で大ヒットするのか、本当にわかんないよ!
またしても「わからない」と発しています。説明するまでもなく、「ラピュタ」の時点で宮崎駿の知名度は低いのであり、名前で客を呼べる監督ではありませんでした。その他、ヒットしなかった理由、事情はあるわけで、映画評論家の町山智浩がそれを知らないのか、と思ってしまいます(説明しようとすればできるはずなのに、やろうとしないのはなぜ?)
●『風立ちぬ』は恐ろしい映画だ!
『風立ちぬ』の主人公を”いい人”と思ってる人がいるみたいだけど、二郎は全然いい人じゃないですよ。彼は「美しいものを作りたい」って言ってるんですよ。発明家が便利な物を発明して世の中を良くするのは人の役に立つけど、”美しいもの”って何だ?と。それってただのエゴじゃん!
で、これは多分、宮崎さん自身のことなんですよ。宮崎さんはよくインタビューで、「アニメなんか何の役にも立たない。ただオタクを増やしてるだけだ。あれは戦犯だ!」みたいなことを言ってるんだけど、それって「美しいものを作りたい」という二郎と同じなんじゃないかと。
『紅の豚』で飛行機を作る小さな工場が出てくるじゃない?女の人が一杯働いてる場面。あれは、要するにジブリだよね。そこに宮崎さんそっくりなキャラが出てきて、「女はいいぞ、良く働くから」とか言ってんの。あれ観た時「ヒデーこと言ってんなこの人!」とか思ったんだけど(笑)。だから、彼にとっての飛行機作りっていうのはアニメなんですよ。アニメと飛行機がイコールになってるんですよ、『紅の豚』では。
(中略)
それに対して二郎はどうしたか?戦争に協力したんです。自分のエゴを満たすために魂を売ったんですよ。とんでもなく悪い奴だよ!二郎はピュアな青年で「戦争に加担している自覚が無い」と思ってる人がいるかもしれないけど、それは違う!二郎は自分の意思で戦争に加担することを選んでるんだよ!映画を観てる多くの人は、それに気付いてないんだよ!本当はすごく恐ろしい映画なんだよ!
これもまた、「皆はこの作品を理解していない。オレだけが理解できている」というスタンスの現れです。別に町山智浩ごときに、「これは本当は恐ろしい映画なんだぞ」と教えてもらう必要などないのであり、何を言っているのかと呆れるだけです
そもそも恐ろしいか、恐ろしくないかと二分することに何の価値があるのやら
戦争を美化するなとか、日本は加害国として反省すべきだとか、さまざまな批判・意見はあれど、「風立ちぬ」は作家堀辰雄と、航空技術者堀越二郎という2人の人物の人生を交差させて描いたその技法が際立っているのであり、そこで展開される大きな物語を味わう作品でしょう
韓国メディアのように戦争美化は許せないニダとか、そんな視点でしか見ようとしない人間には、何も理解できないわけで
戦争の悲惨さ、恐ろしさ、学徒動員や国家による言論統制などを味わいたいのなら、各テレビ局が毎年8月15日の終戦の日に放送する戦争ドラマを見ればよいのであり、わざわざ「風立ちぬ」を見る必要はありません
まだまだ突っ込みたいところは山ほどありますが、ここまでにしておきます
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