劇場版「ゴブリンスレイヤー」 ゴブリンを殺してもよいのか
インフルエンザなのかどうか、すっかり体調を崩してしまいました。本来なら映画館に劇場版「ゴブリンスレイヤー」を見に行きたいところなのですが
ヤフーニュースに飯田一史というライターが「人間を殺してはいけないのにゴブリンを殺してよいのはなぜか? 『ゴブリンスレイヤー』から考える」と題する記事を載せていますので、言及します
人間を殺してはいけないのにゴブリンを殺してよいのはなぜか? 『ゴブリンスレイヤー』から考える
https://news.yahoo.co.jp/byline/iidaichishi/20200204-00161504/
(前略)
■ゴブリンはなぜ殺していい存在なのか
本作は醜悪でずる賢いゴブリンとの生々しい戦闘描写ゆえに観る者に手に汗握らせるが、同時に、個人的には善悪の基準、倫理観を同時に考えさせる作品だと思っている。
人種差別に対する視線が20世紀以上に厳しくなっている現代にギリギリを攻めているように見える。世の中にはゾンビを殺すフィクションが溢れ、ゾンビは元人間であるにもかかわらず殺しまくってもよいことになっている。同様に、この作品でもゴブリンは殺していいことが前提になっている。
ところが本作では人間はエルフやドワーフ、リザードマンなどの人間以外の種族とは共闘している。そう考えるとなぜゴブリンは殺していいのか、人々が殺すべき存在だと認識しているのか――それほど単純な問いではないことがわかる。
■ゴブリンのおぞましさは人間との近さから生じる
ゴブリンは作中世界では忌み嫌われた存在である。
見た目が醜く常によだれを垂らしているなど不潔なこと、理解不能な言葉を吐くこと、人間たちサイドに悪意と敵意しかないうえ、ずる賢く手段を選ばず略奪と殺戮をくりかえすことが嫌われる理由だ。人間が行うことを学習して模倣したり対策してくる知能はあるが、道徳や倫理観はなく、人間との理性的・対話的なコミュニケーションが不可能なのがゴブリンだ。
本作に登場するゴブリンを見るとおぞましく感じるが、それはある程度は人間とゴブリンが近いからだ。
たとえば『ドラクエ』に登場するスライムがどれほど強くて凶暴であったとしても、おぞましさは感じない。人間からあまりに遠いからだ。スライムでなくても現実世界に存在する熊やライオンに襲われたことを想像したときに抱く恐怖と、本作に登場するゴブリンに捕まり凌辱されたり嘲笑われながら殺されることを想像したときの恐怖は質的にまったく別のものだ。
人間の精神にダメージを与えるにはたんに物理的に傷つければいいわけではなく、大事にしているものをこれみよがしに、屈辱的に奪い、破壊する必要がある。そういう高度な行為は、頭の悪い生きものにはできない――だがゴブリンはできる。
■爽快感と違和感のパラドックス
作中でゴブリンを醜くずる賢い存在として描けば描くほど、倒したときの爽快感は増す。
しかし見た目を醜くすることはともかく、賢さを「計算高い」「人間の行動を読んで対策してくる」「人間の知恵や技術を模倣する」「人間のように宗教があり、司祭のような宗教的権威が存在する」「戴冠式のような文化的な儀式を行い、組織内のヒエラルキーが存在している」などさまざまな方向から表現しようとすればするほど、ゴブリンは人間に近い存在になっていく。するとゴブリンを殺すことに対して違和感が生まれてくる。「ある程度は人間に近い存在なのに、ためらわずに殺していいのか?」と。
『ゴブリンスレイヤー』はこうした逆説を背負った物語である。
(以下、略)
このライター氏は何ら批評の方法論を身につけてはおらず、ただ単に「ゴブリンは怪物だけど人間に近い。これを殺しまくってよいのか?」という素朴な疑問だけを拠り所に、この文章を書いたであろうと感じます
異なる人種、異なる文化をいかに認め、これと向き合うかという視点で考えるなら、構造主義人類学のクロード・レヴィ=ストロース辺りを思い浮かべるのですが、ライター氏にはそうした発想はないのでしょう
もちろん、原作小説の方にもそうした視点はないのであり、主人公であるゴブリンスレイヤーは洞窟の中で生き残ったゴブリンのこどもを殺すのかと同行の女神官から問われた際、「人前に出てこないゴブリンだけが良いゴブリンだ」と答え、皆殺しにしています。生き残ったゴブリンのこどもは恨みと憎しみを抱いて成長し、知恵をつけ、やがて人を襲うようになるのは明らかで、将来の禍根を絶つためにも見敵必殺を貫きます
このブレのなさこそ、「ゴブリンスレイヤー」の物語が支持される所以でしょう
間違ってもゴブリンのこどもと心を通わせ、共に生きて行こうなどとは思いません。最初から共生も相互理解も不可能な相手、と認識しているからです。主人公のゴブリンスレイヤーは世界からゴブリンが消滅するまで殺し尽くすと誓い、そのためにあらゆる手段を用いる徹底ぶりが延々と描かれてます(ただし、主人公は自分が学才に欠けていると自覚しており、だからこそ小説外伝では魔術師と組んでゴブリンの解剖をしたり、ゴブリンの生態や行動様式を観察し学ぼうとする姿勢を見せています。この辺りの実証主義的な姿勢が巷にあふれる異世界ライトノベルと明確な違いです)
なので、自分にはライター氏が上記のような疑問を抱いたことこそ、不思議な気がするのです
もちろん、人間とゴブリン、その他の異形な種族が共生する小説「Overlord」のような世界があってもよいのですが、それはまた別の話です。
いかに愛に溢れた人間でも、共存共栄の原則が成立しないゴブリン(確実にあなたを食い殺そうとする存在)と共生しようとは思わないのであり、ゴブリンを殺すことに違和感を覚えたり、良心の呵責を覚えたりするのだろうか、と
小説の読者であれ、映画を視聴した者であれ、それほどまでに作品の世界観を否定し、ゴブリンに感情移入する人はいないのでは?
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(前略)
■ゴブリンはなぜ殺していい存在なのか
本作は醜悪でずる賢いゴブリンとの生々しい戦闘描写ゆえに観る者に手に汗握らせるが、同時に、個人的には善悪の基準、倫理観を同時に考えさせる作品だと思っている。
人種差別に対する視線が20世紀以上に厳しくなっている現代にギリギリを攻めているように見える。世の中にはゾンビを殺すフィクションが溢れ、ゾンビは元人間であるにもかかわらず殺しまくってもよいことになっている。同様に、この作品でもゴブリンは殺していいことが前提になっている。
ところが本作では人間はエルフやドワーフ、リザードマンなどの人間以外の種族とは共闘している。そう考えるとなぜゴブリンは殺していいのか、人々が殺すべき存在だと認識しているのか――それほど単純な問いではないことがわかる。
■ゴブリンのおぞましさは人間との近さから生じる
ゴブリンは作中世界では忌み嫌われた存在である。
見た目が醜く常によだれを垂らしているなど不潔なこと、理解不能な言葉を吐くこと、人間たちサイドに悪意と敵意しかないうえ、ずる賢く手段を選ばず略奪と殺戮をくりかえすことが嫌われる理由だ。人間が行うことを学習して模倣したり対策してくる知能はあるが、道徳や倫理観はなく、人間との理性的・対話的なコミュニケーションが不可能なのがゴブリンだ。
本作に登場するゴブリンを見るとおぞましく感じるが、それはある程度は人間とゴブリンが近いからだ。
たとえば『ドラクエ』に登場するスライムがどれほど強くて凶暴であったとしても、おぞましさは感じない。人間からあまりに遠いからだ。スライムでなくても現実世界に存在する熊やライオンに襲われたことを想像したときに抱く恐怖と、本作に登場するゴブリンに捕まり凌辱されたり嘲笑われながら殺されることを想像したときの恐怖は質的にまったく別のものだ。
人間の精神にダメージを与えるにはたんに物理的に傷つければいいわけではなく、大事にしているものをこれみよがしに、屈辱的に奪い、破壊する必要がある。そういう高度な行為は、頭の悪い生きものにはできない――だがゴブリンはできる。
■爽快感と違和感のパラドックス
作中でゴブリンを醜くずる賢い存在として描けば描くほど、倒したときの爽快感は増す。
しかし見た目を醜くすることはともかく、賢さを「計算高い」「人間の行動を読んで対策してくる」「人間の知恵や技術を模倣する」「人間のように宗教があり、司祭のような宗教的権威が存在する」「戴冠式のような文化的な儀式を行い、組織内のヒエラルキーが存在している」などさまざまな方向から表現しようとすればするほど、ゴブリンは人間に近い存在になっていく。するとゴブリンを殺すことに対して違和感が生まれてくる。「ある程度は人間に近い存在なのに、ためらわずに殺していいのか?」と。
『ゴブリンスレイヤー』はこうした逆説を背負った物語である。
(以下、略)
このライター氏は何ら批評の方法論を身につけてはおらず、ただ単に「ゴブリンは怪物だけど人間に近い。これを殺しまくってよいのか?」という素朴な疑問だけを拠り所に、この文章を書いたであろうと感じます
異なる人種、異なる文化をいかに認め、これと向き合うかという視点で考えるなら、構造主義人類学のクロード・レヴィ=ストロース辺りを思い浮かべるのですが、ライター氏にはそうした発想はないのでしょう
もちろん、原作小説の方にもそうした視点はないのであり、主人公であるゴブリンスレイヤーは洞窟の中で生き残ったゴブリンのこどもを殺すのかと同行の女神官から問われた際、「人前に出てこないゴブリンだけが良いゴブリンだ」と答え、皆殺しにしています。生き残ったゴブリンのこどもは恨みと憎しみを抱いて成長し、知恵をつけ、やがて人を襲うようになるのは明らかで、将来の禍根を絶つためにも見敵必殺を貫きます
このブレのなさこそ、「ゴブリンスレイヤー」の物語が支持される所以でしょう
間違ってもゴブリンのこどもと心を通わせ、共に生きて行こうなどとは思いません。最初から共生も相互理解も不可能な相手、と認識しているからです。主人公のゴブリンスレイヤーは世界からゴブリンが消滅するまで殺し尽くすと誓い、そのためにあらゆる手段を用いる徹底ぶりが延々と描かれてます(ただし、主人公は自分が学才に欠けていると自覚しており、だからこそ小説外伝では魔術師と組んでゴブリンの解剖をしたり、ゴブリンの生態や行動様式を観察し学ぼうとする姿勢を見せています。この辺りの実証主義的な姿勢が巷にあふれる異世界ライトノベルと明確な違いです)
なので、自分にはライター氏が上記のような疑問を抱いたことこそ、不思議な気がするのです
もちろん、人間とゴブリン、その他の異形な種族が共生する小説「Overlord」のような世界があってもよいのですが、それはまた別の話です。
いかに愛に溢れた人間でも、共存共栄の原則が成立しないゴブリン(確実にあなたを食い殺そうとする存在)と共生しようとは思わないのであり、ゴブリンを殺すことに違和感を覚えたり、良心の呵責を覚えたりするのだろうか、と
小説の読者であれ、映画を視聴した者であれ、それほどまでに作品の世界観を否定し、ゴブリンに感情移入する人はいないのでは?
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