宮崎駿「風立ちぬ」批判を振り返る
2013年、宮崎駿の劇場アニメ「風立ちぬ」の公開を巡り、日本国内はもとより韓国でさまざまな批判が起こりました
その一部は当ブログでも取り上げたところです
稚拙な見解ながら、その記事はいくつかのメディアや個人のブログでも取り上げていただきました。当ブログは掲示板も付設していませんし、メールアドレスを公開して意見を賜ることもしていませんので、読んでいただいた方と交流する機会はありません
ただそれぞれが互いに思うところを述べ、それに目を通し、また語るという営みがあればよい、と思っています。さて、あの騒動から時間も経過し、いまや古典ともいえる「風立ちぬ」について、当時の騒動を振り返りつつ語ることにします
叩き台として2013年9月に週刊プレイボーイに掲載された記事を引用します
先頃、引退を発表した宮崎駿監督の最新作『風立ちぬ』が隣国・韓国で9月5日から上映開始され、議論を呼んでいる。
もともと韓国ではジブリ作品の人気が高い。過去には『ハウルの動く城』が約300万人もの観客動員を記録。そのほかの作品にもコアなファンが多い。加えて、宮崎監督については「日本の“右傾化”に批判的な文化人」という認識が広く共有されている。韓国メディアが従軍慰安婦問題などを取り上げる際、宮崎監督のコメントを引用することもしばしばだ。
その宮崎監督がゼロ戦の設計者をフィーチャーした作品を作ったのだから、日本と歴史認識でもめている韓国社会にとっては、味方から後頭部を殴られるような“衝撃”だった。
公開前には、メディアから「ひどすぎる歴史認識」「帝国主義を合理化」などの批判が続出。一部のネットユーザーからは公開中止が叫ばれるほどだった。
紆余曲折の末、ようやく韓国公開にこぎつけた『風立ちぬ』上映開始後も批判が日を追うごとに増し……と思いきや、意外や意外、公開初週のランキングは全国第6位(韓国映画情報サイト『ボックスオフィス』調べ)を記録し、映画館に足を運んだ観客からは冷静な評価が聞こえてきた。
「エンディングで(主人公の)二郎と(イタリア人の飛行機設計士)カプローニが話すシーンが印象的。最初のシーンと重なる場面ですよね」
そう熱く口火を切ったのは、韓国映画専門誌『CINE21』のソン・ギョンウォン記者だ。
「『風が吹く、生きねば』。その言葉に終始する作品。結局、本質は人間の話ですよね。戦争に関わった人々に免罪符を与えるというよりも、夢に魅了されてしまった人々が進むしかない残酷な道を描いていた。夢をつかむためには、何かを失わなければならないし、生きていかなければならない。そんな“夢の両義性”ともいえましょうか」(ソン記者)
韓国の映画ポータルサイトには、一般視聴者からのレビューが数多く寄せられている。そこにも次のような投稿があった。
「歴史的な観点はともかく、芸術性は認めるしかない。飛行機に対する主人公の熱い想いというふうに受け止めたい」
「全体的にストーリーがよいアニメーション。日本の戦争美化と見るには難しい。むしろ、戦争批判に近くないでしょうか(笑)」
韓国の映画ファンにとっても、メディアが歴史認識ばかりを持ち上げるのはうんざりなのだろうか。作品をしっかり観たと主張する人たちの間では、「やはり宮崎駿!」といった論調が根強い。
ただ、なかにはこんな意見も。
「『千と千尋の神隠し』の感動や『ハウルの動く城』の壮大さ、『もののけ姫』の神秘性や『となりのトトロ』のかわいらしさを期待していた人には、すっきりしない映画。ただ、久石譲の音楽は相変わらず最高!」
幻想的な宮崎ワールドを期待していたファンにとっては、ちょっと物足りない。このあたりは日本での評判とも似ていて面白い。
最後に、前出のソン記者はこう語る。
「そもそも映画は現実をねじまげ、美化することで成立する芸術。だから、歴史を描くとなると、どの国の作品でも批判は避けられない。『風立ちぬ』に関して言えば、美しい作品だからこそ、なおさら歴史認識が注目を集めるし、複雑な思いを抱く人もいるはず。アジア、特に韓国にはそういう視点があると理解してもらいたいです」
韓国で物議を醸した『風立ちぬ』の戦争美化論争は、宮崎映画を愛する韓国人の、不器用すぎるリスペクトの証あかしだった?
韓国からこの作品について、あるいは宮崎駿について、日本人の歴史観について批判があったのは上記の記事の通りです。その批判を中心は戦争賛美する作品を作った宮崎駿に対する怒り、なのでしょう
「千と千尋の神隠し」のような内省的なドラマや、「もののけ姫」のような妖しいまでの自然描写や奥深い世界観などを期待していた人たちにすれば、戦争賛美のアニメを作った宮崎駿の裏切りは許せなかったと思います
ただ、宮崎自身は「自然大好きの優しいおじさん」ではありませんし、「こどもに教訓を与える先覚者」でもありません。従来の作品とは別の、彼自身が本当に描きたかった飛行機に魅せられた男、を描こうとしただけです。それを「裏切り」と批判する方がどうかしています
ただ、批判する方は「自分には批判するだけの根拠がある。理由があるのだ」と思い込んでおり、そのスタンスを変える気はないので、どこまでいっても折り合いはつきませんし、「風立ちぬ」を評価しないでしょう
事実、スタジオジブリは韓国メディアの記者を集め、宮崎駿が会見を行ってまで作品に対する誤解を解こうと試みましたが、失敗に終わっています
批判するのも言論の自由ですから、それ自体を制限する必要はありません
ただし、韓国の批判に含まれる「歴史観」とか「歴史認識」というもののを絶対視する態度はあまりに滑稽であり、視野が狭すぎです。上記の記事の末文にある「美しい作品だからこそ、なおさら歴史認識が注目を集めるし、複雑な思いを抱く人もいるはず。アジア、特に韓国にはそういう視点があると理解してもらいたいです」との言い分には、「何を言ってるんだ?」と思うばかりです
「韓国人の唱えるデタラメな歴史観など知ったことか」であり、なぜそんなデタラメな歴史観を気に留める必要があるのか、と
この作品が気に入らないのであれば、韓国が総力を結集して韓国の歴史観を反映した劇場版アニメを作り、日本人の魂を揺さぶってみせればよいのです。実写映画でも、テレビドラマでも、小説でも、表現する媒体はいくらでもあります
自分たちで作れないのであれば、韓国がスタジオジブリの製作費100億円を払い、「ウリたちに都合の良い歴史観に沿ったアニメを作ってほしいニダ」と依頼すればよかったのでは?
蛇足を承知で書くと、堀辰雄の小説「風立ちぬ」など一連の作品を読んだ経験のある中高年の日本人と、読んでいない韓国人とではこのアニメの受け止め方はまったく違うのであり、両者の間に対話など成立しないと考えます。それはもう文化的基盤の違いであり、埋めがたい溝でしょう
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