淡路島5人殺害事件 高裁で死刑破棄し無期懲役に

恒例ともなった裁判員裁判での死刑判決を逆転する控訴審判決がまた言い渡されています。一審の神戸地裁で死刑判決が下された淡路島5人殺害事件の控訴審判決です
大阪高裁は被告を心神耗弱状態にあったとし、完全責任能力を認め死刑と処した神戸地裁の判断を誤りだとして破棄し、あらためて無期懲役の判決を言い渡しています


兵庫県洲本市(淡路島)で2015年3月、2家族男女5人を刺殺したとして殺人罪などに問われた平野達彦被告(45)の控訴審判決で、大阪高裁は27日、求刑通り死刑とした1審・神戸地裁判決を破棄し、無期懲役を言い渡した。村山浩昭裁判長は、事件時、被告は刑が減軽される心神耗弱状態だったと判断した。裁判員裁判の死刑判決を高裁が破棄したのは7件目。
争点は刑事責任能力の有無と程度。被告は15年9月に起訴され、この前後に実施された2度の精神鑑定で、いずれも向精神薬を長期間服用したことによる「薬剤性精神病」と診断された。控訴審では、高裁が18年9月、職権で3度目となる精神鑑定の実施を決定。被告は「妄想性障害が悪化した状態だった」と診断され、弁護側は改めて心神耗弱や無罪となる心神喪失を主張していた。
村山裁判長は判決で、起訴前後の鑑定結果について、控訴審に証人出廷した担当医の証言が変遷するなどしており、「信用性は高くない」と指摘。3度目の担当医の証言を基に、被告は重い妄想性障害で犯行を思いとどまる能力は著しく低下していたとし、心神耗弱状態だったと認定した。
控訴審判決によると、平野被告は15年3月9日午前4時頃、同じ集落に住む平野毅さん(当時82歳)方で、毅さんと妻の恒子さん(同79歳)をサバイバルナイフで刺して殺害。約3時間後、近くの平野浩之さん(同62歳)方で、浩之さんと母の静子さん(同84歳)、妻の方子まさこさん(同59歳)も刺殺した。
(読売新聞の記事から引用)


犯行事実について争いはなく、もっぱら平野被告の責任能力をどう判断するか、精神障害の影響をどう受け止めるかが争点でした
大阪高裁が行った精神鑑定が3度目という、ややこしい展開ですがこの辺りを端的に整理した報道がありますので、そちらを引用します


7月17日は、高裁が指定した鑑定人による鑑定結果が明らかにされたのだが、それは原審(一審)の鑑定結果と異なるものとなり、それぞれの鑑定人が証人として出廷し、互いに批判し合うという奇妙な展開となった。
今回明らかにされた控訴審鑑定結果は、一言で言えば「平野達彦は妄想性障害だ」ということである。一方、原審では「薬剤性の精神障害」という別の鑑定結果が示されていた。
もう1つの違いは、精神障害が犯行に与えた影響の評価で、原審では平野達彦の症状は軽度の統合失調症と同程度で大きな影響はなかったとする一方、控訴審では犯行時には妄想性障害が悪化した状態で、大いに影響を与えたということである。犯行前の異常な言動だけでなく、5人を殺害するという凶行も含めて妄想によるものいうのだ。
控訴審鑑定人が原審鑑定人を最も批判したのは、「薬剤性精神障害はあり得ない」という点である。 そう主張する根拠は、確かに平野達彦にはメチルフェニデート(リタリン)と呼ばれる薬剤を乱用した過去があったが、犯行時はリタリンの服用を止めてから7年が経過していたことだ。そして、控訴審鑑定人は様々な論文を調査し薬剤性精神障害の専門家にも助言を求めたが、メタンフェタミン(覚せい剤)では乱用の後遺症として精神障害が残る事例があるものの、リタリンではそのような事例は見つからず、原審鑑定人は根拠を示していないということである。
この控訴審鑑定人の主張には説得力があって、確かに原審鑑定人が示した論文は覚せい剤によるものか、リタリンを服用している最中に起こる症状に関するものばかりであった。控訴審鑑定人が原審鑑定人に対してその点を追及すると、原審鑑定人は「論文はある」としたものの、具体的にその論文が何なのか答えられなかった。
一方、原審鑑定人は自身は平野達彦の精神鑑定に直接立ち会ったのに対し、控訴審鑑定人は平野達彦に拒否されたため、原審鑑定の臨床心理士のレポートだけで鑑定した点を批判した。そして、平野達彦の犯行は計画的で、犯行前も普通に生活出来ており、統合失調症の急性増悪期に相当するような重篤な精神症状はなかったということである。
(以下、略)
淡路島5人殺害事件で 鑑定人が法廷でバトル


読売新聞の記事にあるように大阪高裁は、神戸地裁の「薬剤性の精神障害であるが、責任能力に問題はない」とした判断を誤りとし、3度目の精神鑑定の結果である「妄想性障害が悪化した状態で犯行に及んでおり、心神耗弱状態であった」との説を採用したわけです
ただ、3度目の鑑定医は平野被告を直接は診断しておらず、原判決の精神鑑定結果を批判して結論付けた内容であり、これはこれで論議を呼ぶでしょう(検察が最高裁に上告する可能性があります)
しかし、控訴審での鑑定医は平野被告に厳しい見方をしており、事件を起こす前から数々のトラブルを繰り返していたのだから、強制措置入院をさせるなど、凶悪な事件を未然に防ぐ手段を講じるべきだったと主張してようです
これは予防拘禁とも言えるわけで、精神障害者をあらかじめ隔離してしまえとの考えに結び付きます
控訴審の内容はともかく、5人の命を奪った重大性を慮れば、罪一等を減じて無期懲役にする判決には疑問を感じます

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