熊谷6人殺害事件を考える6 死刑判決を破棄して無期懲役に

これまでにも取り上げているように、一審の裁判員裁判で死刑判決が下されても二審の高等裁判所で死刑判決が破棄される事案が目につきます
司法制度改革の目玉として裁判員制度を導入しておきながら、裁判官がその制度を否定するような判断を繰り返しているわけです。これでは裁判員制度などただのお飾り扱いでしょう
熊谷市でペルー国籍のナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン被告(34)が民家に押し入り、6人を殺害した事件では、さいたま地裁で死刑判決が下されたものの、東京高裁はこれを破棄し、無期懲役の判決を言い渡しています


埼玉県熊谷市で平成27年、小学生2人を含む6人を殺害したとして強盗殺人などの罪に問われたペルー国籍、ナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン被告(34)の控訴審判決公判が5日、東京高裁で開かれた。大熊一之裁判長は、死刑とした1審さいたま地裁の裁判員裁判判決を破棄、無期懲役を言い渡した。
大熊裁判長は、訴訟能力を保持していたとする一方、事件当時は統合失調症の影響で妄想があったと述べた。
ナカダ被告は開廷前、何らかの言葉を発し続けていたが、開廷するとうつむいて判決を聞いていた。
争点は責任能力の有無や程度。1審判決は妄想の影響は限定的とし、完全責任能力を認定。弁護側が控訴していた。
控訴審で弁護側は「心神喪失状態だった」として改めて無罪を主張。弁護側の依頼で精神鑑定をした医師が出廷し「被告は事件当時(妄想によって)何かからの脅威を感じていた」と証言していた。
1審判決によると、27年9月14~16日、熊谷市の住宅3軒に侵入し、男女計6人を刃物で襲って殺害した。
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東京工業大の影山任佐(じんすけ)名誉教授(犯罪精神病理学)は「市民感情からすれば1審は当然の判断かもしれないが、精神科医や法律の専門家から見れば、完全責任能力があったというのはあり得ない判断」とみる。罪に見合う刑を求める「責任主義」と過去判例との刑の公平性を考えれば、心神耗弱を理由にした減軽はやむを得ないとの立場だ。
これに対し、常磐大の諸沢英道元学長(刑事法)は「確かに裁判員は素人だが、法廷で精神科医の解説を聞き、目の前の被告と向き合い、被告は善悪を見極めることができたと判断した。その判断は尊重するべきだ」と指摘する。
最高裁は平成24年、2審では明らかに不合理でない限り、1審の裁判員の判断を尊重すべきだとの初判断を示した。裁判官が築いてきた量刑相場も崩れつつあるが、死刑の判断だけは例外だ。背景には、懲役刑と死刑は「質的に異なる刑」との考えがある。
ある検察幹部は「死刑の判断基準だけは、市民の声を聞かないと言っているに等しい。何のための裁判員制度か」と批判。一方、ナカダ被告の弁護人は「1審判決を不合理として破棄した点は評価できるが、心神喪失の判断をすべきだった」としている。
(産経新聞の記事から引用)


高裁の裁判官にすれば、犯行当時ナカダ被告は統合失調症の影響で犯行に至っており(被害者とは面識なし)、そもそも起訴自体が無理と感じたのかもしれません。昔なら心神喪失で罪に問えないと判断するところを、被害者感情も考慮して無期懲役の判決にしたのだ、と弁解したいところでしょう
それだけギリギリの判断をしたのだ、と
しかし、報道や報道に対するコメントでは「なぜ死刑にしないのか?」との声が目立ちます
ただ、長年刑事裁判を観察してきた側からすれば、昔は精神分裂病(現在は統合失調症と呼称しますが)の影響で不起訴となったり、起訴しても無罪になる事件が珍しくありませんでした
もちろん、当時の精神鑑定の精度にも問題があったわけですし、司法判断の風潮・流れといったものも影響していたのでしょう
そうした風潮が変化し、現在では精神障害の影響を認めながらも「責任能力があった」と判断し、有罪判決を下す例が確実に増えていると感じます
本件も、昔なら心神喪失を理由に不起訴になっていたかもしれないケースでしょう
以上、思うところをつらつらと書きましたが、高裁の判断を支持するかと問われれば否です。判例とか死刑基準といったテクニカルな問題の議論など、被害者遺族にとっては何の価値もありません
ナカダ被告が統合失調症の影響にあろうとも、6人の命を奪った事実は重いのであり、死刑に処すのが相当でしょう。諸外国から批判されたのなら、被害者の心情に寄り添うのが日本の文化である、と裁判官が言い返すくらいの気概を持ってほしいものです
東京高等検察庁は最高裁に上告し、判断を求める展開になると予想しますが、残念ながら最高裁がひっくり返す可能性は低いと思われます

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