「ガールズ&パンツァー」ファンを科学する筑波大論文

殺人事件ばかり取り上げていては気が滅入るので、前回に続いて空気を換える話題を取り上げます
タイトルが釣りに近い表現であるのを事前にお詫びしておきます
正確に記述すれば、筑波大学の研究紀要に掲載された論文、「『ガールズ&パンツァー』ファンにみる聖地・大洗における巡礼行動の特性」を紹介する内容です
論文自体は参考文献リストを含めて58ページにもなりますので、全体を読みたい方は以下のアドレスからPDFファイルをダウンロードしてください

『ガールズ&パンツァー』ファンにみる聖地・大洗における巡礼行動の特性
http://www.geoenv.tsukuba.ac.jp/~chicho/hugeo/38/03.pdf
さて、論文は冒頭で、次のように述べています

コンテンツツーリズムの一種としてアニメの舞台を訪れる「聖地巡礼」がある.コンテンツツーリズムにおける空間性を論じた岡本(2015a)は,「聖地巡礼」を現実空間,情報空間,虚構空間にまたがる観光であるとしている.「聖地巡礼」は,多くのアニメ作品でみられる活動であり,特徴的な観光行動であることから多様な研究が蓄積されてきた(岡本,2015b).
「聖地巡礼」の発展においてインターネットの存在は必要不可欠だとされる(大石,2011).インターネットの中でもファン同士の交流や情報を共有・発信する場であるSNSや掲示板の存在は重要であり,価値観の共有や観光における情報源として機能している.近年,特に活発に利用されるTwitterに関しては,ツイートと観光行動の感想に関する分析手法の研究がみられるなど(渡邊・吉野,2017),注目が高まっている.

以下、大洗町がいかに整理巡礼の場を形成していったか、分析が続きます
インターネットの掲示板やSNSを介して作品の情報と、作品の舞台としての大洗町の情報がリンクを確立し、聖地巡礼としての周回、周遊のコースが整ったことなど、説明されています
そして結論部分は次のように述べられています


『ガールズ&パンツァー』における「聖地巡礼」行動の特性-おわりに代えて
以上のアニメ放送時の掲示板でのファンの受け止め方とまとめサイトでの整理のされ方,2015年の聞き取り調査,2017年の聞き取り調査をもとにガルパンの聖地巡礼行動の詳細を確認してきた.アニメ放映後にファンによって聖地の探索が進み,2013年にはすでに固定化していたことが明らかとなり,巡礼の定番の場所は劇場版以前から進んでいたことが分かった.逆言すれば,劇場版は新しい場所よりもアニメに既に描写された既知のポイントを描写することで,熱心に通っていたアニメファンにとっては「馴染みのある大洗」が劇場版では放映されたこととなる.
また,アニメ放送以降も協力関係にあった大洗町の住民を意識した動きであったとも考えられる.これはアニメのパロディ要素が劇中で強いことからも裏付けられ,人気を盛り上げた視聴者,大洗町の住民への還元と捉えられるだろう.
コンテンツツーリズムのように,メディアが誘発した観光ブームは約4年で限界を迎えると言われているが(鈴木,2010),実際2017年の平日に訪れるファンはアニメか劇場版終了後に新たに新規参入した層であることが聞き取り調査から明らかになった.
イベントや特殊な日以外に「聖地巡礼」を行うアニメファンは一部が世代交代している可能性も示唆される一方,アニメ放送時から継続的に通い続けるアニメファンの存在も見受けられた.新規層とリピーターの両者がアニメ放送後5年が経った2017年にも存在していることは,ガルパンという作品展開の継続が大きく関係しているだろう.
そして作品の展開が行われ続けると同時にその面白さを担保として,従来ファンはもちろんのこと,SNSでの流行を背景とした作品の知名度の向上,知人間の作品推薦が行われ,新規層の獲得につながっている.
作品だけではなく,大洗町へのファンの評価は総じて高い.製作者側であるプロデューサー杉山氏のインタビュー記事でも大洗町のホスピタリティについて言及がされている(ASCII,2016).製作者側,アニメファン側からも大洗の地元住民のやさしさ,活気といった部分まで含めて「大洗町」像が形成されていると推測できる.


テレビドラマや映画の舞台になってブームを巻き起こした観光地も、4年過ぎれば廃れる傾向にあるとされる中で、大洗町がいまだ多くの巡礼者を引き寄せているのは、大洗町の努力と企画力によるところも大きいのでしょう
一昔前は、「過疎化する地方をいかに活性化させるか」とのテーマが盛んに議論されましたし、成功例を紹介する報道も度々目にしました。大学教授らが、「地方からの情報発信が重要だ」と力説したものです(数多くの地域おこし、町おこしが失敗に終わったのは、核となる魅力的なコンテンツが存在しなかったからです)
情報発信といっても核となるコンテンツがなければ見向きもされず、地方自治体の財政支援が途絶えればそれで終わりです
大洗町はガルパンというコンテンツを核として取り込み、生かした例といえます
その充実ぶりは次のように紹介されています


大洗町にかかわる人々の力を結集、聖地巡礼アプリの「ガルパン」特別編、ふるさと納税者向けに12月3日より提供開始
https://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/1033126.html

もちろん、すべての人が大洗町とガルパンのコラボレーションを賛同を示しているのではなく、イベントに陸上自衛隊の戦車を展示するのはけしからん、と反対する運動も起きています(地元の人とはいえない、他所からやってきて自衛隊はけしからんと騒ぎ立てる人たち)
頭が左翼脳で固まっている人を相手に何が良くて、何が悪いのかは、議論しても無駄でしょう
別段、ガルパンが右翼思想を植えつけようとする意図で製作されたわけではなく、エンターティメントとして創作されたものなのですが、「戦車が登場するからけしからん」などと叫ぶ人たちとは会話が成立しません
さて、最後に付け加えておきますと、2016年7月時点で、中国人観光客の聖地巡礼ランキングでは10位以内にガルパンは登場していません。1位は夏目友人帳(熊本県高森町)、2位スラムダンク(鎌倉)、3位Free!(鳥取県岩見町)、4位言の葉の庭(新宿御苑)、5位たまこまーけっと(京都)、6位氷菓(高山)といった順位です
中国におけるガルパン批判の影響なのか、中国共産党による「精神的日本人批判」の影響なのか?
ただし、2016年以降も中国からの旅行客は爆発的に増加していますので、最新のデータでは変化が見えるのかもしれません

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