つくば路上刺殺事件 18歳少年に懲役10~15年不定期刑

過去の取り上げた事件で、その顛末に言及しないままになっているケースを調べています
やはり事件がどう決着したのか押さえておかないと、居心地の悪さがあります
青森県で女児の喉を切り付けた、として男子中学生が逮捕される事件の速報に接し(これは別の機会に取り上げます)、思い出したのが茨城県で高校生が中年女性を刺殺した事件です
今日は2016年6月、茨城県龍ケ崎市佐貫町の西谷田川で女性の遺体が発見され、当時高校2年生の男子生徒が犯人として逮捕された事件の判決を取り上げます
男子高校生は日課となっていたサイクリングの途中、被害者である進士康子さん(42)とすれ違った際、所持していたフィッシュピックで全身70か所あまりを刺し殺害しています
初公判で被告殺害の事実は認めたものの、公判を通してなぜ進士さんを刺したのか、明確に供述することはありませんでした
被告は事件後、両親に付き添われて警察に出頭し取調べを受け、その後2度に渡って精神鑑定を受けています。鑑定においても事件について直接語ることはなく、鑑定医は「質問内容が理解できないのではなく、理解した上で真っすぐ答えようとしない」と判断し、犯行時責任能力に問題はなかった、と結論付けています。一方、弁護人は被告には「対人恐怖症」の傾向があり、自身の気持ちを言葉で表現するのを苦手としていると主張しています


龍ケ崎市佐貫町の西谷田川で昨年7月、牛久市上柏田、女性=当時(42)=が他殺体で見つかった事件で、殺人と死体遺棄の罪に問われたつくば市、元県立高生の少年(18)の裁判員裁判で、水戸地裁(小笠原義泰裁判長)は25日、求刑通り懲役10年以上15年以下の不定期刑判決を言い渡した。10~15年は不定期刑の上限。
少年(18)の「心の闇」は、法廷でも解明されることはなかった。
小笠原義泰裁判長は判決理由で「本件は通り魔的な犯行」と指摘。中学当時の不登校などに触れつつ「被告に対する非難を大きく減少させるような事情は見当たらない」と述べた。
少年は捜査段階から動機を語らず、公判ではその解明が焦点となっていた。
弁護側の被告人質問で、少年は被害者が乗った自転車の明かりに気付き「刺そうと思った」と説明したものの、その理由については「分かりません」「覚えていません」と繰り返した。証人尋問に出廷した少年の父親は「何かあったとしか考えようがない」と述べるにとどまった。
少年は2回、精神鑑定が行われた。審理では鑑定した精神科医が出廷し、「犯行当時、精神障害を有していたとは言えない」と指摘した。鑑定結果を受け、弁護側は少年には「対人恐怖の傾向がある」と主張したが、精神科医は「(少年は)問われていることを理解して(答えを)外している」との見解も示した。
判決後、記者会見した裁判員の一人は「心情を聞けなかったのは残念」と述懐。別の裁判員は「(犯行の)やり方に重点を置いた」と判断を振り返った。
少年と面会を重ねるNPO法人「ワールドオープンハート」(仙台市)の阿部恭子代表は「いろんなことを考えている様子は見受けられるが、気持ちを言語化するのが難しいようだ」と指摘。面会を重ねながら、「彼の考えに近いであろう言葉を投げ掛けながらサポートしたい」と話した。
公判で、少年が被害者側に謝罪の弁を口にすることはなかった。この日、判決言い渡し後、裁判長から説諭される場面もなく、一言も発する機会はなかった。終始前を見つめ、傍聴席から表情をうかがうこともできなかった。
(茨城新聞の記事から引用)


上記の記事だけでは、被告に発達障害があったかどうか、微妙です。2度も精神鑑定を実施しているのですから、精神科医なら人格障害なのか発達障害なのか、あるいは他の病理によるものなのか、診断を下すでしょう。いずれとも診断し難かったと思われます
裁判では殺害にいたった被告の力動は争点にならず(犯行そのものは認めているため)、「殺そうと思ってやった」との被告の供述から傷害致死罪ではなく殺人罪として審理され、判決が下された格好です
被害者である進士さんについては、週刊女性が以下のように報じています


「中学生のときにお母さんを亡くしてね。おとなしくて、優しい感じのかわいい子だったけどね」
と記憶する近隣住民は、大人になった進士さんの変わりように首をひねる。
3~4年前、進士さんは実家に戻って来た。変わった様子が見られるようになったのは2年ほど前から……。
「家の前を通ると“殺すぞ”と叫ばれて怖かった」「“水戸へ帰れ”“おまえは田舎者じゃなくてド田舎者だ”とかね」
などと罵声を浴びせられたという証言が次々に集まる。ただ歩いているだけで、水をかけられたという人も。
家の前の通学路が、児童の親の不安の声で、変更になったこともあった。周辺住民から、市役所や警察にも相談が持ち込まれたという。
「区長さんとか民生委員の人が何度も足を運んで、病院で診察を受けてもらうことをすすめたんだけど、お父さんは“わかりました”というだけ。“娘が嫌がっている”って」


上記の記事だけで判断するのは危険ですが、進士さんの攻撃鵜的な言動を見る限り妄想型の統合失調症であったかもしれません。ただ、家事をしたり着替えたり、食事を摂ったりできたのならば、日常生活に支障をきたすほど深刻な症状ではなかったのでしょう
さて、上記の記事と弁護人が主張した「対人恐怖の傾向」を考えてみましょう
以下は自分の仮説であり、推論です
殺害現場となった川沿いの道で自転車に乗った被告と、同じく自転車で対向してきた進士さんがすれ違い様に接触しそうになり、おそらく進士さんから罵声を浴びせられたのかもしれません。興奮状態になった被告は所持していたフィッシュピックで進士さんを衝動のまま70か所も刺した、と考えられます
大量の出血で被告の服も赤く染まったはずです
その時の衝動は上記の「対人恐怖」を考慮すると怒りに駆られたものではなく、進士さんに抱いた恐怖によるもので、進士さんが絶命して動かなくなるまで被告は攻撃を中断できなかった、と推測します
ただし、被告は自身が抱いた恐怖がどのようなものであるのか、言語化する術を持たないがゆえに語れなかった可能性が考えられます
被告は中学時代に不登校であったと伝えられますが、不登校の原因や理由は判然としません。高校入学後は休むこともなく通学していたようですし、同世代の生徒と交流もあったようなので、対人恐怖となる対象は進士さんのような「大人」であったと推測できます(ならば、中学時の不登校の主因は教師との関係でしょう)
精神鑑定や警察の取り調べも「大人」によるものですから、被告にとっては気安く会話できる状況ではなく、場面緘黙の陥ったのではないでしょうか?
問い詰められれば問い詰められるほど、沈黙せざるを得ないのですから
ただし、神経症であるところの対人恐怖が被告にあったとして、それで罪一等を免じる理由にはなりません。経緯がどうあれ、人の命を奪った事実に変わりはありません
仮に対人恐怖による場面緘黙という症状が被告にあったとするなら、その症状を踏まえた上で事件をもっと丁寧に読み解くべきではなかったのかと自分は思います。田舎の警察には無理でしょうが

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