盗作騒動「美しい顔」 小説家北条裕子のその後
北条裕子の小説「美しい顔」は群像新人文学賞を受賞し、芥川賞候補にも挙げられて注目を集めました。他方で、作品の中に東北震災を題材にしたドキュメンタリーの文章からの無断引用が多数指摘され、バッシングを受ける事態になりました
上記のドキュメンタリーを出版していた新潮社が抗議したのに対し、講談社は「盗作に当たらない」と北条裕子を全面的に庇い、参考文献の一覧をつけるべきところを編集の手違いで漏らしただけ、と事態を矮小化すべく主張したのが異例でした
その経緯は当ブログでも過去に、取り上げましたのでそちらを参照願います
選考の結果として芥川賞は逃し、加筆修正を経て「美しい顔」は単行本として出版されています
今年の4月、北条裕子が産経新聞のインタビューに応じ、掲載されていますので取り上げます
「甘さ、未熟さがあった」 類似表現物議の芥川賞候補作家
「フィクションに昇華する努力が不足」
『美しい顔』は昨年の群像新人文学賞を受けた北条さんのデビュー小説。第159回芥川賞候補にも選ばれた。
物語の主人公は津波で母親を亡くした女子高校生。母の死がもたらした深い喪失感と向き合いながら前に進もうとする少女の内面の叫びを、「私」という一人称で力強く描く。「被災地に行ったことは一度もない」という北条さんによる被災地の緻密な描写も評価されていた。ところが、執筆の際に示唆を得たという石井光太さんのノンフィクション『遺体』や被災者の手記集『3・11 慟哭(どうこく)の記録』などの参考文献を、作品を発表した文芸誌「群像」平成30年6月号で明示しなかったことが問題視された。また遺体安置所に遺体が並ぶ様子を「ミノ虫」にたとえる表現など、参考文献と似た記述が複数あることも判明。昨年7月の芥川賞選考会ではこうした記述の類似は「盗用に当たらない」とみなされたが、一部の委員から「事実の吟味とそれを自分なりのフィクションとしての表現に昇華する努力が足りなかった」との苦言も出た。
「離れすぎてはいけない」と思った
「被災直後の遺体安置所の場面は、客観的な事実から遠ざかりすぎてはいけない、離れすぎてはいけないという気持ちがあった。私に甘さや未熟さがあり、参考文献を雑に扱ったと捉えられても仕方がないところがありました。そこは(改稿で)直さないといけないと思いました」
北条さんはインタビューの冒頭、類似表現について謝罪。参考文献については単行本を出す際に明示すればいい、という考えがあったというが「著者や編者の方々に敬意と感謝の気持ちを示すために、参考文献を雑誌掲載のときから載せるべきでした」と話し、文献の編著者に文面で謝罪したことを明かした。
単行本では、物語の大枠はそのままに、被災地の細かな描写などを書き換えた。「たとえ事実があったとしても自分のなかに一度落とし込み、一から表現する。自分がもしそこにいたらどうだろう?と考えて書き直しました」
(中略)
昨年、インターネット上で「盗用、剽窃(ひょうせつ)」といった中傷が飛び交った騒動の渦中でも作品を「単行本として出版したい」という気持ちは揺らがなかった。
「この小説は『3・11』を書きながらも『3・11』そのものではなく、一人の少女の喪失の物語です。読んだ方に喪失への向き合い方を考えるヒント、材料として利用してもらいたい。だからご迷惑をおかしけながらも出版したいと思いました」
もともと思ったことをノートに書き記す習慣があった北条さんは、25歳のころに小説を書き始めた。昨年5月の群像新人文学賞授賞式では「物語というウソの話にすることで本当のことが言える。生まれて初めて言葉を得たような震えるほどのうれしさがあった」とスピーチし拍手を浴びていた。
デビューの直前に生まれた第一子の子育てに追われながら、すでに次作を書き始めている。
(以下、略)
「盗用、剽窃」については繰り返しません
芥川賞の選考委員のコメントを引用して、この作品の評価に代えます
山田詠美「だいたい資料に寄り掛かり過ぎなんだよ! もっと、図々しく取り込んで、大胆に咀嚼して、自分の唾液を塗りたくった言葉をぺっと吐き出す、くらいの厚かましさがなければ。事実を物語に巻き込んで行くような筆力があるのに、冒頭の比喩や結末に向かう流れが驚くほど凡庸なのが気に掛かる。こういうところこそ、作者のオリジナリティの見せどころではないか。」
島田雅彦「むろん、被災地に行かなくても、小説は書ける。しかし、事実を変えようとする者、他者のコトバを安易に借用しようとする者は事実から復讐される覚悟も必要である。この作者は書き手として厳しい洗礼を受けたが、まだ終わりではない。これを機にもっと禍々しくパワーアップせよ。」
高樹のぶ子「書きたいことが明確にある作品だ。」「才気と勇気のある新人だが、最初に小説の型があり、その型の中に震災の情報を流し込んだ感はある。」「オリジナリティとは、文章だけでなく映像もネット情報も含めて、すでに表現されたものの上に存在する。それが文化というものだ。ただその場合、既存のものを越えなければならない。越えようとする意識と覚悟が、オリジナリティを生むのだと思う。」
奥泉光「人々の記憶に新しい出来事を扱うには、物語の構成があまりに短兵急であったといわざるをえない。ことにかつて子供を事故で失った『奥さん』が主人公に決定的な言葉を与えるあたりの展開、あるいは主人公の弟の描き方など、物語一般がどうしても孕んでしまう『ご都合主義』の臭いが強くなってしまった。」
講談社が北条裕子を美人作家として売り出そうと企図したのはともかく、芥川賞候補を辞退させ、次の作品に賭けるくらいの胆力があれば別の展開もあったのではないか、と思います
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