村上春樹「蛍・納屋を焼く」を韓国で映画化 その感想
村上春樹の短編小説「蛍・納屋を焼く」を韓国のイ・チャンドン監督が映画化する、との報道を目にしたのはいつだったのか
自分の好きな小説である「蛍・納屋を焼く」は、誰がメガフォンを取ろうと実写映画で表現しきれるものではない、と思いましたので作品が公開されたとしても見るつもりはありませんでした
が、たまたま映画の批評を読んでしまったので、有料動画配信サービスを利用し(440円支払って)見ました
なので、感想を少しばかり書きます
映画の批評は以下のようなもので、書いているのは木津毅というライターです
イ・チャンドンは村上春樹作品をどう改変した? 『バーニング』が捉えた現代韓国の若者たちの感覚
(前略)
『バーニング』には原作にも存在するエピソードがところどころで挿入されているが、とりわけ興味深いのが、ヘミがパントマイムをやっていると話すくだりである。ミカンを剥く動作を披露したあと、「“ある”と考えるのではなくて、そこに“ない”ということを忘れればいい」というヘミ。原作で「僕」は「まるで禅だな」といかにも春樹作品の主人公らしい気の効いたことを言うのだが、ジョンスはただ口を開けている。なぜならば、ジョンスのような持たざる者にとって“ない”というのはいつだって切実な問題であって、けっして忘れることなどできないものだからだ。
映画のハイライトは中盤、マイルス・デイヴィスが流れるなかヘミが上半身裸で踊る退廃的で優美な一幕だろう。自然光で撮影したと思しきそのシーンを経て、画面はほとんど何も見えなくなるほどどんどん暗くなっていく。そしてベンが件のビニールハウス焼きについて漏らし、映画は不可解な領域に突入していく。ジョンスは失踪したヘミを追えば追うほど何も掴めなくなり、優雅な佇まいを崩さないベンに迫ることもできない。何も見えない。見つからない。この、自分の預かり知らないところですべてがコントロールされ、すべてが奪われていくという感覚は、現代韓国の貧しい若者たちが実際に抱いているものに違いない。「なぜか分からないが裕福なやつら」によって自分たちの人生は搾取されていて、それはけっして覆せないという感覚。消えることのない嫉妬と怒り。
だからこそ、その怒りが閾値に達するラスト・シーンは生々しい迫力をスクリーンに刻みこむ。息を呑む長回しのワンカットは、まさにそうした怒りがいまにも爆発しそうであることを観る者に突きつけてくるのである。その後ジョンスが取る行動には様々な解釈が可能だが、つねに受動的だった彼がついに主体的に「持たざる者」であることを受け入れたのだと自分には感じられた。翻って日本では、低収入であるにもかかわらず自分自身を「貧しい」と思わない層がいまだに多いというデータがあるそうだが、そうして現実に目を向けないまま格差は広がっていく。『バーニング』は、我々の知らないところで起きている不可解な現実に翻弄され、それでもどうにか対峙しようとする苦悶についての映画である。いまもどこかで、ビニールハウスが焼け落ちている。
映画評の省略した前段部分では、韓国の若者事情(就職できない若者がいる一方、親の資産や地位のおかげで裕福な暮らしを享受する若者がいる(もつ者と、もたざる者の絶望的な格差)に言及しています
まあ、そうした社会の格差を暴き出す内容に改変したイ・チャンドン監督の目論を肯定する立場で、映画評が書かれているわけです。その思わせぶりな批評(特に最後の段落)を読めば笑ってしまいます
さほどまでに「もつ者ともたざる者」の世界を垣間見たいのなら、アラン・ドロンの「太陽がいっぱい」でも見れば済むわけで
よって、貧富の差とかもつ者ともたざる者という、いまどき陳腐な二項対立の形式を持ち込んだ時点で、「納屋を焼く」の映画化としては破綻しているのであり、わざわざ「納屋を焼く」の映画化と謳う必要などなかったのではないか、と思います
映画監督が原作をアレンジするのはありでしょうし、必ずしも原作に忠実にあるべきだとは主張しません
ただこの映画は原作の魅力、原作の持つ余韻、情緒など微塵も感じられない作品になっており、どうしてこんなものを撮ったのか、自分にはさっぱり理解できません。2時間28分で何を表現したかったのか、謎です
映画館で1600円払って見る価値はないと断言できます
韓国映画あるあるの、何かわけのわからないものに怒りをぶつけている内容、とでもいえばよいのか
もっと原作の良さを生かす映画にできなかったのか、したくなかったのか、最初からする気がなかったのか、監督に訊いてみたいものです
「バーニング」予告
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