西成准看護師殺人事件を考える 無期懲役判決

元同級生であった女性准看護師を殺害し、クレジットカードを奪ったほか、なりすまして旅券を取得した上、中国へ逃げていた日系ブラジル人、、オーイシ・ケティ・ユリ被告(34)に対する判決があり、求刑通り無期懲役が言い渡されています
この事件ではオーイシ被告が解離性同一性障害であるとの精神鑑定結果が示され、責任能力が争点になっていました
裁判官は、「犯行を別人格が主導していたとしても、オーイシ被告本人の責任は否定できない」として、情状酌量による割引なしに求刑通り、無期懲役を言い渡しており、随分と厳しい判断を下したと感じます
この判決は今後、「解離性同一性障害といえども減刑すべき事由には当たらない」との新たな基準になるのかもしれません


平成26年に大阪市西成区の准看護師、岡田里香さん=当時(29)=を殺害して現金などを奪ったとして、強盗殺人罪などに問われた元同級生で日系ブラジル人、オーイシ・ケティ・ユリ被告(34)の裁判員裁判の判決公判が14日、大阪地裁で開かれた。
上岡哲生裁判長は「完全責任能力が認められる。他人に成り代わるという身勝手な考えで犯行に及んだ」として、求刑通り無期懲役を言い渡した。
上岡裁判長は判決理由で、犯行の動機について「親密な関係だった女性がいる中国へ渡航したかったが在留資格がなく、岡田さんを殺害し、旅券を取得しようとした」と認定した。
その上で、争点だった刑事責任能力の程度を検討。ナイフを事前に準備したり、殺害後に現場の血痕を拭き取ったりしていたことを挙げ、「発覚を防ぐための行動を取っていた」と指摘。「善悪の判断能力や行動の制御能力が著しく低下していなかったことは明らか」として、事件当時の完全責任能力が認められるとした。
弁護側は、多重人格が現れる「解離性同一性障害」の影響により別の人格に支配され、行動を制御できない心神耗弱状態だったと主張していたが、上岡裁判長は「別人格が主体だったとしても行動の制御ができており、犯行は被告の責任」と退けた。
判決によると、オーイシ被告は26年3月22日朝、岡田さん宅で岡田さんをナイフで多数回突き刺し、出血性ショックで殺害。現金やクレジットカードを奪うなどした。
オーイシ被告は同年5月に中国へ出国。岡田さんの遺体発見後、上海の日本総領事館に出頭し、29年1月に日本側へ引き渡された。
(産経新聞の記事から引用)


オーイシ被告は犯行について大筋で認め、争わない方針を示し、もっぱら弁護人による「別人格による犯行であり、オーイシ被告自身の責任は限定的」とする弁護方針に委ねてきました。弁護人とすれば、精神鑑定結果の趣旨を踏まえ、責任能力は限定的であったのだから減刑されるべき、との判断だったのでしょう
弁護人の方針を云々するつもりはありません。従来なら「解離性同一性人格障害の影響による犯行」とされ、罪一等を減じ、無期懲役の求刑から割り引かれて懲役20年前後の有期刑が言い渡されるケースでしょう
しかし、今回は犯行内容があまりに悪質であり、かつ本人になりすまして旅券を手にし、海外へ逃亡した…という行状からして厳罰を科すべき、と裁判員は感じたのと推測できます
そして「解離性同一性障害」により別の人格が犯行を主導しても、被告本人の責任を棚上げにはできない、という判断が導入され、無期懲役の判断が下されました
弁護人は判決を不服として控訴し、犯行当時の被告の責任能力を限定的に判断すべきとして争うものと予想されます
過去の判例では、解離性人格障害による責任能力の減退をを認め、求刑を大きく下回る量刑を言い渡した例もあります(求刑は懲役17年で一審判決は懲役7年)
関心のある方は一読願います

判例研究「解離性同一性障害と刑事責任能力」:東京高裁平成21年4月判決(PDF)
上記のタイトルで検索をかけてください

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