高槻少女殺害事件を考える20 死刑判決への論評

寝屋川市の中学生2人を殺害し、遺棄したとして死刑判決を受けた山田浩二被告は控訴し、なおも争い続ける姿勢を示しています。高裁には一審の裁判員裁判の判決をひっくり返すのを趣味にしている偏屈な裁判官がいますので、どのような判断が下されるか分かりません
さて、あらためて大阪地裁の判決を振り返り、思うところを述べます
判決公判を様子を各種メディアが報じているのですが、今回は日本経済新聞の記事から引用します
山田被告の責任能力についての裁判所の判断を伝えるものです


犯行は人格の偏り(反社会性パーソナリティー障害)が影響しているとも言及。「虚偽の供述をして今なお自ら犯した罪に向き合っていない」と述べ、更生は困難と指摘した。
弁護側は最終弁論で、男子生徒に対する殺人罪について「熱中症などの体調不良で死亡した疑いが排除できない」として無罪を主張。女子生徒については「殺意はなく、口を押さえた手が首にいってしまった」として傷害致死罪にとどまると訴えていた。
また、被告は対人関係が苦手な自閉スペクトラム症(ASD)で、犯行当時は心神耗弱状態で責任能力が著しく低下していたと主張していた。


弁護側の主張が「注意欠陥多動障害(ADHD)」であると報じているメディアもあり、「自閉スペクトラム症(ASD)」の方なのか、判然としません
判決の方では反社会性パーソナリティ障害との判断を採用し、発達障害ではなく人格障害であるとの判断です。これは精神鑑定の結果を踏まえているのでしょう
注目すべきは弁護側の「発達障害のため心神耗弱状態であった⇒責任能力低下」との主張を受け入れず、「公判で虚偽の供述を繰り返しており、罪と向き合おうとしていない⇒更生は不可能」と断じている部分です
山田被告は自らの立場をアピールするため、被害者が体調を崩しただの、平田さんに脅されたなどなど、得々として嘘を語り続けました。その嘘で裁判官も裁判員も騙せると確信していたのでしょう
しかし、その結果「更生不可能な嘘つき」と判断されたわけです
刑事法の専門家の見解を1つ、紹介しておきます


近畿大の辻本典央(のりお)教授(刑事訴訟法)の話「事実認定にあたり、鑑定医ら専門家の証言が採用されるかどうかが焦点だったが、全体的に検察側の主張がほぼ認められた形だ。弁護側は覆すだけの具体的な反証ができなかった。死刑の選択にあたって計画性は考慮されるべき要素で、過去にも計画性の有無が死刑判断に大きく左右している。しかし、今回はそれ以上に2人の子供を殺害した事件の罪質を重視し、結論を導き出した。計画性のなさが必ずしも死刑回避の理由にならないことを示した先例になる可能性もある」


死刑判決を下すために、いわゆる「永山基準」とされる九つの要件を満たす必要がある、というのが刑事法専門家の常識になっています。この「永山基準」について、当ブログは過去にも批判してきました
世間の同情を集めていた永山則夫に死刑を言い渡すため設けられた便法としての基準であり、それを金科玉条のように墨守する必要を感じないからです
(1)犯罪の性質、(2)動機、計画性など、(3)犯行態様、執拗(しつよう)さ・残虐性など、(4)結果の重大さ、特に殺害被害者数、(5)遺族の被害感情、(6)社会的影響、(7)犯人の年齢、犯行時に未成年など、(8)前科、(9)犯行後の情状です
これらを考慮し、刑事責任が極めて重大で、犯罪予防などの観点からやむを得ない場合には、死刑の選択も許される…というのが「永山基準」です
結果として日本の刑事裁判は九つの要件が争点になるわけで、とくに計画性の有無とか殺意の有無といった、判断し難い部分で攻防が繰り広げられるのです
過去、激情に駆られた殺人を「計画性がない」として死刑を回避し、無期懲役の判決を下した例があります。事前に殺すための凶器を準備していたにも関わらず
本件は行き当たりばったりの犯行であり、計画的と判断するのは難しいのですが、それでも死刑に処すしかないと判断しており、「永山基準」に縛られることなく1歩踏み出した画期的な判決といえます
だからこそ、控訴審で「永山基準」に反するとひっくり返される危険もあります

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