大阪多重人格殺人で懲役16年の判決1 6つの人格
当ブログで繰り返し言及しているように、日本のテレビドラマやサスペンス小説にはしばしば二重人格、多重人格という設定が登場します。「殺人犯に狙われているいたいけな少女こそが、実は猟奇的な連続殺人犯だった」というドンデン返し、ギャップがウケるからなのでしょう
実際に刑事裁判で解離性同一性障害と認められるケースは非常に稀であり、判例踏襲を是とする裁判所が解離性同一性障害認定するのに消極的であるため、とも考えられます
そこで昨年、大阪地方裁判所で示された判決を取り上げます
元記事は産経新聞の特集記事、「衝撃事件の核心」であり、長文なので2回に分けて引用します
「私には6つの人格がある」多重人格“和製ビリー・ミリガン”の法廷告白 交際女性を殺害したのは誰だ?
「私には6つの人格がある」と主張し、法廷に立っている自分を「道徳的でない彼」と呼んだ。交際相手の女性を刺殺したとして殺人罪に問われた大阪市旭区の無職、隅田龍馬(りょうま)被告(27)。10~11月に大阪地裁で開かれた裁判員裁判で、解離性同一性障害(多重人格)だと述べ、被告人質問では犯行時とは別の「自分」が事件の流れを“自白”した。弁護側は「現在と犯行時では人格が異なる」として心神喪
失による無罪を主張し、検察側は「多重人格ではない」と真っ向から反論。
精神科医2人による鑑定も多重人格か否かで割れた。本当に複数の人格が存在するのか、単なる演技なのか。難しい判断を迫られた裁判員の結論は-。
隅田被告は平成27年7月11日、大阪市中央区の当時の自宅マンションで、交際女性=当時(21)=の首などを包丁で多数回切りつけ、殺害したとして起訴された。
公判資料などによると、2人の出会いは26年10月。女性が隅田被告の勤めていた大阪市内の飲食店で働き始めた。当時は互いに別の彼氏彼女がいて、特に隅田被告は約5年間同居していた婚約者がいた。しかし、隅田被告は次第に女性に好意を抱くようになり、出会って約2カ月の同年末には2人は恋愛関係となった。
しばらく婚約者と女性との二股状態だった隅田被告。27年5月ごろに婚約者と別れて女性と同居を開始した。現場となったマンションには事件の約10日前に引っ越してきたばかりだった。
だが、順調な交際と思っていた隅田被告に対し、女性は周囲に「束縛される。別れるつもり」などと漏らすようになっていた。
そして事件当日。前日から外出していた女性は帰宅すると、隅田被告に別れを切り出した。2人の関係が終わったことを悟った隅田被告は、室内にあった包丁で女性の首を多数回切りつけた。
「彼」の説明では、「恭」と被害女性は、ある音楽グループのファン。そのグループの曲の歌詞に感化され、「別れるときは互いを殺し合う」という約束をしていた。だから、女性から別れ話を切り出された「恭」はこの約束に基づいて女性を殺害した。
女性は襲われながら「恭」に向かって「大好き」「あなたは生きて幸せになって」と話したという。
こうした事実関係について、弁護側はおおむね争いがない。問題としたのは、事件当時の隅田被告は法廷の証言台に立つ男とは“別の隅田被告”だった-ということだ。
弁護側によると、隅田被告には、少なくとも6つの人格がある。
たとえば法廷に出ている「道徳的でない彼」。彼はは高校時代、不良の生徒に絡まれることが多々あり、不良の攻撃から身を守るために形成されたという。犯行時は「恭(きょう)」だった。殺害された女性と交際中に形成されていった人格だ。
一方、元婚約者の前では「にゃーにゃさん」と呼ばれる人格が表に出ていた。
このうち「彼」は「恭」と“記憶の共有”ができるといい、法廷では「彼」が「『恭』の裏側で見ていた」とする事件の概要を語った。
(以下、略)
事件に至るまでの事実関係が中心です。が、公判で(弁護人との事前の打ち合わせでも隅田被告は多重人格を主張していたのでしょうし、公判前の争点整理でも当然主張されたはずです)唐突に別人格が登場するという展開ははなはだ不可解です
隅田被告が解離性同一性障害であったとするなら、殺人事件前にも人格の交代が度々起きていたと考えfられるのですが、上記の記事では高校時代に不良に絡まれたので別人格が表に出た…とのエピソードが無理やり登場しています
記事が正確に法廷のやり取りを採録したものなのか、ドラマ仕立ての効果を狙ったものなのかは分かりませんが、どうにも不自然であり被告・弁護側の演出のように見えてなりません
なお、公判前に精神鑑定が実施されている事実を踏まえると、争点整理で解離性同一性障害を争点に据えたため、鑑定が必要になった…という流れなのでしょう
しかし、都合よく公判の被告人質問の時間にタイミングよく人格の乖離が起こり、別人格が出現するのかは大いに疑問です
さて、Aという人格が行った殺人を、Bという人格が知らない、記憶していないので刑事裁判では責任を問えない、とするのがテレビドラマの展開なのですが、実際はそうではありません
この事件では解離性同一性障害を認めるものの、責任能力の減退が起きていた心神耗弱状態ではないかったと判断し、被告の有罪は揺るがず懲役16年の実刑判決を言い渡しています
長くなりますので、一旦ここで切り上げ、裁判の後段についての話は次回、触れることにします
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