レッサーパンダ帽男殺人を考える2 不幸な誤解
発達障害と殺人を考えるきっかけとして、2001年4月に東京都台東区で女子短大生が包丁で刺殺された事件を取り上げています
犯人山口誠は過去に強制わいせつ事件で有罪判決を受けており、この女子短大生殺害についても、刃物で脅した上でわいせつ行為をしようと企図したものではないかとの疑いを招きました
しかし、犯行の動機について山口被告の口から明確な発言は引き出せないままであり、殺害の事実をもって無期懲役が言い渡されたと受け止める人も少なくありません
事件の弁護を担当した副島弁護士は、この事件に「不幸な誤解があった」と指摘しています
副島洋明さんインタビュー「障害と事件」
――重大事件でも、発達障害が問題にされ始めていますね?
たしかにそういうケースはあります。しかし、それも背景をちゃんと見ないといけない。
たとえば「浅草レッサーパンダ事件(※メモ2参照)」では、加害者のYさんは「凶悪な通り魔殺人鬼」と言われた。たしかに、人通りの多い浅草で昼日中に女性を包丁で刺したというのは、一見理解しがたい重大な殺人事件とみえます。
自白調書には「殺して自分のものにしたかった」と書かれていますが、しかし続けて「自分のものにしたかった」とは〈友だちになりたかった/いっしょに公園のベンチに座ってみたかった〉と話しています。彼は女性を殺すという意思はなかったんです。
彼の生育歴をみると、発達障害のゆえに徹底的にいじめられ傷つけられていた。しかも、ふつうだったらとうに自殺していておかしくない極貧の状況下で辛抱強く生きてきたんです。それでも、社会に恨みや怒りをもち、それを他人に向けることがない。
それを「障害」と言うならばそうかもしれません。そういう不器用さ、孤立性を持っている。
じゃあ、何が彼を包丁を出すという「犯罪」に追い立てたのか? 異常で変態からなのか?
ちがうんです。彼らはそこで人に対してコミュニケーションをとろうとしていたんです。彼は女性と話をしてみたかった。女性と二人で歩いてみたかった。美しい詩をいっぱい書いた手紙を何度も同級生やいろんな女性に出してきています。それは相手の女性に恐怖心をもたらすわけだけど、それがわからない。どうしたら人は自分に振り向いてくれるか、どうしたら立ち止まってくれるかという思いなんです。
数年前の前科のなかに、彼がオモチャの鉄砲を示したら女性が立ち止まってくれたことがあった。鉄砲を向けられた女性はその異様な状況に震えあがったわけですが、彼にすれば、そういうふうにすれば女性が立ち止まってくれると理解した。
その延長にあの事件がある。だから、そこまで追いつめられる前にちょっとでも相談できる人がいたら、コミュニケーションに飢えていなかったら、あの事件はなかったと思います。
弁護士の発達障害者に寄せる思いには敬意を表したいと思います
しかし、刺殺された女性の側にすれば刃物を突き付けられるのは恐怖でしかなく、山口被告がコミュニケーションに飢えていたと説明されても納得できないでしょうし、理解する気にもなれないのでしょう
いくら副島弁護士が「彼には殺害する意図はなかった」と強調しても、被害者は現に刺殺されているわけで
裁判上の話をするなら、殺人ではなく傷害致死罪の適用(殺意はなかった)で無期懲役から有期刑への減刑があってしかるべき、と副島弁護士は言いたいのでしょう
ですが、仮に山口被告に殺意はなかったとしても、被害者を複数回刺して死亡させている以上、裁判官や検察官が「殺意を抱いて刺した」と見るのは仕方のないところです
たとえ山口被告が被害者女性としばし語り合いたいがため刃物を向けただけ、だとしても、それが不幸な誤解であったとしても、発達障害であっても許されるものではないと指摘しておきます
ちなみに山口被告の父親も軽度の知的障害があり、金銭管理能力がないうえにパチンコに狂い、こどもたちには暴力をふるう人間でした
山口被告が家出をして保護されるたび、その帰還のための旅費を負担したのは妹です。
彼女は中学卒業後、進学を諦めて働き、若くしてガンを患い25歳で亡くなっています
山口被告は家出の資金を得るため、妹の私物を持ち出して売り払うのもしばしばだったとか
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