古谷経衡「クールジャパンの嘘」の嘘
新進気鋭?のメディア評論家にしてサブカルチャーの論客である古谷経衡の著作「クールジャパンの嘘」(総和社)を取り上げます
古谷経衡は北海道出身の34歳。古風な名前のため、もっと年配の人物かと思っていましたが、若い(驚き)
2012年に出版された「フジテレビデモに行ってみた! 大手マスコミが一切報道できなかったネトデモの全記録」(青林堂)で名前を知った方もいるでしょう
本人は漫画やアニメに詳しく、一端の論客を気取っているわけですが、その前提となる批評のための理論、という部分は実に希薄です
まずは「クールジャパンの嘘」において、いかに事実誤認の記述が多いか、丹念に指摘している「Parergon on and on」さんのブログを紹介しましょう
古谷経衡『クールジャパンの嘘』の揚げ足どり(1)
古谷経衡『クールジャパンの嘘』の揚げ足どり(2)
で、こうした事実誤認の何が問題かと言えば、誤った前提と情報によって作者古谷経衡の主張が組み上げられている点、こそ最大の欠陥だからです
出版元である総和社は、「クールジャパンに関して出ている本は、日本及び日本人がいかに世界から評価され人気があるのかという『クールジャパン』を賛美したものが大半で、批判はあっても儲かっていないという経済的観点からのものですが、本書は『クールジャパン』にみられる文化外交への過剰な期待を日本独特の社会現象ととらえ、戦後史まで遡り批判した(第1部第1章、2章)を軸に、『クールコリア』見習え論と安倍政権の『クールジャパン推進会議』のデタラメな議論を徹底批判(第2部3章)、アニメ=秋葉系という政治家知識人の無知を暴いた4章、アニオタ保守を自認する著者ならではのクールジャパン=日本文化私観を展開した5章から構成されております」と宣伝しており、こうして正面切った批判を浴びせた分には価値があるのでしょう
国策としての「クールジャパン」批判は過去にも散見されますが、本書のようにまとまった形で上奏されたのには、意義があると自分も思います
しかし、官僚や政治家、有識者(業界関係者)が集まったところで、まともな政策など提起されないのは誰もが予見するところであり、批判もいまさらの感があります
政策の骨格は官僚が作文するのわけで、何か斬新なアイディアが生まれる可能性は皆無だと皆が承知している以上、理屈を後付けしても…
また、本書が指摘するところの、「アニメや漫画といった文化で中国や韓国を魅了したとしても、彼らの反日思考は変化しない」との見解も、何ら目新しさはありません
インターネットの掲示板「2ちゃんねる」を見ている人なら、誰もがそうと理解しているわけで
文化振興政策として数々の問題点、欠陥を保有している「クールジャパン」政策に切り込む「その意気や由」ですが
さて、クールジャパン関連予算として計上されている分は平成28年度政府予算で376億円に達します
他方で、韓国政府による文化・体育・観光部門に配分した予算支出額は2015年で6兆6000億ウォン(約6655億円)です
韓国ドラマの海外への売り込みに補助金を出したり、とあの手この手で日本の20倍もの大金を投じているのが分かります
クールジャパン政策の成果とは断言できないものの、2016年には来日した外国人の数が2400万人を超えました。韓国を訪問した外国人はこれを650万人下回っています
単純に費用対効果で日本の勝ち、などと言うつもりはありませんが、これも1つの結果です
なので、「オタク」とか「サブカルチャー」などの視点だけから、「クールジャパン」を語っても、それだけでは不十分だと自分は思うのです
なぜ問題だらけの「クールジャパン政策」であっても、訪日観光客が増えたのかを古谷経衡に解き明かしてもらいたいものです
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