レッサーパンダ帽男殺人を考える1 発達障害
死刑の話題を2つ、書きました。ただし、何が何でも処刑せよ、と主張するつもりはありません
被害者の側にすれば親族が殺害される衝撃的な事件に対し、何らかの決着を求める気持ちがあるのは事実であり、その1つが死刑の執行でしょう
報復を求める被害者家族を批判し、博愛的な立場から犯人を許すことこそ本当の癒しにつながると説教する人たちもいるのですが、賛成する気にはなれません
さて、前置きはこのくらいにして本題へ進みます
「見ず知らずの人を殺害した犯人を逮捕したら発達障害だった」という事件が珍しくありません。診断の精度が向上した結果でもあります
もちろん発達障害自体は大昔からあったのであり、それを障害ととらえる概念がなかったゆえに、「ちょっと変わった人間」とか、「おかしな奴」として扱われていたわけです
発達障害が社会問題、教育問題として取り上げられるようになってきたものの、対応が十分とは言えない状況であり、特に刑事事件の被害者であったり加害者である場合、その扱いが適切とは言い難いケースが目につきます
今回取り上げる「レッサーパンダ帽男殺人」とは、発達傷害を抱えた男性による通り魔殺人であり、犯人がいつもレッサーパンダの帽子をかぶっていたためにこう呼ばれています
2001年4月に東京都台東区で女子短大生が包丁で刺され、失血死する事件があり、目撃証言などからレッサーパンダの帽子を被った男、が容疑者として浮上しました。犯人山口誠はレッサーパンダの帽子を脱ぎ捨てて逃走。翌月、工事現場で日雇い労働者として就労しているところを逮捕されています
事件の経緯をまとめたウェッブサイトがありますので、そちらを参照願います
レッサーパンダ帽男殺人事件【山口誠】
山口誠は知的障害があるとして養護学校に通っていたのですが、卒業後の就労先では前歯を叩き折られるほどのひどいいじめを受けており、また父親も暴力に走る人物でした(父親も軽度の知的障害あり)
そのためか家庭に居つかず放浪を繰り返しては事件を起こし、強制わいせつ・強盗未遂で懲役3年執行猶予5年の判決を受けたのち、熊本で自転車窃盗をやり佐賀少年刑務所に服役、さらに出所後に青森で無銭飲食をやり青森刑務所に服役しています
山口誠の場合、知的障害と言うよりも自閉症に近いものがあったわけですが、それでも家出し放浪を繰り返すようでは福祉の枠からはみ出してしまいます
そして函館の実家から家出して上京後、本件の殺人事件に至ります
まとめサイトを見ても、動機の部分は判然としません。山口の主観そのままの語りであるからこそ、余計に第三者には理解できない内容です
弁護団は精神薄弱を理由に責任能力に問題があると争いましたが、東京地裁は「弁護側が主張するように、被告が広汎性発達障害に当たるとしても、完全な責任能力を有していたことは明らか」として山口に無期懲役を言い渡しています
この裁判を弁護団は以下のように批判しています
弁護団は、「発達障害のリーディングケースともなる判決を放棄してしまった。これでは、発達障害の人にはどんな取調べをしても良い、虚為自白でも何でもいいから調書を取って起訴する、そしてとにかく刑務所に入れておけば良い、というものになっている」と激 しく批判しました。
「結局、被告を社会から永久に排 除せよ、ということに尽きる」(大石弁護士)。「私たち弁護人は、この裁判の場が反省と責任を被告人に自覚させ、感銘させる教育的更生の場であると考えて」来たが「本人に問題を分からせたい、現実を語らせたい、理解させたい」ということにこだわり過ぎた。 「たとえ無理でも、警察のストーリーと食い違う証拠をドンドン出していけば、また違った展開になっていたはずである」(副島弁護士)
(社会臨床雑誌 第13巻第3号より引用)
高い理想を追い求めるのは結構ですが、山口被告に「法廷は反省と自覚を促す場ですよ。感銘して更生を誓いなさい」と申し向けても理解できなかったはずです
弁護側もまた、発達障害者とどう向き合うか手探り状態であったと言えますさて、長くなりましたので一旦終了します
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